危機意識と、危機管理 ~10歳の子供の事例を考える~

松本尚典

松本尚典

テーマ:補助金 危険 リスク



1、10歳の子供が発言した、「富士山は休火山です!」発言


話は、今から、半世紀以上も前のこと(笑)。僕の、ある思い出話からスタートします。

当時、僕は、私立M小学校の4年生、10歳でした。クラスでも、勉強はかなり得意で、上位の学力を一貫して保っていた僕は、今から考えると、少々生意気な子供だったのだと思います。

時は、社会科の時間。担任のS先生が、おそらくは、地理の授業をされていたのだと思います。

その中で、S先生が、富士山を死火山だと言われました。すかさず、僕は、手をあげて、
「先生!富士山は、死火山ではなく、休火山です!」
と、発言しました。

S先生は、おそらく、予習をきちんとせずに、感覚で話をされたのだと思います。
間違いを指摘されたS先生は、結構、むきになって、
「いや、松本君。富士山は、完全に、火山としては、活動の可能性のない死火山だ。間違いない。」
と言われました。

僕も、子供ながらに真面目に反論しました。
「富士山は、竹取物語の中に、噴火の記述が残っており、江戸時代にも噴火の記録があります。今後も、富士山の噴火の可能性はありますので、休火山です!」

学友たちは、わいわい騒ぎだして、お調子者の生徒が、
「先生とまっちゃん、どっちが正しいかな?」
などと、はしゃぎます。

S先生は、
「よし!俺が間違っていたら、松本君に、アイス奢ってやる!」
と、冗談交じりに発言し、その時間は、そんな状況で、授業は終わりました。

その日の夕方、僕が自宅で、勉強をしていると、家に来客があり、母親が、
「S先生がいらっしゃったわよ。」
と僕を、呼びに来ました。

家の門のところで、先生は、僕に、山のようなアイスクリームを、袋いっぱい、僕に手渡され、
「松本君。調べたら、君の言うとおりだった。
間違えたことを教えるところだった。申し訳ない。ありがとう。」

そして、翌日、S先生は、みんなの前で、富士山は松本君の言う通り、休火山でした、と訂正されました。

僕は、山のようなアイスクリームを、楽しんで数日間、食べることが出来たのです。

この半世紀前の思いでを、僕は、今、富士山の大噴火の可能性が高まっているニュースを見る度、思い出すのです。僕以外の生徒たちは、当時、富士山が死火山だろうが、休火山だろうが、どうでもよかったと思いますが、しかし、今、富士山を死火山だと思い込むような危機意識のヒトがいるとすれば、それは危機管理能力を疑われます。

世界遺産の富士山は、今、その形態が激変するほどの大噴火のリスクが高まっているのです。

2、45歳で、S先生と再会


小学校卒業後、僕は、私立M小学校の上の中学にあがらず、別の中学に進み、高校・大学と、中央大学附属高校・中央大学に進みました。

多くの生徒が、一貫校で上に進学するM小学校の同窓会に参加することもなく、そのまま、僕は銀行に就職し、そこからアメリカの大学院留学とアメリカでの仕事に入りました。

留学も含め、12年間のアメリカ生活をえて、僕は、40歳で日本に戻り、日本の大企業の役員に就任してました。

そんな中、僕が本名で発信していた、当時のツイッターを、M小学校の同窓生が見つけ出し、同窓会の中心メンバーが、僕にアクセスをしてくれました。そんな、経緯から、僕は、30年ぶりで、小学校の同窓会に出席し、学友と再会することになったのです。

そこの場に、S先生も出ておられました。S先生が話し始めたのは、上記の社会科の富士山の思い出話でした。

面白おかしく、そして、「当時から松本君は、非常に賢い子だった。」ということを話されるS先生のお話しが懐かしく、そこから、S先生と僕は、個人的なお付き合いをしたり、呑みに2人でいくような、子弟を越えた関係に入りました。

