会社の会議:ファシリテーションを活用するために:上司の理解を得るためのヒント

小川芳夫

小川芳夫

テーマ:ファシリテーション

このコラムはビジネスパーソンの方々を対象として書いています。

「ファシリテーションを会議に活用したい。どうしたら上司の理解を得られるのだろう。何かヒントは?」という課題の解決方法について考えるコラムです。

このコラムで言う会議とは、単純な情報伝達の場ではなく、下記3つの合意をする場とします。

  • 会議参加者全員で、課題について議論し、課題解決のための打ち手を合意形成すること
  • 各々の打ち手について、誰が何をいつまでに何の役割を持って実施するのかを合意形成すること
  • 各々の打ち手について、今後どのように実施状況を追跡するのかを合意すること


どんな上司に対しても効く特効薬のような解決方法はないと思います。上司によって対策は異なると思います。とはいえ、何も方法がないわけではありません。

このコラムは次の3つの章で構成します。10分程度で読める量です。


さて、会議参加者の不満のトップ5は、下記だそうです。
(出所:朝日新聞 「カイシャの会議」

  1. 時間が長い
  2. 結論が出ない、物事が決まらない
  3. 目的がはっきりしない
  4. 自由に発言しにくい
  5. 参加者が多すぎる

n=157なので、ちょっと少ないような感じがしますが、私が伺っている肌感覚とほぼ一致するものとなっています。従業員の方とお話させていただくと、会議をもっと良くしたいと考えておられる方が多いです。

私は中小企業の経営者の方とお話をさせていただく機会があります。経営者の方々は「うちの会議はうまくいっている」と自己評価しておられる方が多いと感じます。

実際、数名の従業員と社長で会社を運営しているところは、うまくいっているのかもしれません。ただ、私の肌感覚とは異なる結果だったので、違和感を感じました。

もしかすると、経営者と従業員との間でズレがあるのかもしれないと。

私の違和感が正しいとすると、いきなり社長や上司の方に「うちの会議を変革しましょう」と言っても、「いきなり、何言ってるの?」と取り付く島もない返答になってしまうかもしれません。

一方、従業員のモチベーションを上げつつコストを下げたい、ということを考えている経営者や上司は多いのではないか、と思います。

「従業員のモチベーションを上げつつコストを下げたい」という経営者や上司の方の気持ちに向き合うアプローチが1章の「正面から向き合う方法」です。

「いきなり、何言ってるの?」と取り付く島もない感じの経営者や上司の方に向き合うアプローチが2章の「側面から控えめに打ち手を打ち続ける方法」です。

私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。

ファシリテーション。Facilitationという名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター (facilitator) と言います。


1. 正面から向き合う方法


従業員のモチベーションを上げつつコストを下げたい、ということを考えている経営者や上司の方は多いと思います。

もし、あなたの会社・組織がこれに該当するのであれば、上司に正面からぶつかってみるというアプローチは有効だ、と私は考えます。

定量的なデータで説得する

定量的なデータを示しながら、会議の変革を提案します。

まず、コストを削減したい、という課題に対処するためには、会議の現状を分析して、どれくらいのムダがあるのかを見える化することが必須です。
『会議やワークショップの悩み・課題を解決するのが難しい理由』 という私のブログから、エクセルのスプレッドシートをダウンロードすることができます。スプレッドシートの使い方はブログに書いてあります。会議のムダ、組織のムダがいくら位になるのかをシミュレーションしていただきたいと思います。なお、簡単な式は使っていますが、マクロは使っておりませんので、安心してシミュレーションしていただけると思います。

会社が従業員に使うコストは、支払われる月給や賞与だけでなく、会社が払う確定拠出年金や保険料、さらに光熱費や家賃などオフィスコストなどを加えた金額になります。上司の方と一緒にシミュレーションしてみても良いかもしれませんね。

定性的なメリットで説得する

定量的なデータに加えて、定性的なメリットも示しながら、会議の変革を提案します。

私は以前、『会社の会議:不要な会議がもたらす悪影響を考える:今理解すべき3つの視点』 というコラムを書きました。冒頭で触れた会議参加者の不満、これらの不満を課題と捉えて、課題を放置すると、どうなるのかを考察したコラムです。下記3点を指摘しています。不要な会議がもたらす悪影響であり、解決すべき課題と考えられます。

