脂質異常症と食事との関係について
はじめに
前編でお伝えしたとおり、糖尿病に特化した運動療法というものは、実は存在しません。
体を動かす量を増やすことは、糖尿病の有無にかかわらず、誰にとっても元気で長生きするために大切です。
後編からお読みになる方にもわかりやすいよう、基本的な内容については、前編と一部重複してご紹介します。
後編となる今回は、主に壮年期から老年期の方向けの内容をお伝えします。
この年代では、筋力の維持や向上だけではなく、今の体の機能を保つことや、転倒を防ぐことに重点を置いた運動も大切になります。
運動療法とは
運動療法の基本的な考え方は、前編でお伝えした内容と変わりません。
有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)を組み合わせることが、国際的な糖尿病診療の指針でも薦められています。
これに加えて、壮年期から老年期の方には、バランス能力を保つための運動も、大切な柱の一つとして加わります。
転倒は、骨折や、その後の生活の質の低下につながることがあるため、日頃からの備えが重要です。
歩く運動(有酸素運動)
歩数の目安
目安は、前編と同じく1日7,000〜8,000歩(うち、少し息が弾む程度の速歩きなど、中強度の活動を20分ほど)です。
歩くこと自体が難しい場合は、まず1日2,000歩程度(10分ほどの外出や家事など)を目標にしてみましょう。
歩数と病気のリスクとの関係については、前編でご紹介した中之条研究や、世界各国のデータをまとめた解析でも示されている通りです。
60歳以上の方では、1日6,000〜8,000歩を超えたあたりから、それ以上歩数を増やしても、リスクの低下はゆるやかになる傾向があると報告されています。
無理に歩数を追い求める必要はありません。
食後に少し歩いてみる
食後の散歩については前編でご紹介した通りです。
食後、できれば食べ終えてから30分以内に、10〜15分程度の軽い散歩を、1日のうち少なくとも1回取り入れてみましょう
筋力トレーニング(レジスタンス運動)
歩くことに加えて、筋肉を使う運動もあわせて行うことをお薦めしています。
椅子や壁など、支えを使いながら安全に行うことが大切です。
スロースクワット(椅子サポート付き)
椅子を後ろに置き、4秒かけて腰を落とし、膝を軽く曲げた状態で止めます。
お尻は椅子に軽く触れる程度にとどめ、体重を完全に預けないようにしましょう。
4秒かけてゆっくり立ち上がります。
これを8回×3セット、2日に1回のペースで行いましょう。
きつい場合は、5回から始めても構いません。
ゆっくりとした動作で行う筋力トレーニングは、高齢の方を対象にした研究でも、太ももの筋肉の厚みや、膝を伸ばす力を増やす効果があることが報告されています。
運動中は息を止めず、腰を落とすときに息を吸い、立ち上がるときに息を吐くようにしてください。
プランク
うつぶせの姿勢から、両肘と両つま先で体を支え、頭からかかとまで一直線になるような姿勢を30〜60秒キープします。
2セットを、1日おきに行いましょう。
きつい場合は、膝を床につけたまま行っても構いません。
秒数よりも、まっすぐな姿勢を保つことを優先しましょう。
プランクは、主に腰痛の予防や、体の軸を安定させる目的で行っていただく種目です。
血糖値そのものを直接下げる効果を示す確かなデータは、あまり多くありません。
姿勢を保つ力や、日常生活での体の安定性を高めるための運動として取り組んでいただければと思います。
バランス訓練(転倒予防)
壮年期から老年期にかけては、転倒を防ぐためのバランス訓練を、新たな柱として加えることをお薦めしています。
3種目とも、壁や手すり、しっかりした椅子の背もたれなど、いつでも手を伸ばせる支えのそばで行ってください。
ここでご紹介する3種目は、簡易版であっても、日常に取り入れる意味は十分にあります。
これらは、ニュージーランドで開発された「オタゴ運動プログラム」という転倒予防プログラムの一部です。
本来のプログラムは、下肢の筋力トレーニングとバランス訓練をあわせて17種目ほどから構成され、専門家が一人ひとりの体の状態を見ながら、数か月かけて段階的に負荷を上げていく、個別指導型のものです。
当院では、その中から、自宅で支えを使いながら安全に行える代表的な3種目を選んでご紹介しています。
専門家による個別の評価や、段階的な負荷調整までは再現できていませんが、まずは自宅で気軽に始められることを優先しました。
片脚立ちについては、この動き単独でも転倒が減ったという報告があります。
横歩きやつま先立ちについても、下肢の筋力やバランスを立て直す力を養う基本的な動きであり、バランス能力を保つための入り口として役立ちます。
片脚立ち
支えのそばで、片方の足を床から5〜10cmほど持ち上げ、30秒程度(難しい場合は、保てる時間から)キープします。
