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当院がお薦めする基本的な運動メニュー(前編)―若年期から壮年期の方へ―

松田友和

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テーマ:食事・運動

はじめに

糖尿病に特化した運動療法というものは、実は存在しません。
体を動かす量を増やすことは、糖尿病の有無にかかわらず、誰にとっても元気で長生きするために大切です。

今回は、当院が実際にお薦めしている基本的な運動メニューを、前編・後編の2回に分けてご紹介します。
前編では、主に若年期から壮年期の方向けの内容をお伝えします。

運動療法とは

糖尿病の治療では、食事療法・薬物療法とならんで、運動療法が大切な柱の一つとされています。
しかし、「糖尿病に効く特別な運動」というものがあるわけではありません。
国際的な糖尿病診療の指針でも、有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)を組み合わせることが薦められていますが、これは糖尿病のない方が元気に長生きするために薦められる運動と、基本的に同じ内容です。
つまり、糖尿病を持つ人にとっても、持たない人にとっても、体を動かす習慣を持つこと自体が、健康長寿への近道といえます。

歩く運動(有酸素運動)

まずは歩数を増やすことから

当院では、今より歩数を増やすことを、まず目標にしていただいています。目安は、1日7,000〜8,000歩(うち、少し息が弾む程度の速歩きなど、中強度の活動を20分ほど)です。

群馬県のある町で、高齢者を対象に20年以上続けられている研究では、日々の活動の中に、ある程度しっかり体を動かす時間が含まれている人ほど、加齢に伴う病気のリスクが低いことが示されています。
また、世界各国の約5万人分のデータをまとめた解析でも、歩数が多い人ほど、亡くなるリスクが低いという結果が報告されています。

これらはいずれも、日々の生活のようすを観察した研究であり、「歩数を増やす」という取り組みそのものの効果を検証したものではありません。
ただし、国や地域の異なる複数の大規模な研究で、同じような傾向が示されていることから、目安として十分に参考にしていただける数字だと考えています。

食後に少し歩いてみる

食後、できれば食べ終えてから30分以内に、10〜15分程度の軽い散歩を、1日のうち少なくとも1回取り入れてみましょう。

2型糖尿病を持つ人を対象にしたある研究では、毎食後に10分間歩くようアドバイスされたグループは、時間を決めずに1日合計30分歩くようアドバイスされたグループよりも、食後の血糖値の上がり方がおだやかだったと報告されています。

ただし、これは「食後に歩かなければ意味がない」ということではありません。
歩く量そのものを増やすことの効果は、時間帯にかかわらず広く認められています。
タイミングにこだわりすぎて歩く機会を逃してしまうよりも、まずはいつでもよいので体を動かすことを優先してください。
食後の散歩は、余裕があるときに取り入れると、より良い効果が期待できる、という位置づけで考えていただければと思います。

筋力トレーニング(レジスタンス運動)

歩くことに加えて、筋肉を使う運動もあわせて行うことをお薦めしています。
ここでは、道具を使わずに自宅で行える3種目をご紹介します。

下半身を鍛える「スロースクワット」

4秒かけて腰を落とし、膝を軽く曲げた状態で止め、4秒かけてゆっくり立ち上がります。
これを8回×3セット、2日に1回のペースで行いましょう。

ゆっくりとした動作で行う筋力トレーニングは、低い負荷であっても、筋肉を大きくしたり、筋力を高めたりする効果が期待できることが、研究で示されています。
運動中は息を止めず、腰を落とすときに息を吸い、立ち上がるときに息を吐くようにしてください。



体幹を鍛える「プランク」

うつぶせの姿勢から、両肘と両つま先で体を支え、頭からかかとまで一直線になるような姿勢を30〜60秒キープします。
2セットを、1日おきに行いましょう。

プランクは、主に腰痛の予防や、体の軸を安定させる目的で行っていただく種目です。
血糖値そのものを直接下げる効果を示す確かなデータは、あまり多くありません。
姿勢を保つ力や、日常生活での体の安定性を高めるための運動として取り組んでいただければと思います。



上半身を鍛える「腕立て伏せ」

机などに両手をつき、2〜3秒かけて体を下ろし、2〜3秒かけて体を戻します。
8〜10回を、無理なくぎりぎり行える角度から始め、8〜10回×2〜3セットを、2〜3日に1回のペースで行いましょう。

