まずは型を身につける
こんにちは。ホスピタリティコンサルタントの菅又蒼圭美です。
前回は、客室乗務員時代に先輩から「常に笑顔で」という型を受け取ったお話をしました。今回は、それよりずっと前、私が小学生だった頃のお話です。
養護の先生の隣の席から
子どもの頃の私は乗り物に弱く、遠足のバスではいつも養護の先生の隣に座っていました。
窓の外を眺めるのにも飽きて、私はバスガイドさんをよく見ていました。見える施設をすべて紹介できて、歌も歌える。その姿に、ずっと憧れていました。
ある年、前の年と同じバスガイドさんに当たりました。私の顔を覚えていてくださって、こう声をかけてくれたのです。
「私のまねをしてガイドしてみたらどう?」
最初は遠慮しましたが、思い切ってクラスメートの紹介をしてみると、大うけして、みんなが笑ってくれました。
あのときの嬉しさは、今もよく覚えています。
「まねしてごらん」は、型の手渡し
今ふり返ると、あのバスガイドさんがしてくださったのは、型を手渡すことだったのだと思います。
説明書を渡すのでも、心構えを説くのでもなく、「私のまねをしてごらん」。目の前で見せた形を、そのままやってみる。日本の稽古ごとと同じ、いちばん古くて確かな教え方です。
そして、まねをしてみたら、みんなが笑ってくれた。形をなぞっただけなのに、そこから「人に喜んでもらうのは楽しい」という気持ちが生まれました。前回お話しした「形に心が伴っていく」を、私は小学生のときにもう体験していたのかもしれません。
なれなかった道も、途切れてはいなかった
実は、私はバスガイドにはなれませんでした。年齢制限があったのです。
けれど、あの遠足のバスの思い出は消えませんでした。乗り物の中で、お客様に喜んでいただく仕事。その憧れが、客室乗務員という仕事につながっていきました。
言葉にしていたら、道がつながった
「遠足でバスガイドに憧れて」という話を、私はずっと人に話してきました。2022年に山梨新報さんの取材を受けたときも、この話をしました。
すると、その記事をご覧になった、地元のバスガイドさんの取りまとめをされている方が、声をかけてくださったのです。
今、私はバスガイドの仕事をさせていただいて3年ほどになります。主に小学生の修学旅行を担当しています。
遠足のバスで、バスガイドさんを見上げていた子どもが、今は子どもたちの前でマイクを握っています。あの日受け取ったものを、今度は私が渡す番になりました。
受け取ったものは、形を変えて続いていく
この経験から、キャリアについて考えていることがあります。
憧れは、「まね」から始まっていい 最初から自分らしさを出さなくても大丈夫です。憧れの人の形をまねることが、いちばんの近道になることがあります。
なれなかった道も、無駄にはならない 一度あきらめた夢でも、そこで受け取ったものは、形を変えて次の仕事に生きていきます。
言葉にしていると、道がつながる 私の場合、ずっと話していた憧れが、思いがけない形で実を結びました。「夢はことばにしていれば叶う」と、私は思っています。
受け取った人が、いつか渡す人になる 年齢を重ねるほど、次の人に手渡せるものは増えていきます。
明日からできること
子どもの頃、あるいは仕事を始めたばかりの頃に「あんなふうになりたい」と憧れた人を、一人思い出してみてください。そして、その人のどんな形をまねしてきたか、考えてみてください。もしかすると、あなたの今の仕事のどこかに、その人から受け取ったものが生きているかもしれません。


