67歳の躓き
怒っている相手に、つい怒り返してしまった。そんな経験は、きっと誰にでもあるはずです。
「どうしてわかってくれないの?」「なんでそんな言い方をするの?」──でも、怒りに怒りを重ねても、対話にはつながりません。お互いが「自分が正しい」と思っているときほど、言葉はかみ合わず、関係の距離は広がっていきます。
先日、ある知人宅で、ちょっとした夫婦喧嘩の場面に立ち会いました。ご亭主はお酒の匂いをさせて遅れて帰宅。奥さんは事情も聞かず、「なんで勝手に飲んでくるの?」と一喝。ご亭主も「帰ったそうそう、うるさいんや!」と応戦。私はその場にいながらも、少し離れてそのやりとりを見ていました。
客観的に見れば、どちらにも言い分があり、どちらにも偏りがある。怒りの引き金は「約束を破ったこと」だったとしても、奥さんの怒りの奥には、日頃から積もっていた不満や期待のズレがあったのだと感じました。
感情は、我慢を重ねるほどに噴き出しやすくなります。けれど、そんなときこそ、一歩引いて問いかける姿勢が、関係の空気を変えてくれることがあります。
たとえばご亭主が「付き合いやから仕方ない」と言ったとき、奥さんが「私より大事なの?」と返すと、さらに火に油を注ぐ展開になります。でも、もしこう聞いていたらどうでしょう。「そのお付き合いって、大事な仕事の方だったの?」
こんなふうに相手の言葉に“余白”を与えるような問いかけを、私は「穴埋め質問」と呼んでいます。相手の足りない言葉を、やさしく埋めてあげるような問い。責めるのではなく、知ろうとする姿勢を見せることで、言い訳ではなく説明が生まれ、感情のぶつかり合いから対話へと変わるきっかけになるのです。
もちろん、いつも冷静でいられるわけではありません。それでも、日常の中で少しずつ問いかけの型を持っておくと、いざというとき自然に言葉が出てくるようになります。怒りを抑えるというより、相手の立場に想像を向ける力。それが、関係性を守る“やさしい質問”の本質ではないでしょうか。
【小さな実践】
最近、誰かとの会話で「引っかかった一言」はありませんでしたか?
そのとき、どんな質問をしていたら、少し違う空気が流れていたでしょうか。