  1. 仕事に取り組む姿勢(モチベーション・充実感)が下がる。
  2. 「残業することが当たり前」から脱却できなくなる。
  3. スキル(特にホワイトカラーが労働市場で評価されるもの)を研鑽する時間が取れない。


会議の課題を解決することができれば、下記のメリットを得ることができます。

  1. 仕事に取り組む姿勢(モチベーション・充実感)が上がる。
  2. 残業が減る。(ワークライフバランスの改善)
  3. 個々人が成長し、その結果、組織が成長し、会社が成長する。


冒頭で会議参加者の不満をリストしましたが、具体的にあなたのチーム(組織)の人に、会議についてどんな不満があるのか、その不満(課題)が解決されたらどうなのか、クイックにアンケートを取ると、現実味が増します。あなたのチームの定性的なデータになります。

上司の方が会議を変革することに興味を示したら、是非ファシリテーションの価値を説明していただきたいと思います。簡潔明瞭に説明してください。

簡潔明瞭に説明するのに役立つ、PREPという自分の考えを相手に分かりやすく伝えるためのフレームワークがあります。論理的に説得力のある話の構成を考えるフレームワークです。
PREPは、Point(結論)、Reason(理由)、Example(具体例)、Point(結論)の4つの頭文字で、PREPの順に簡潔に話します。
例をあげます。

  • 結論(Point):会議の課題を解決すべき。
  • 理由(Reason):現状の会議には、コスト面と従業員の体験価値の両面での課題がある。ファシリテーションを活用することで課題解決が期待できる。
  • 具体例(Example):上記の定量的に分析したエクセルのスプレッドシートと、定性的に考察したメリット。
  • 結論(Point):会議の課題を解決するためにファシリテーションを試験的に試行することを提案する。


ファシリテーションの試行が決まったら、試行する会議を選び、ファシリテーターを入れて実際に開催することが、次のステップになります。

私BTFコンサルティングからの提案は、『会社の会議:BTFコンサルティングの使い方(対面対応):お客様のご成長のために』 というコラムに書いたアプローチです。そのコラムの3章で具体的なステップを提案しています。

ここでは、下記のステップを説明しましょう。

ステップ2で、「ファシリテートされた会議やワークショップにご参加いただくために」という、会議やワークショップにご参加の方々を対象にした半日の研修を提案しています。ファシリテーターが入る会議と、入らない会議は異なります。参加者の方々にも知っておいていただきたいことがありますので、ファシリテーターが入る会議に参加する前に、事前に受講していただきたい内容です。
ファシリテーターが入る会議は、今までの会議と何が異なるのかメリットを理解していただくための内容です。人は変わることに抵抗するものです。良いものに対してでも、悪いものに対してでも。ここを丁寧に対応することはとても重要です。

ステップ3で、「お客様の実際の会議やワークショップに私がファシリテーターとして入らせていただく(ファシリテートされた会議やワークショップのご体験)」を提案しています。ステップ2で参加者の方々に「ファシリテーターが入る会議はこう変わりますよ」とご理解いただきます。頭でご理解いただく、というものです。さらに、できるだけ「いつもの会議がどう変わるのか」という体験をしていただく、という提案です。百聞は一体験に如かずです。

ステップ4と5は、ファシリテーター候補の方に向けた、ファシリテーションに必要なスキルを身につけていただくための研修です。ファシリテーションは座学や研修だけで身につくものではありません。リアルな会議で研鑽しながらスキルアップしていくものです。その意味で、はじめの一歩とも言うべき研修です。


2. 側面から控えめに打ち手を打ち続ける方法

そもそも会議に対して課題を感じていない上司に対する打ち手です。

まず、あなたがファシリテーションについて、基本を理解していることが前提になります。
私のファシリテーションでいうと、下記4つのステップです。


いきなり雑談から始まる会議、いきなり議論から始まる会議。そういう会議に出たご経験をお持ちの方、いらっしゃると思います。『場を作る』 の1章に書いた会議の目的と目標を、会議参加者として確認してみてはいかがでしょう?

