インスリン治療の実際 ~後編:インスリン治療を知る~
はじめに
食事を摂れば、膵臓からインスリンが速やかに分泌されることで、血液中の糖の濃度(血糖値)は一定に保たれています。そのため、インスリン分泌が低下している方は、食べるタイミングでインスリン注射を実施する必要があります。このインスリン注射を小型のポンプで持続的に行う方法を、インスリンポンプ療法と言います。最近では、血糖値の変動を機械が把握して、自動でインスリン注入を行い、血糖値を一定に保つことができるポンプも登場しています。そこで今回は、インスリンポンプ療法を紹介したいと思います。
インスリンポンプ療法の意義
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが不足して生じる内分泌疾患です。高血糖になっているということは、インスリン分泌が不足している状態であることを意味しています。特に、1型糖尿病と診断された方は、膵臓から分泌されるインスリン量が極めて少なくなっていることが、高血糖の要因です。そのため、治療方法として、不足しているインスリンを補うために、インスリン注射が必要となります。
インスリン治療を複雑にしている最大の要因は、食事量によってインスリンの必要量が変わるということです。インスリンの補充量が足りないと血糖値は上昇し、逆に補充量が多すぎると低血糖をきたしてしまいます。そのため、インスリン治療を行う場合も食事に合わせて注射するインスリン量を調整する必要があります。
インスリンをペン型注入器で補う場合は、食事をする度に、食事量に応じて、インスリン注射を行うわけですが、インスリンポンプ療法では、インスリンを持続的に注入していますので、食事するタイミングで、ポンプにインスリン量を入力指示することで、食事に対するインスリンを補うことが出来ます。
インスリンポンプ療法の概略
MedtronicのHPより
インスリンポンプ療法のもう1つの利点は、基礎インスリン量をデザインできるということです。生理的なインスリン分泌には、食事に時に必要なインスリン(追加インスリン)と食事に関係なく少しずつ分泌されているインスリン(基礎インスリン)があります。実は、基礎インスリンにはそれぞれの人にそれぞれの日内リズムがあるのですが、インスリンポンプ療法では、それぞれの方に応じた基礎インスリンの補充量を設定することができます。
MedtronicのHPより
進化するインスリンポンプ療法
基本的なインスリンポンプ療法に加えて、持続血糖モニタリングシステム(CGM)を組み合わせたSAP(サップ)療法と呼ばれる治療方法があります。下図に示すように、1つの機会(小型のポンプ)で血糖値をモニタリングしながら、インスリンを注入します。機種によっては、低血糖になればポンプが低血糖を察知して、インスリン注入を自動的にストップしてくれます。
MedtronicのHPより
さらには、HCL (HYBRID CLOSED LOOP: ハイブリッドクローズドループ) 療法と呼ばれる治療方法も登場しています(下図参照)。SAP(サップ)療法の進化系であるHCL(ハイブリッドクローズドループ)療法は、センサーで血糖変動を把握し、その血糖変動に応じて、機械が自動的にインスリン量を調整してくれるため、自動的に血糖値を安定化させることができます。食事を摂った際にも、自動でインスリン注入量を変更してくれますので、軽食であれば、機械に触れることなく、血糖値の急激な上昇を抑えてくれます。
HCL (HYBRID CLOSED LOOP: ハイブリッドクローズドループ) 療法
MedtronicのHPより
まとめ
医療は日進月歩と言いますが、治療薬だけでなく、治療を支える医療機器も進化し続けています。しかし、どれだけテクノロジーが進化しても、その道具を使うのは糖尿病を持つ人自身です。新しいテクノロジーを自身の健康に上手に活かしていただけるようにサポートをしていきたいと考えています。