目的地に行く地図が違う
人との関係が心地よいときもあれば、なぜか疲れてしまうときもあります。その違いをよくよく見つめてみると、どうやら距離の取り方に秘密があるようです。近づきすぎると相手の気持ちに巻き込まれ、離れすぎると冷たさが生まれる。
人には、相手に寄り添いすぎてしまうタイプと、役割や境界線を大切にするタイプがあります。寄り添い型は相手の感情に敏感で、温かく支えることが得意です。しかしその反面、他人の悩みまで抱え込みやすい。境界線を保つ型は冷静で自立的な関わりをつくる一方、必要な一歩を踏み出す前に距離ができてしまうことがあります。
人間関係の距離感を「ドアの開き方」に例えると、全開にすれば相手との風通しが良くなりますが、同時に外の音や気配まで入り込んできます。半開きなら必要な情報だけ入ってきて、守られる感覚も残ります。ほとんど閉じれば安心は増えますが、相手の思いが届きにくくなっていきます。人間関係においても、この“開き具合”を場面によって変えることが大切です。
家庭でも職場でも、相手が疲れているときは少しドアを開け気味にして寄り添う。反対に、相手の課題を自分が背負い込みそうになったら、そっとドアを半分閉めて、自分の心を守る距離をつくる。その調整だけで、関係のしんどさが和らぎます。
距離感には「いつもこうすべき」という正解がありません。相手やシチュエーション、そして自分の心の状態によって、適切な距離は変わります。だからこそ、近づいたり離れたりできる柔軟さが、人間関係を長く心地よく保つ鍵になるのだと思います。わずかな調整でも、関係の温度は驚くほど変わります。自分と相手が安心していられる位置を探すこと。それが、人間関係に振り回されずに生きるための優しい方法ではないでしょうか。