例えば、目的であれば、「すみません。この会議の目的を確認させてください。私は、◯◯と理解しています。正しいでしょうか?」といった具合です。目標であれば、「この会議の終了時に到達したいゴールは何になりますか?簡単にお話しいただけますか?」といった具合です。会議の冒頭で、目的と目標が明確になると、会議が引き締まります。

そもそも、雑談や議論から会議を始める人たちは、目的と目標について、各自バラバラなことをイメージしていることが多いものです。これでは、どこまで議論したら会議が終わるのか、全く合意されずに会議の時間を費やすことになります。目的地を決めずにドライブしているようなものです。いつ何処に着くのかわかりません。

議論の途中で論点がずれる。そういうご経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。
例えば、「この会議の目的は◯◯だったと思います。今の議論は△△についてのように感じるのですが...」と、やんわりと脱線していることを指摘する、というやり方があります。もし、「△△は◯◯につながっているんだよ。だから議論しているんだ。」と切り返されたら、「なるほど、わかりました」と相手の考えを受け入れ、そして「あと□□分で目標のゴールに到達するためには◯◯を優先してはいかがでしょう?△△はパーキングロットにいったん置いて、今は◯◯について議論しませんか?」と提案してみてはいかがでしょう?

私BTFコンサルティングでは、リアルな会議では、模造紙を1枚用意し、それをパーキングロット(駐車場)と名付けて壁に貼ります。「本題の議論ではないが後で議論した方が良い」といったものはパーキングロットに書き出します。パーキングロットに書き出して、参加者全員から見えるようにします。こうすることで、太字議論を脇道にそらした意見が忘れ去られることがありません。議論を脇道にそらした人の不満を減らすことになります。このやり方は、議論の場を、誰の意見を否定したり無視したりしない、安心安全な場にすることに役立ちます。
オンライン会議では、『会社の会議:BTFコンサルティングの使い方(オンライン対応):お客様のご成長のために』 で説明しているクラウド上のホワイトボードを使います。

『会社の会議:会議を活性化する:議論を見える化しよう』で主張している議論の見える化。これを実践していただきたいと思います。まずは、ご自分のノート使って書いてみてはいかがでしょう?

誰かが、「何やってるの?」と聞いてきたら、しめたものです。「この会議で話し合われていることを理解したくて、議論の見える化をしているんです。」と答えてみていただきたいと思います。きっと、「議論の見える化」が初耳の人はびっくりすることでしょう。もしかしたら、「次の会議でホワイトボードを使って、その見える化ってのをやってくれないかなぁ。」と依頼されるかもしれません。

こうなれば、みんなが「議論の見える化」の強力さに気付く機会を得たことになります。数回「議論の見える化」をすると、みんなもだんだん慣れてくると思いますので、そうしたら、この章の最初にリストしたファシリテーションの4つのステップを使って、ファシリテーターとして活躍する機会が訪れる可能性が高い、と私は思います。

ノートに議論の見える化をしていると、何故今この議論をしているのか不明になり、フラストレーションを感じてしまうことがあるかもしれません。

言葉だけで話をしている人たちは、なんとなく雰囲気にまかせて話を続けていて、いつの間にか話が飛んでいることに気づかない、ということがあります。時間のムダです。「すみません。今までの議論について、私の理解を確認させていただいてよろしいでしょうか?」と切り出し、「先ほどまで◯◯について議論していたと思います。今は△△について議論していると思います。私、何故◯◯から△△に話が移ったのか、よく分からなくなってしまったのです。ここはどう理解すれば良いのでしょうか?」といった具合です。自分の意見を言うのではなく、自分の理解を助けて欲しいという感じの問いを投げるのです。

この章で提案したことは地道なアプローチに見えるかもしれません。このアプローチを実施する人は、ファシリテーションの基礎力を培うことができるというメリットがあると思います。また、一緒に会議に参加している人たちに、よい意味での刺激を与えることができるとも思います。


3. 会議の文化を変えよう


1章の正面から向き合うアプローチでも、2章の側面から控えめに打ち手を打つアプローチでも、是非、あなたのチーム(組織)の会議文化を作り変えることに挑戦していただきたいと私は考えます。

あなたのチームの「会議のグラウンド・ルール」を作るのです。

『会社の会議の進め方:場を作る:今理解すべき3つの視点』で書いた、「目的と目標は会議のインビテーションに明記すること」と取り決め、「会議の冒頭では、事前に周知した目的と目標をリマインドする」も取り決める。これだけでも、会議は変わります。会議が引き締まります。

あなたのチームの会議は、何ページにも及ぶ長い資料の説明から始まることはありますか?もし、YESであれば、それはこのコラムの会議の定義から外れます。会議ではありません。説明会です。本当に説明会を開催することが必要なのか、チームのみんなで吟味すべきです。説明会に出て内職する人がいるかもしれません。内職は効率が悪いですよね。しっかり集中して仕事したいですよね。みんなで集まる必要のある時に集まる。
このような説明会に対する対案は、資料を事前に配布して、会議に参加するときには各自自分の意見や質問を持って参加する、このことを自分たちの会議文化とする、ということです。