左右1セットとして、1日2〜3セット行いましょう。
転倒しやすい高齢の方553人を対象にした研究では、この片脚立ちを毎日行ったグループで、転倒の回数が少なくなったことが報告されています。
一方で、骨折の予防については、はっきりとした差は確認されませんでした。
転倒そのものを防ぐための運動として、取り組んでいただければと思います。
横歩き(サイドステップ)
支えのそばで、両足を肩幅程度に開き、つま先を正面に向けたまま、片足を横にゆっくり一歩踏み出します。
反対の足をそろえるように、横にゆっくり動かします。
この動きを繰り返し、左右それぞれ30秒程度を目安に、1日2〜3セット行いましょう。
この運動は、ニュージーランドで開発された、バランス訓練を中心とした運動プログラム(オタゴ運動プログラム)に含まれる種目の一つです。
このプログラム全体を行った高齢者では、転倒の発生が約3割少なかったという報告があります。
横歩きだけを取り出して効果を検証した研究ではなく、プログラム全体としての効果である点にご留意ください。
つま先立ち・かかと立ち
支えのそばで、かかとを上げてつま先立ちを10回、次につま先を上げてかかと立ちを10回行いましょう。
こちらも、先ほどのオタゴ運動プログラムに含まれる基本の種目です。
足首まわりの筋力や、体のバランスを立て直す力を鍛える運動として位置づけられています。
ラジオ体操(別枠のお薦め)
ここまでご紹介した運動を補うかたちで、ラジオ体操もあわせてお薦めしています。
ラジオ体操第一は、約3分間の中に、柔軟性・バランス・下半身の筋力・全身持久力といった要素がバランスよく含まれており、すでに動きを知っている方が多いことも大きな利点です。
可能であれば毎日、少なくとも週3〜5日程度を目安に行ってみましょう。
全国の高齢者約11,000人を対象にした調査では、ラジオ体操を行っている人で、認知症になるリスクが低い傾向がみられました。
また、心身が弱った状態(フレイル)やその前段階にある高齢者を対象にした12週間の試験では、ラジオ体操を続けることで、敏捷性やバランス、持久力の向上がみられ、運動を続ける自信も維持されたことが報告されています。
ただし、この試験では、生活の質そのものの改善までは、12週間という期間では確認されませんでした。
安全に行うための注意点
運動には多くの良い効果がありますが、実際に運動を行う際には、いくつか気をつけていただきたい点があります。
基本的な注意点は前編と共通ですが、後編でご紹介したバランス訓練では、転倒にも十分注意が必要です。
- 運動中は息を止めないようにしましょう。特に力を入れるときに息を止めると、血圧が大きく上がることがあります。腰を落とすときに吸い、力を入れるときに吐く、という呼吸を意識してください。
- 増殖網膜症や、重症の非増殖網膜症がある方は、力むような動作や、頭を大きく下げるような動作を伴う激しい運動により、目の中で出血が起こるリスクが高まることがあります。運動の強度や方法について、主治医にご相談ください。
- 足の感覚が低下している方(糖尿病神経障害がある方)は、痛みなどに気づきにくく、思わぬケガにつながることがあります。靴下や室内履きを着用し、運動の前後に、足に傷や異常がないか確認する習慣をつけましょう。
- 立ちくらみが起きやすい方(糖尿病自律神経障害がある方)は、急に立ち上がる動作などで体調を崩しやすいほか、運動中の心拍や血圧の反応に異常が出ることもあります。動作はゆっくり行い、無理をしないようにしましょう。
- インスリンや、一部の飲み薬(SU薬など)を使用している方は、運動によって血糖値が下がりすぎることがあります。運動前後の補食や血糖測定について、あらかじめ主治医・スタッフにご相談ください。
- バランス訓練は、転倒のリスクを伴います。必ず壁や手すり、しっかりした支えのそばで行い、慣れてきても油断せず、無理をしないようにしましょう。
体調に不安がある場合や、持病がある場合は、運動を始める前に、必ず主治医にご相談ください。
まとめ
壮年期から老年期にかけては、運動の目的も少しずつ変わっていきます。
筋力や体力を高めることに加えて、今ある体の機能を保つこと、転倒を防ぐことも大切になります。
歩くこと、筋力トレーニング、バランス訓練を無理のない範囲で組み合わせ、できることから続けてみてください。
毎日すべてを行う必要はありません。体調や体力に合わせて、ご自身に合った方法を取り入れていくことが大切です。
年齢を重ねても、体を動かすことに「遅すぎる」ということはありません。
これからも自分らしく生活を続けるために、歩くこと、筋力を保つこと、バランスを保つことを、できる範囲から日々の生活に取り入れてみてください。
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