コミュニケーションとジョハリの窓
人との関わりの中で、思いがけず心がざわつく瞬間があります。
言葉を交わしているはずなのに、どこかすれ違っていくような…。
そんな経験をしたことはないでしょうか。
私自身、ある出来事をきっかけに、「人との距離感は、性格よりも“基準”で決まってくる」そんな視点を持つようになりました。当時、母の生活について関係者と話し合う場がありました。専門職としての意見と、家族としての思い。それぞれに道理はあるのに、会話のリズムがどうしても噛み合わない。互いに否定しているわけではないのに、温度差だけが残っていく。そんな不思議な時間でした。
この経験から気づいたのは、人はそれぞれ「判断のよりどころ」を持っているということ。その一つが、外的基準と内的基準という考え方。外的基準が強い人は、周囲の状況や経験者の声を参考にしながら物事を捉えます。一方、内的基準が強い人は、外からの情報を受け取った上で、最終的には「自分がどう感じるか」を大切にします。
この2つの基準は、優劣ではなく“タイプの違い”にすぎません。そして、人は環境や経験によって、その基準が移り変わることもあります。新人の頃は外的基準を頼りにし、経験を積むほど内側の感覚を尊重するようになる、という変化もその一つです。
基準の違いに気づいた瞬間、私の中で関係の見え方が変わりました。相手の言い方が強く感じられたのも、押しつけのように思えたのも、その人が“自分の基準を大切にしている”だけだったのです。そう理解したとき、胸のつかえが少しほどけました。
人間関係の摩擦は、相手を変えようとすると大きくなります。けれども、「この人はどんな基準で話しているのか」と視点を移すだけで、言葉の届け方や距離の取り方は驚くほど変わります。誰かと向き合うとき、そっと心の中で尋ねてみてください。
「いまこの人は、外の声を頼りにしているのか。
それとも、自分の内側の声を大切にしているのか。」
この小さな問いかけが、人との距離感をやわらかくし、あなた自身の心を守る“余白”をつくってくれるはずです。