同じ角度で3セットとも余裕を持って行えるようになったら(目安として2週間程度)、壁→机→膝をついた姿勢→通常の腕立て伏せ、というように少しずつ角度を変えて負荷を上げていきます。
角度を変えることで負荷を細かく調整するこの考え方は、スロースクワットと同じ、無理のない範囲から少しずつレベルアップしていくという発想に基づいています。


※強度は「壁→机→膝つき→通常」の順に上げていきます。まずは無理のない角度から始めましょう。

安全に行うための注意点

運動には多くの良い効果がありますが、いくつか気をつけていただきたい点があります。

  • 運動中は息を止めないようにしましょう。特に力を入れるときに息を止めると、血圧が大きく上がることがあります。腰を落とすときに吸い、力を入れるときに吐く、という呼吸を意識してください。
  • 増殖網膜症や、重症の非増殖網膜症がある方は、力むような動作や、頭を大きく下げるような動作を伴う激しい運動により、目の中で出血が起こるリスクが高まることがあります。運動の強度や方法について、主治医にご相談ください。
  • 足の感覚が低下している方(糖尿病神経障害がある方)は、痛みなどに気づきにくく、思わぬケガにつながることがあります。運動の前後に、足に傷や異常がないか確認する習慣をつけましょう。
  • 立ちくらみが起きやすい方(糖尿病自律神経障害がある方)は、急に立ち上がる動作などで体調を崩しやすいほか、運動中の心拍や血圧の反応に異常が出ることもあります。動作はゆっくり行い、無理をしないようにしましょう。
  • インスリンや、一部の飲み薬(SU薬など)を使用している方は、運動によって血糖値が下がりすぎることがあります。運動前後の補食や血糖測定について、あらかじめ主治医・スタッフにご相談ください。


体調に不安がある場合や、持病がある場合は、運動を始める前に、必ず主治医にご相談ください。

まとめ

糖尿病に特化した特別な運動というものはなく、今回ご紹介した歩行と筋力トレーニングの組み合わせは、健康で長生きするために、多くの方にお薦めできる基本のメニューです。

ただし、ご紹介したのは、いずれもよく知られた基本的な運動です。
これさえ行っていれば万事がうまくいく、というわけではありません。
今回の内容はあくまでも基本編であり、これ以外にも、体を動かす方法には多くの正解があります。
ぜひ、ご自身に合った運動を、少しずつ探していっていただければと思います。

まずは、今より少しだけ体を動かす時間を増やすことから、始めてみませんか。

後編では、壮年期から老年期の方向けの運動メニューをご紹介する予定です。

参考文献

American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026(身体活動・運動の項). doi.org/10.2337/dc26-S005
青栁幸利.健康長寿を実現するための至適な身体活動:中之条研究.日本腎臓リハビリテーション学会誌.2025;4(1):15-21. doi.org/10.60371/jjrr.4.1_15
Paluch AE, et al. Daily steps and all-cause mortality: a meta-analysis of 15 international cohorts. Lancet Public Health. 2022;7(3):e219-e228. doi.org/10.1016/S2468-2667(21)00302-9
Reynolds AN, Mann JI, Williams S, Venn BJ. Advice to walk after meals is more effective for lowering postprandial glycaemia in type 2 diabetes mellitus than advice that does not specify timing: a randomised crossover study. Diabetologia. 2016;59(12):2572-2578. doi.org/10.1007/s00125-016-4085-2
Tanimoto M, Ishii N. Effects of low-intensity resistance exercise with slow movement and tonic force generation on muscular function in young men. J Appl Physiol. 2006;100(4):1150-1157. doi.org/10.1152/japplphysiol.00741.2005
Tanimoto M, et al. Effects of whole-body low-intensity resistance training with slow movement and tonic force generation on muscular size and strength in young men. J Strength Cond Res. 2008;22(6):1926-1938. doi.org/10.1519/JSC.0b013e318185f2b0

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松田友和
専門家

松田友和(内科医)

医療法人社団翠藍 糖尿病内科まつだクリニック

糖尿病専門クリニック。糖尿病専門医による薬物療法に加え、認定看護師や療養指導士など糖尿病専門スタッフがチームで食事療法や運動療法も行う。フットケア外来、禁煙外来、糖尿病患者友の会「ばんぶぅ会」もある。

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