Mybestpro Members

松田友和プロは神戸新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

安価な抗老化薬としてのメトホルミンの可能性

松田友和

松田友和

テーマ:糖尿病治療薬

はじめに

2025年末、NHKスペシャルで「メトホルミン」という糖尿病治療薬が取り上げられ、大きな話題となりました。この薬が、実は老化を遅らせる可能性があるというのです。100年近く前から使われてきた安価な薬が、なぜ今注目されているのでしょうか。

メトホルミンとは

メトホルミンは、2型糖尿病の治療に長年使われてきた飲み薬です。血糖値を下げる効果があり、世界中で最も広く処方されている糖尿病治療薬の一つとなっています。
この薬の特徴は、安全性が高く、副作用が少ないことです。そして何より、1錠あたり10円程度という低価格で入手できます。すでに数十年にわたって世界中で使用されており、その安全性は十分に確認されています。

なぜ老化を遅らせる可能性があるのか

メトホルミンが注目される理由は、糖尿病を持つ人だけでなく、健康な人の寿命も延ばす可能性が示唆されているからです。
動物実験では、メトホルミンを投与されたマウスやラットの寿命が延びることが確認されています。さらに、人を対象とした観察研究では、メトホルミンを服用している糖尿病を持つ人の総死亡率が、糖尿病を持たない人と比べても低い傾向があるという興味深い結果が報告されています。
つまり、糖尿病という不利な条件があるにもかかわらず、メトホルミンを飲んでいる人の総死亡率が低かったのです。ただし、これはあくまで観察研究の結果であり、メトホルミンの直接的な効果かどうかを確認するには、さらなる研究が必要です。

メトホルミンが老化に影響するメカニズム

メトホルミンがどのように老化を遅らせるのか、そのメカニズムについてはまだ完全には解明されていません。しかし、いくつかの可能性が考えられています。

ミトコンドリアと老化の関係

まず、老化とミトコンドリアの関係について理解する必要があります。ミトコンドリアは細胞内の「エネルギー工場」と呼ばれる小器官で、私たちが生きていくために必要なエネルギーを作り出しています。
年齢を重ねるにつれて、このミトコンドリアの機能が低下していきます。ミトコンドリアの機能低下は、老化の主要な原因の一つと考えられています。機能が落ちたミトコンドリアは、エネルギーを効率よく作れなくなるだけでなく、細胞を傷つける物質を多く産生してしまいます。

細胞のエネルギー工場への作用

メトホルミンは、このミトコンドリアに直接作用します。この作用により、細胞がより効率的にエネルギーを使うようになり、老化のスピードが遅くなる可能性があります。

炎症を抑える効果

慢性的な炎症は、老化を早める要因の一つです。メトホルミンには、この炎症を抑える効果があることが分かっています。

長寿遺伝子の活性化

メトホルミンは、AMPK(エーエムピーケー)という酵素を活性化させます。このAMPKは「長寿遺伝子」とも呼ばれ、細胞の健康維持に重要な役割を果たしています。

TAME試験:人での効果を確かめる大規模研究

メトホルミンの抗老化効果を科学的に証明するため、2015年から「TAME試験(Targeting Aging with Metformin試験)」という大規模な臨床研究が進行中です。

TAME試験の概要

この研究は、アメリカで実施されている非常に野心的なプロジェクトです。

対象者

  • 65歳から79歳までの健康な高齢者
  • 糖尿病を持たない3,000人以上

研究の目的

メトホルミンが老化に伴う病気の発症を遅らせるかどうかを確かめることです。具体的には、心筋梗塞や脳卒中、がん、認知症などの発症リスクが下がるかを調べます。

研究方法

参加者を2つのグループに分け、一方にはメトホルミンを、もう一方には偽薬(プラセボ)を6年間投与します。そして、両グループを比較して、病気の発症率や死亡率に差があるかを検証します。

