奇抜・派手はコンプレックスの裏返し 美しい身だしなみ
こんにちは。ホスピタリティコンサルタントの菅又蒼圭美です。
以前のコラム「まずは型を身につける」で、型を身につける意義を7つご紹介しました。基礎が固まること、品質が安定すること、自信が持てること。研修の現場でも、いちばん反響が大きかったテーマです。
その7つの中に、こんな一文を書いていました。
「茶道、華道、武道などの日本の伝統文化では、型を通じてその精神や哲学を伝え、世代を超えて受け継いでいます。」
あれから時間がたち、この一文がいちばん大切だったのではないかと考えるようになりました。今回から数回にわたって、「型」と「受け継ぐこと」、そして「働く人のキャリア」についてお話ししたいと思います。
「今日、私は百パーセントじゃなかったんです」
客室乗務員だった頃、忘れられないフライトがあります。
函館から羽田へ向かう便でした。私の担当エリアに、東京の病院へ搬送されるため、担架で搭乗された男性がいらっしゃいました。意識のない状態でした。
着陸態勢に入る前、安全ベルトを確認していると、その男性がふっと目を開けて私を見つめ、「あんた酒井和歌子に似てるな」とおっしゃいました。そして、また意識がなくなりました。
それを見ていた奥様とお嬢様が、涙を流しながら「最後に空の上で天使に会えてよかった。ありがとう」と言ってくださいました。
ありがたいお言葉でした。けれど、私の中には釈然としない気持ちが残りました。
「私は、この方が最後に見た人間になったかもしれない。その資格が、私にあったんだろうか。」
私は先輩のところへ行き、「今日、私は百パーセントじゃなかったんです」と、アドバイスを求めました。
先輩の答えは、こうでした。
「あなたはお客さまの前では笑顔だけれど、それ以外では真顔だ。」
その通りだと思いました。それ以来、私は常に笑顔でいること、そして細かい部分により一層目を配ることを心がけるようになりました。
心を反省するのではなく、形を変える
今ふり返ると、あのとき私が変えたのは「気持ち」ではありませんでした。「常に笑顔でいる」という、目に見える形でした。
研修では、身だしなみや所作といった「形」から整えていただくことが多いです。形が変わると、まわりの方の反応が変わります。反応が変わると、本人の気持ちも少しずつ変わっていきます。私はこれを「形に心が伴っていく」とお伝えしています。
目に見える形でなければ、心は相手に伝わりません。だから、まず型が大切なのだと思います。
そして、その型を私に手渡してくれたのは、先輩の一言でした。
型は、誰かから受け取ったもの
私が客室乗務員として身につけた立ち居振る舞いや言葉づかいは、自分で考え出したものではありません。
型には、それを作り、守り、伝えてきた人たちの経験が詰まっています。型を身につけるということは、技術を覚えると同時に、先に歩いた人たちから何かを受け取ることでもあるのだと思います。
受け継ぐ型が、キャリアを支える
キャリアというと、「自分は何がしたいのか」「どうステップアップするか」を考えることだと思われがちです。もちろん、それも大切です。
ただ、型の視点から見ると、もう一つの問いが見えてきます。
「自分は、誰から何を受け取ってきたのか。そして、誰に何を渡していくのか。」
型を受け継ぐ仕事のしかたには、次のような良さがあると考えています。
一人で抱え込まなくていい 型には先人の工夫が詰まっています。迷ったとき、私が先輩に答えを求めたように、立ち返る場所があります。
今いる場所で深めていける 職場を変えなくても、同じ型を何年もかけて深めていくことができます。道を極めることも、立派なキャリアだと思います。
年齢を重ねるほど、役割が増える 受け取る側だった人は、いつか渡す側になります。経験を重ねた方ほど、次の人に手渡せるものを持っています。
働くことの誇りが、次の世代に残る 型と一緒に、「この仕事をどう大切にしてきたか」という心も伝わります。
次の人へ、渡していく
私は、働くことの意味は「働く人の尊厳を守り、それを次の世代に残していくこと」だと考えています。型は、その尊厳を次の人へ手渡すための、いちばん身近な道具なのかもしれません。
あの日、先輩から受け取った「常に笑顔で」という型は、今、研修でお会いする皆さんへ渡していくものになっています。
明日からできること
ご自分の仕事の中で、「これは誰かに教わった」と思える型を一つ思い出してみてください。言葉づかい、段取り、道具の扱い方、何でも構いません。それを教えてくれた方の顔が浮かんだら、その型は、もうあなたが受け継いだものです。


