ミスコミュニケーションの構造~気づかない思い込みが会話のズレ~

小橋広市

小橋広市

テーマ:関係性コンディショニング

仕事でもプライベートでも、「そんな意味じゃなかったのに」とすれ違う瞬間は誰にでもあります。長年、研修や相談の現場にいると、人間関係の問題は“言った・言わない”よりも、「どう受け取ったか」の違いから生まれることがわかります。
アイデア女性
人は、相手の言葉をそのまま理解しているようで、実際は自分の感情や経験を通して“意味づけ”を行う生き物です。心理学では、この無意識の働きを「省略」「歪曲」「一般化」という3つのフィルターと説明します。

●必要な情報が抜け落ちるのが省略
●自分の解釈で事実をねじ曲げてしまうのが歪曲
●一部の出来事を“すべて”に広げてしまうのが一般化

フィルターは誰にでも働くため、本人は気づかないうちにズレが発生します。

ある時、社員研修の場でこんなことがありました。
チームの一人がプレゼン前に「心配なところはありますか?」と声をかけたところ、相手から「不安に思われているんだ」と誤解され、雰囲気がギクシャクしたのです。声をかけた側は“配慮のつもり”、受け取った側は“否定されたような気持ち”。ここには「歪曲」のフィルターが働いていました。本来の意図から少しズレるだけで、人は違う物語を作ってしまいます。

別の例では、ある管理職の方が「若い社員は報告をしてこない」と悩んでいました。しかしよく話を聴くと、“報告しづらい空気”を無意識につくり出していたのは管理職自身でした。部下の一人が報告に来られなかっただけで「最近の若者はみんな報告しない」と一般化が起こり、全体像が歪んで見えていたのです。視点が変わると、問題の見え方もまったく変わります。

家庭でも似た現象があります。
あるご夫婦は、「返事が短い」という理由でよく衝突していました。夫は“疲れているだけ”で「あとでゆっくり話そう」のサインとして短く返している。ところが妻の側では、「興味がない」「聞きたくない」という意味に変換されていました。これは省略と歪曲が同時に起きていたケースです。言葉そのものではなく、“自分がどう受け取ったか”のほうが強く作用してしまうのです。

ミスコミュニケーションは、能力や相性の問題ではありません。
人間はもともとそうした認識のクセを持っている。その仕組みに気づけるかどうかで、人間関係の負担は大きく変わります。仕組みを理解していると、相手の言葉に反応しすぎず、「いま、私はどのフィルターを通して見ているんだろう」と一歩引いて考えられるようになります。それだけで関係がやわらかくなることを、私は現場で何度も見てきました。

最後に、ミスコミュニケーションを減らすための小さな視点を。
コミュニケーションは、
●情報をイメージに変える段階
●イメージを言葉に変える段階
この2つの場面で必ずフィルターが入り込みます。

このしくみを知っておくだけで、“ズレ”は自然と小さくなります。「本当にそうなのか?」と一瞬だけ立ち止まれる人は、関係づくりが上手くいくものです。

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小橋広市
専門家

小橋広市(講師)

一般社団法人Self&Lifeコンディショニング協会

なりたい自分になる勉強会やセミナーの開催及び、居心地が良い環境の中で、生きやすくなるための講座や相互交流ができる「心ホッとコミュ」というコミュニティを開放しています。

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