異性化液糖について考える~後編:健康の観点から~
はじめに
清涼飲料水や菓子パンなどの原材料名のなかに、果糖ぶどう糖液糖やぶどう糖果糖液糖などという単語をみたことはありませんか。いずれも異性化液糖という、ぶどう糖と果糖が混合した液状の糖を指します。実は、ジュースや菓子パンの甘味成分は、砂糖だけではありません。今回は、異性化液糖について考えてみたいと思います。
食品表示サポート.COMのホームページより
甘味料について
甘味料として真っ先に浮かぶのは砂糖です。実は、砂糖以外にも様々な甘味料があります。
砂糖以外の甘味料は、戦後の砂糖不足の時代には単に砂糖の代わりとして使用されてきました。現在は、コストの問題や健康の問題など、様々な事情で砂糖以外の甘味料の使用が増えてきています。使用量で言えば、異性化液糖は砂糖に次いで利用されている甘味料とも言えます。
甘味料は、糖質系甘味料と非糖質系甘味料に大別されます(下図参照)。糖質系甘味料は天然にも存在しますが、食品に利用されるものの殆どは天然の素材を原料に用いて工業的に作られています。異性化液糖も工業的に作られる糖質系甘味料ということになります。
日本甜菜製糖株式会社のホームページより
異性化液糖の作り方
1,でんぷんからぶどう糖を作る
原料はでんぷんです。でんぷんは、単糖であるぶどう糖が多数結合した構造をしています。そのため、加水分解酵素や糖化酵素を作用させることでぶどう糖を製造することができます。
2,ぶどう糖の一部から果糖に変化(異性化)させる
製造したぶどう糖に異性化酵素を作用させることで、その一部を、より甘味度の高い果糖に変化(異性化)させることで異性化糖を製造します。
異性化液糖の果糖の割合により下記の様な種類があります。
- ぶどう糖果糖液糖 :果糖50%未満
- 果糖ぶどう糖液糖 : 果糖50%以上90%未満
- 高果糖液糖 :果糖90%以上
- 砂糖混合異性化液糖 :上記の液糖に10%以上の砂糖を加えたもの。その液糖がぶどう糖果糖液糖であれば、砂糖混合ぶとう糖果糖液糖となる。
この異性化液糖製造技術のポイントである異性化酵素は、1960年代後半に日本の研究者により見いだされ、砂糖の代替として大量生産できるようになりました。さらに、キューバ革命により砂糖を輸入できなくなった米国の大手清涼飲料メーカーがこれに着目して、世界的に売り出し、広く普及するようになりました。アメリカでの一人当たり消費量は、2000年代になって、砂糖より異性化液糖の方が多くなっています(Am. J. Clin. Nutr. 81 (2): 341–54.)。日本においても、砂糖(196.5万トン):異性化糖(82.4万トン)=7:3と、異性化糖消費量は、砂糖消費量の半分弱にまで増えてきています(農林水産省2017年:日本国内の砂糖需要量と一人当たりの消費量より)。
異性化液糖の特徴
でんぷんをぶどう糖に変えただけでは、甘みが砂糖(主成分はショ糖)の70%程度しかありません。そのため、酵素の力を借りてぶどう糖の一部を甘みの強い果糖に変えるということが需要が増大しているポイントの1つになります。
以下に、異性化液糖の特徴を列記していきたいと思います。
(1) 甘みが強い
・単糖類の高い浸透圧及び低粘度により、砂糖の主成分であるショ糖よりも甘みがシャープに感じ、速やかに消失する。
・温度が低い程、甘味度が高く評価される。(5℃が最高)
・果糖分の含有量を調整することにより、甘味度の調整が可能。
(ショ糖の甘み100とした場合、果糖120-170、ぶどう糖65-80)
(2)液状であること
・ローリーやタンクで運搬、保存ができる
・水分を25%含む液状であるため、清涼飲料など液状の形態と相性の良い用途で利用されている。
(3)価格優位性があること
・異性化糖は、砂糖に比べ安価に製造できる。
(4)その他異性化糖の性質
・ショ糖に比べて結晶化しにくいため、製品製造工程での安定性がある。
・吸湿性が大きいため、保水能力・耐乾性が求められる製品に向く。
・ショ糖に比べて浸透圧が高く、防カビ効果がある。
・果糖とぶどう糖は耐熱性が弱いため、加熱により褐変しやすい。
簡単にまとめると、異性化液糖は、
1,液体であるため溶解する手間がいらない
2,ショ糖(砂糖)と比べ、甘味がシャープに感じ、低温で甘味度が増加する
などの特徴を活かして、現在は清涼飲料の原料としての利用が約5割を占めています。
これまでは、異性化液糖と砂糖との違いについてお話してきました。
実は私たちは、異性化液糖をかなりたくさん摂取しています。後編では、異性化液糖を健康の観点から考えてみようと思います。
参考資料:農林水産省農産局地域作物課作成スライド(令和5年6月)
農畜産業振興機構のホームページ