配布された資料を理解するためには、確認したり、質問したり、そういうことが必要ですよね。例えば、slackなどのツールを活用して、みんなで理解を深めたらいかがでしょう。キーポイントは必要な人に公開されたオープンなやりとりをすること(変な官僚組織的な根回しではなく)、それから、できるだけ非同期なコミュニケーションを活用して、みんなの貴重な時間や集中を邪魔しないこと、です。

これを実現するには、ネットワーク型組織のようなアプローチが良い、と私は考えています。
『組織力強化:コロナ禍のリーダーシップ:ファシリタティブなリーダーシップとは』で解説したネットワーク型です。

説明会のない会議は、目的と目標をリマインドした後、すぐに議論が始まるので効率が良いです。事前にslackなどで、非同期コミュニケーションを活用して、ある程度煮詰めておけば、かなり中身の濃い議論ができます。

あなたのチームの会議は、会議の最後で結論を確認することを避けるような傾向はありますか?そもそも結論を出さない傾向はありますか?責任を取りたがらない人たちがいる場合、そうなってしまうかもしれません。コロナ前の平時であれば、それでも通用する余裕のあるチームだった、ということなのでしょう。コロナ禍の今、そんな余裕、というかそんなムダが許されるチームは存在しないはずだ、と私は考えます。

冒頭で会議を定義しました。下記3つの合意をする場としました。

  • 会議参加者全員で、課題について議論し、課題解決のための打ち手を合意形成すること
  • 各々の打ち手について、誰が何をいつまでに何の役割を持って実施するのかを合意形成すること
  • 各々の打ち手について、今後どのように実施状況を追跡するのかを合意すること


いわゆるTo Doを合意して会議を終わること。これをグラウンド・ルールに明記し遵守することが必要かもしれません。

その他に、どんなグラウンド・ルールがあるでしょう。いくつか候補になりそうなものをリストしておきましょう。

  • 人の話をよく聴く。自分と違う意見にこそ傾聴を!
  • 相手を非難しない。相手の意見を理解した上で自分の意見を!
  • 恥ずかしがらずに発言する。積極的に発言を!
  • わからないことは訊く。わからないことは恥ずかしくない!
  • 思い込みを捨てる。先入観や固定観念を捨てて議論に参加を!


是非、あなたのチームに合った会議文化を、メンバー全員で作りあげていただきたい、と思います。

なお、リアルな会議だけでなく、オンライン会議でも、このコラムに書いたことは実施できます。『会社の会議:BTFコンサルティングの使い方(オンライン対応):お客様のご成長のために』 をご参照ください。

このコラムの最後に、私のような外部のファシリテーターを活用することの効用について、私の考えを書きます。

ファシリテーションが浸透するまでは、上司や同僚から批判的な意見を聞くことがあるかもしれません。人は変化に対して抵抗するものです。良いものに対してでも、悪いものに対してでも。ですから、批判的な意見は、ある意味当たり前とも言えるようなことなのです。

とはいえ、上司はあなたの人事評価者でしょうから、このことをリスクと捉えてしまうかもしれませんね。ネガティブに考えてしまうかもしれません。

その上司の方は、私の人事評価者ではありませんし、批判的な意見を私はリスクだとは思いません。
私は、「人と人が議論し合意形成をする、この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにすること」をするファシリテーターであり、ファシリテーションの効果を知っていただく好機だと捉えます。

私のビジネスの目標は、私が培ったものを還元することで、ファシリテーションを活用して会議の悩みや課題を解決することによる会議の変革です。そして、ファシリテーションを核としてビジネス変革を実現できる人材を育成することに貢献したい、ということも目標です。ですから、批判的な意見に対しては、丁寧に対応することで、納得をしていただけるよう努めます。私にとって好機なのですから。

あなたのチーム(組織)にファシリテーションがある程度浸透するまでは、外部のファシリテーターを活用し、浸透した後はあなたがファシリテーターとしてご活躍していただく。こんなアプローチもあります。私は現実的なアプローチだと思います。



最後までお読みいただきありがとうございました。 
 
 
 

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小川芳夫
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小川芳夫(ファシリテーター)

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小川芳夫プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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