3、55歳の経営者「御宿移住は、危険です!」発言


そして、昨年。
S先生から、僕に、LINEが入り、2人で呑みに行った席で、S先生から、こう切り出されました。

「実は、まっちゃんと、今回でお別れのつもりで、今日、呑みに誘ったんだ。」

S先生の言うことには、千葉県の御宿に、格安の土地があり、そこに家を建築して、老後、そこを「終の住処」とすることにした、というのです。

御宿は、南房総でとても温かく、海が非常にきれいで、のんびりと過ごすには、とてもよい、とS先生は言われます。

せっかく、S先生の人生構想ですから、今後の豊かな老後の生活を祝して、乾杯をしましたが、僕には、大きな心の不安が残りました。

御宿は、千葉県の館山や木更津とは異なり、東京湾の中、つまり内房ではありません。完全に太平洋に面した外房エリアです。東日本大震災で、津波による被災した街と同様、太平洋で津波が発生すると、それを防ぐものは存在しません。

現在、南海トラフ大地震や首都圏直下型大地震が予想される中、御宿は、非常に危険なエリアに属します。そのため、千葉県の内房と違って、そこに新たに移住するには、相当なリスクを覚悟しなければなりません。おそらくは、そのようなリスクゆえに、人口流出が止まらず、土地の価格や移住の補助なども検討しやすかったのかもしれません。

加えて、歳をとり、クルマの運転が自由にできなくなると、人口過疎地で知り合いがいない都心からの移住者は、孤立する可能性があります。

その土地で生まれ育った人ならばともかく、高齢になった夫婦が新たに移住するには、少々リスクが高いのではないかと思ったわけです。

その時、僕が思い出したのは、S先生の小学校に授業でした。富士山を死火山だと言いはったことでした。富士山の噴火のリスクを全く考えていなかったS先生は、高齢になっても、移住先のリスクに対する危機意識が欠如しているなあ、と、思ったわけです。

既に、御宿に移住したS先生と、僕は、もう会うことはないでしょう。S先生が、大地震による津波などの被災を、御宿で被らないように、僕はひそかに祈っています。

4、危機意識は、危機管理の前提


危機管理は、その前提として危機意識の自覚からスタートします。

サイバーテロにせよ、自然災害にせよ、危機意識があってはじめて、危機管理がスタートします。例えば、組織の中で、法的な規制があるから消防の火災訓練を行っても、組織のメンバーが、危機意識を持たない場合、その訓練は、単なる行事か、お祭りにすぎなくなります。

今、日本では、自然災害の激甚化が深刻になり、かつ、差し迫った危機として、南海トラフ大地震や、首都圏直下型地震、それに連動する富士山の大爆発などのリスクが高まっています。もし、そのリスクが顕在化すれば、千葉県の外房から鹿児島県に至る広域のエリアで、巨大な津波が発生する可能性が指摘をされています。

このような危機を適切に管理し、それがいつ起きても、冷静に対処し、それを乗り越えるための備えを企業や家庭の中に持っておかなければ、その突然に襲来する危機を乗り越えられません。

その危機を乗り越える管理は、これらの災害を明確に意識することからスタートするのです。

日常の多忙な中でも、このような危機を明確に意識し、それを想定して乗り越えるための備えをすることが重要になると、僕は思っています。

5、経営における危機管理の重要性~中小企業こそ備えよ!~


今、南海トラフ大地震や首都圏直下型震災、そして富士山の噴火は、単なるSFの想像上の危機ではなく、常にいつおきてもそれに対応できるように備えをしておく現実のリスクとなっています。

危機に対応し、それが現実化した時には、冷静な判断と対応のもとに、一刻も早い復旧を行い、事業を災害対応型に切り替えて、いち早く復旧をなしとげた企業から、災害の復興がはじまります。

その対応をするためには、危機を想定し、それを現実に意識をすることが不可欠です。

富士山は死火山ではなく、いつ噴火してもおかしくない休火山です。
そして、東日本大震災で起きたような津波が、関東から九州にかけて、襲い掛かってくるリスクもあるのです。

このような危機意識を持ち、それに備え始めることが、個人にも企業にも求められているのです。

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