【Vol.4】「頑張っても意味がない」と感じたら、ケアラーとしての第二段階

前回(vol.5どうしたらいいのか、の答えをどこで見つけたらいい?)では、自分の違和感をキャッチして、自分なりの評価軸を育てる手掛かりにしましょう、というお話をしました。
では、自分なりの評価軸が持てると、それが今のあなたにどう影響するか、今までのあなたに無かったものは何なのか、というお話をしたいと思います。
1.自分の評価軸を持つことで、自分はどうなるか
前回のおさらいになりますが、「自分の違和感をキャッチして育てた評価軸」が出来上がると、私たちはどうなるでしょうか。
今の私たちが何かを決めたり答えを出そうとしたとき、判断基準(評価軸)になっているのが「相手(病気の家族・支えられている人)」の状態です。次に「世間の目」「第三者の評価」です。
しかしこれらは「多分そうなんだろう」という予測ですよね。確定した情報ではありません。だから常に変化する。
例えば交通ルールが毎日変化したらどうでしょう。昨日までは「青=進め」だったのが「青=止まれ」になったとしたら、道を歩くときすら気を抜けません。
そんな馬鹿なルールはないよ、と思ったかもしれませんが、他人の気分や状態を評価軸に生きるとはそう言うことです。
その逆が、自分の評価軸をもって生きる、ということです。
自分の評価軸が明確になると、例えばこんな感じですね。
- どちらにしようか決められない、ということが減る
- 他人の声、他人の目を重視しすぎることが無くなる
- 自分の選択・決断・行動に一貫性が生まれる
- 「自分で決めている」という実感が自信を高めてくれる
- 間違った!と思っても、もう一度評価軸に戻って考えなおせる
当然法律などとは違うから、これも変化することはあります。でも根拠は「自分」ですから、何故変えることになったのか、いつから変わるのか、変わったことによる影響も把握できます。
他人を軸に判断するより、ずっと自由で、安心出来るようになるのです。
2.自分(ケアラー)が自分の評価軸で動くと、周囲はどう反応す
では、自分の評価軸で判断・行動するようになると、それは周囲にどう影響するのでしょうか。
ここはケアラーの事例で見ていきましょう。
うつ病になった夫を支えて2年になるAさん。
夫の発症からずっと、「少しでもリラックスして安定し、症状が出ないように過ごしてもらいたい」と考えて、様々な工夫や苦労を続けてきました。
最初の頃はそれによって効果が実感出来、自分に自信ももてて良かったのですが、年単位にもなれば自分への無理やストレスも無視できなくなっています。
とうとう耐え切れなくなり相談にいらっしゃいました。
まず私から「ご主人の状態だけじゃなく、そのときAさんはどうしたいのか、は、考えたことがありますか?」とお尋ねしました。しかしAさんから中々お返事が返って来ませんでした。
当然ですよね、そうしたものを全て封印して2年間踏ん張って来たのですから。
それからは、ご主人の状態に合わせることは続けつつ、「自分はどうしたいのだろう」という問いを、自分に対して繰り返していたそうです。
すぐには思いつかないときも、あとから「そう言えば……」と気づいたり、同じ状況になった時に思い出したりしたそうです。
そしてある時にご主人に、「あなたはどっちがいい? 私は○○にしたいんだけど」を、ごく普通に言えたそうです。言ってから、自分でびっくりしたそうです。
この体験の後、少しずつ「自分はどうしたいのか」を言葉や選択に含めることが増えていったそうです。
そしてAさんが驚いたのは、そうしたところでご主人の状態が悪化したり、言い争いになったり、ご主人が何かを我慢しているようなことも無かったそうなのです。
実はAさんがこれを恐れていました。
「私がどうしたいのか、を表明することで、夫の状態に影響するのでは」
ですがそれは杞憂だったのです。
もちろん、影響がおきない範囲での「私のしたいこと表明」だから、でもあるでしょう。しかし毎日の生活では、まずはここから始めることが重要なのです。
これを続けることによって、ではさらにAさんご夫婦にどんな変化が起きるか。
それもまたいずれお話したいと思います。
3.その反応が、ケアにどう関わってくるか
ケアラーが「自分は本当はどうしたいのか」を掴んで、評価軸として活用することは、かなりダイレクトにケアに影響します。
まず第一に、迷いが減ります。
普段私たちは生活やサポートをするとき「どうすることが正しいのか」を探そうとします。
例えば相手が「今日、通院日だけど、行きたくない」と言い出したら。
「どうすることが正しいのか」、めちゃくちゃ迷いますよね。
『行きたくないと言ってるんだから、それを尊重すべき』と「相手軸」で考えた場合。
間違ってはいないです。しかし後から「やっぱり無理にでも連れて行けばよかったのでは」という後悔がわいてくる可能性は高いですよね。
『予約してるんだし、先生への印象が悪くなったら今後の信頼関係が悪化するかも、だから行かなきゃ』と「主治医軸」で考えた場合。
無理して連れて行って帰って来た後に家族が寝込んだりしたら、「自分のせいだ」と激しく落ち込むでしょう。無理をした分主治医の印象が良くなったかどうかも分からないし。
ではここで、自分の評価軸で判断すると、どうなるか。
例えば『行きたくない、という家族の気持ちを尊重したい、けど、鵜呑みにしもしたくない』と感じたとしたら。
行きたくない、という気持ちは否定しない
なぜ行きたくないのか、を話し合う
行かない場合、なにか問題が起きないか、を二人で探る(例:薬が足らなくなる、など)
キャンセル電話は自分でかけてほしい、と伝える
みたいな対応になるでしょう。
これも一つの流れの例であって、「どうして行きたくないの?」を話し合っている途中で「やっぱり行く」と言い出したりもします。
これから、予定通り通院した後で本人がぐったりしても、キャンセルして受診日を変えたとしても、ケアラーが不必要に自分を責めることはありません。
ケアラーが「自分はどうしたいのか」を評価軸にすることで、ケアが一方通行ではなくなり、「一緒に向き合う課題」に変化するのです。
4.ケアが変わると、それがまた自分に戻ってくる
自分の違和感から評価軸まで育て、それを基準に判断・選択・行動するようになることで、ケアへの向き合い方が少しずつ変化していきます。
今までは「家族(支えられている人)の状態を守ること、悪化させないこと、少しずつでも回復してほしい」という目標を、自分が直接達成させようとし、そのために自分がどう思うか・どうしたいか、には向き合わずに過ごしてきました。
それを見直し、「家族のための選択」をするために「自分はどうしたい?どうありたい?」を問いながら生活するようになって、ケアに対する向き合い方が変わっていきます。
すると、「自分の気持ちや欲求、考えを封じ込めなくていいんだ、そのほうが迷うことも後悔することも減って、もし間違えたとしてもやり直すことも難しくないんだ」ということに気づいていきます。
これって、どういうことだと思いますか?
自分の意思に沿って生きることが、間違いじゃない、むしろ納得して過ごせることだ、と言う体験です。
これはそのまま自信につながります。
自分に自信が持てれば、心が安定します。
安定すれば、余裕が生まれます。
少しずつでも余裕が生まれると、安心出来ます。
もちろん、まだケアはこれからも必要です。
でも、以前は無かった「安心」が得られます。
その第一歩が、「自分を見る」ということなのです。
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