TAME試験の意義

この研究が成功すれば、「老化そのもの」を治療の対象とする時代が始まります。これまで、医学は個々の病気を治療することに焦点を当ててきました。しかし、老化を遅らせることができれば、複数の病気を同時に予防できる可能性があるのです。
2015年の開始から既に10年が経過しており、結果が出るまでにはあと数年かかる見込みですが、世界中の研究者が注目しています。

イメグリミン:メトホルミンを超える可能性

メトホルミンの研究が進む中、新たな薬剤「イメグリミン」にも期待が集まっています。

イメグリミンの特徴

イメグリミンは、日本で開発された新しい糖尿病治療薬です。メトホルミンと同様に、ミトコンドリアに作用する薬ですが、いくつかの点で優れた特徴があります。

メトホルミンとの違い

  1. より直接的にミトコンドリアを保護する
  2. 副作用が少ない可能性がある

イメグリミンは、日本では2021年に糖尿病治療薬として承認され、すでに臨床現場で使用されています。メトホルミンと同様に、実際の診療で使われることで安全性が確認されている点も重要です。

今後の展望

イメグリミンがメトホルミンと同様の抗老化効果を持つかは、まだ研究段階です。しかし、ミトコンドリアを守る作用がより強いことから、老化予防の面でも期待されています。
今後、イメグリミンについても、TAME試験のような大規模研究が行われる可能性があります。すでに糖尿病治療薬として使用されており安全性が確認されているため、抗老化薬としての研究もスムーズに進む可能性があります。

まとめ

100年近い歴史を持つメトホルミンが、老化を遅らせる薬として再注目されています。安価で安全性も高いこの薬が、人類の健康寿命を延ばす鍵となるかもしれません。
2015年から進行中のTAME試験の結果が、その答えを教えてくれるでしょう。また、日本発のイメグリミンにも、同様の期待が寄せられています。イメグリミンもすでに糖尿病治療薬として使用されており、その安全性は確認されています。
ただし、現時点ではメトホルミンを「アンチエイジング薬」として健康な人が服用することは推奨されていません。TAME試験をはじめとする研究結果を待つことが重要です。
科学的なエビデンスに基づいた抗老化医療の実現に向けて、研究は着実に進んでいます。これからの展開に注目していきましょう。

引用文献

1. Bannister CA, et al. Can people with type 2 diabetes live longer than those without? A comparison of mortality in people initiated with metformin or sulphonylurea monotherapy and matched, non-diabetic controls. Diabetes Obes Metab. 2014;16(11):1165-73.
2. Martin-Montalvo A, et al. Metformin improves healthspan and lifespan in mice. Nat Commun. 2013;4:2192.
3. Barzilai N, et al. Metformin as a Tool to Target Aging. Cell Metab. 2016;23(6):1060-1065.
4. Campbell JM, et al. Metformin Use Associated with Reduced Risk of Dementia in Patients with Diabetes: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Alzheimers Dis. 2018;65(4):1225-1236.
5. Kulkarni AS, et al. Benefits of Metformin in Attenuating the Hallmarks of Aging. Cell Metab. 2020;32(1):15-30.
6. TAME Trial (Targeting Aging with Metformin). American Federation for Aging Research. https://www.afar.org/tame-trial
7. UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. Effect of intensive blood-glucose control with metformin on complications in overweight patients with type 2 diabetes (UKPDS 34). Lancet. 1998;352(9131):854-65.
8. López-Otín C, et al. The Hallmarks of Aging. Cell. 2013;153(6):1194-1217.

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

松田友和
専門家

松田友和(内科医)

医療法人社団翠藍 糖尿病内科まつだクリニック

糖尿病専門クリニック。糖尿病専門医による薬物療法に加え、認定看護師や療養指導士など糖尿病専門スタッフがチームで食事療法や運動療法も行う。フットケア外来、禁煙外来、糖尿病患者友の会「ばんぶぅ会」もある。

松田友和プロは神戸新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

チーム体制で患者を支える糖尿病医療のプロ

松田友和プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