地域医療の向上を目指して
2022年5月12日から5月14日にかけて、神戸にて開催された日本糖尿病学会年次学術集会において、糖尿病内科まつだクリニックから3つの演題を発表してきました。
前回から3回シリーズで、学会で発表した内容をご報告させていただいています。
第2回のタイトルは、
『糖尿病であることを「恥ずかしい」と感じる要因と療養行動への影響』
です。
【研究の目的】
糖尿病を持つ人が、健康な人と変わらない人生を歩むための障壁の1つとして、スティグマ(負の烙印)が注目されています。
スティグマについては、当コラムでもご紹介させていただきました(糖尿病診療における「スティグマ」と「アドボカシー」を考える)。
スティグマ形成においては、糖尿病診療に携わる医療従事者の関与も示唆されています。糖尿病診療の現場からスティグマを払拭していくためには、まずは現状を把握することが重要です。そこで、糖尿病患者においてスティグマの要因となり得る背景の評価、および糖尿病療養に及ぼす影響を検討することを目的としました。
【研究の方法】
インターネット調査会社のモニター登録者を対象に、スクリーニング調査を実施し「2型糖尿病で診療を受けている」と回答した人に、広域アンケート調査を行いました。
患者特性、SDSCA(自己管理行動)、TSRQ-DJ(自律的動機・統制的動機)、SESD(自己効力感)、PAID-5(うつ傾向)、WHO-5(精神的健康指標)の各尺度票、およびセルフスティグマの指標として、
「あなたは糖尿病であることを、同僚や友人など周りの人に伝えていますか?」
「あなたは、糖尿病であることを恥ずかしいと思うことはありますか?」
との問いを設定しました。
【研究の結果】
・「恥ずかしい」と回答した方は全体の32.9%(168人/510人)、「伝えていない」と回答した方は、17.5%(89人/510人)でした。
・「恥ずかしい」と感じている割合は、「伝えていない」人は「伝えている」人の2.63倍でした。
・男性より女性が、「恥ずかしい」と感じている割合が有意に高いという結果でした。
・恥ずかしさと、罹患年数、合併症の有無、教育入院の有無、家族歴の有無、学歴とは関連を認めませんでした。
・若いほど、BMIが高いほど、経済負担感が強いほど、恥ずかしく感じていることがわかりました。
・恥ずかしいことは、総合的な自己管理行動との関連は認めませんでしたが、抑うつ傾向の高さ、自己効力感(やればできるという感覚)の低さ、精神的健康指数の低さと関連していました。
・統制的動機づけ(「人からいわれるから」「やらないと怒られるから」などの外部からの刺激により行動を起こす、という動機」)と恥ずかしさは有意に関連していた。
【研究の結論】
糖尿病を恥ずかしいと感じている人の背景には特徴があり、その恥ずかしさは糖尿病療養に影響を及ぼしている可能性が示唆されました。自己効力感や統制的動機づけなど、療養支援により介入できる要素もあると考えています。