インスリンポンプ療法
はじめに
「注射回数を減らしたい」という想いは、インスリン治療を実践されている多くの方が持たれています。
インスリン製剤には、大きく分けて2つの種類があります。1つは基礎インスリンを補う製剤(持効型インスリン)といって、1日1回投与するタイプで、もう一つは、追加インスリンを補う製剤(超速効型もしくは速効型インスリン)といって、食事ごとに投与するタイプです。
2型糖尿病を持つ方で、インスリン治療を必要とする場合は、1日1回の基礎インスリンを補う製剤を使用する場合が多いです。
そこで、今回は、治療薬として開発中の週1回投与のインスリンに関する論文を紹介させていただきます。
論文紹介
初めてインスリン治療を行う2型糖尿病を持つ人に対する1週間に1回投与のインスリンと1日1回投与のインスリンの比較
原著
Once-Weekly Insulin Icodec vs Once-Daily Insulin Degludec in Adults With Insulin-Naive Type 2 Diabetes The ONWARDS 3 Randomized Clinical Trial
JAMA. Published online June 24, 2023. doi:10.1001/jama.2023.11313
研究の目的
週1回投与の基礎インスリンを補う製剤であるicode(イコデック)の安全性と効果を確認すること
研究の方法
経口血糖降下薬では血糖の管理が難しくなり、インスリン治療を開始する2型糖尿病を持つ人々(HbA1cが7~11%)を対象に、週1回投与の基礎インスリンを補う製剤であるicode(イコデック)と、1日1回投与のインスリンデグルデクを比較する。
イコデック群は週1回のイコデックと1日1回のプラセボを使用し、デグルデク群は1日1回のデグルデクと週1回のプラセボを使用した。
インスリンの投与はいずれもペン型デバイスを用いて皮下注射した。
開始用量はイコデック 70単位/週、デグルデクは10単位/日とし、自己測定した血糖値に基づいて用量を調整した。
空腹時血糖の目標域は80~130mg/dLとし、超えていた場合はイコデックは週20単位、デグルデクは1日3単位を増量した。
逆に目標域を下回った場合は、同じ単位を減量した。
研究の結果
〇 HbA1c値の変化(26週間後)
週1回投与 イコデック群:8.6% ⇒ 7.0% に減少
1日1回投与 デグルデク群:8.5% ⇒ 7.2% に減少
改善したHbA1cの差は -0.2%であり、統計学的に、非劣性かつ優越性を示した。
〇 空腹時血糖、体重の変化(26週間後)
週1回投与 イコデック群:空腹時血糖値 -54mg/dL, 体重変化 +2.8kg
1日1回投与 デグルデク群:空腹時血糖値 -54mg/dL, 体重変化 +2.3kg
いずれの値も統計学的な差はなかった。
〇 低血糖の出現(31週の追跡終了時点まで)
レベル2の低血糖(※)は、イコデック群の26人に53回、デグルデク群の17人に23回起こっていた。
レベル3の低血糖(※)はイコデック群には起こらず、デグルデク群では2人に2回起こっていた。
レベル2とレベル3をあわせた人・年当たりの発生率は、イコデック群が0.31回、デグルデク群が0.15回だったが、率比は1.82(0.87-3.80)で差は有意ではなかった。
一方、0~26週ではそれぞれ0.35回と0.12回で、率比は3.12(1.30-7.51)となり、イコデック群で有意に多かった。両群ともに発生率は人・年当たり1回に満たなかった。
※低血糖のレベル分類
レベル1;血糖値54~69 mg/dl
放置すると無自覚性低血糖の原因となりレベル2、3の低血糖リスクが高まる
レベル2;53 mg/dl以下
レベル3;血糖値レベルと無関係に人の助けを要する場合
まとめ
今後の新薬を目指している週1回投与型の基礎インスリンを補う製剤であるイコデックは、既存の1日1回投与の基礎インスリンを補うインスリン製剤と比べて、安全性および効果に対して、少なくとも劣勢ではないことが確認されました。
1日1回投与と比較して、1週間に1度の投与でも、安全性や効果に遜色がないということは大きな意味があります。
週1回投与の基礎インスリンを補う製剤の製品化に向けて、大きな一歩になったのではないでしょうか。
この結果ももって、すぐに新薬として発売されるわけではありませんが、そう遠くない将来、私たちの手元に届くのではないかと期待しています。