年収のカラクリ ~年商5億円を超えた経営者たちの、自分の年収の決め方の技~
1、経営者にとって、ココロの健康は意思決定を支える重要な資本である
経営者にとって、身体の健康と同じように、ココロの状態を整えることは重要です。
私は長年、経営コンサルタントとして多くの経営者と仕事をし、自分自身も事業を経営してきました。
その経験から感じるのは、経営者という仕事には、外から見ただけではわかりにくい精神的な負荷があるということです。
売上が落ちる。
資金繰りが厳しくなる。
重要な社員が辞める。
大口の取引先を失う。
投資した新規事業が計画どおり進まない。
海外事業で予想外の問題が起こる。
人事について難しい決断をしなければならない。
経営をしていれば、こうした問題は避けて通れません。
そして、最終的な意思決定をするのは経営者です。
社員や専門家から意見を聞くことはできます。
しかし、最後に、
「やるのか、やらないのか」
「投資するのか、撤退するのか」
「採用するのか、しないのか」
「誰に任せるのか」
を決め、その結果について責任を負うのは経営者です。
ここに、経営者という仕事の難しさがあります。
私は、経営者に必要な「強さ」とは、何があっても動揺しないことではないと思っています。
経営者も人間です。
不安になることもあります。
迷うこともあります。
判断に自信を失うこともあります。
疲れることもあります。
それ自体を弱さと考える必要はありません。
むしろ危険なのは、
「経営者なのだから、弱音を吐いてはいけない」
「自分一人で解決しなければならない」
「この程度の問題で疲れる自分は弱い」
と考え、問題を抱え込んでしまうことだと私は思っています。
強い経営者とは、一人ですべてを耐える人ではありません。
自分の状態を客観的に見る。
必要なら休む。
人へ相談する。
専門家の力を借りる。
自分が抱える必要のない仕事は、人へ任せる。
そして、重要な意思決定を行える状態へ自分を戻す。
こうした自己管理ができることも、経営能力の一つです。
経営者にとって、ココロの健康とは、単に「気分よく働くため」のものではありません。
冷静に情報を受け取り、異なる意見を聞き、不確実な状況で意思決定を続けるための、重要な経営資本なのです。
私自身、経営を長く続ける中で、このことを強く意識するようになりました。
会社の数字を管理する。
資金を管理する。
人材を管理する。
時間を管理する。
そして同じように、自分自身の状態も管理する。
オーナー経営者にとって、自分自身もまた、会社を動かしている重要な経営資源の一つだからです。
2、マインドフルネスから学ぶ、「今」に意識を戻すという考え方
経営者のココロの状態を考えるうえで、私が興味深いと思っている考え方の一つに、マインドフルネスがあります。
マインドフルネスという言葉は、現在では広く知られるようになりました。
私はこれを、特別な精神修養としてではなく、
「過去や未来へ際限なく広がっていく思考を、一度、今ここへ戻すための方法」
として捉えています。
経営者の頭の中には、常に過去と未来があります。
「あの時、別の判断をしていればよかった」
「あの社員を辞めさせるべきではなかった」
「あの投資をするべきではなかった」
という過去への後悔。
一方では、
「来月の資金繰りはどうなるのか」
「重要な顧客を失ったらどうするのか」
「新規事業が失敗したらどうするのか」
「この会社を将来、誰に引き継ぐのか」
という未来への不安があります。
過去を検証することも、未来を予測することも、経営には必要です。
しかし、それを考え続けることと、経営判断のために考えることは同じではありません。
過去について考えるなら、
何が起きたのか。
原因は何だったのか。
次に同じことを起こさないため、何を変えるのか。
ここまで考えたら、経営上の検証はいったん終了できます。
未来についても同じです。
何が起こる可能性があるのか。
その確率と影響はどの程度なのか。
何を準備しておくのか。
どの時点で行動するのか。
ここまで決めれば、その後は、まだ起きていない未来を繰り返し心配しても、新しい経営価値はほとんど生まれません。
私は、この区別が非常に重要だと考えています。
経営者には、過去から学び、未来を構想する力が必要です。
しかし実際に経営できるのは、「今」という時間だけです。
今日、誰と会うのか。
今日、何を決めるのか。
今日、どの商品を改善するのか。
今日、誰の話を聞くのか。
今日、一つ何を前へ進めるのか。
会社を変えられるのは、この連続です。
だから私は、頭の中が過去への後悔や未来への不安で占有されている時には、意識的に現在へ戻ることには意味があると思っています。
例えば、歩く。
食事をする。
本を読む。
静かな場所で考える。
呼吸へ意識を向ける。
目の前の一つの仕事だけに集中する。
人と話をしている時には、その人の話を聞く。
こうした行動は非常に地味です。
しかし、日々、膨大な情報と複数の意思決定を抱える経営者だからこそ、意識を一つの場所へ戻す時間を持つことには価値があります。
ただし、私は、マインドフルネスを万能な健康法だとは考えていません。
経営上の問題は、瞑想をすれば解決するわけではありません。
資金不足なら、資金繰りを改善しなければなりません。
赤字なら、収益構造を変えなければなりません。
人材問題があるなら、採用、配置、評価、組織を見直さなければなりません。
経営者がすべきことは、不安を感じないようにすることではなく、不安の原因となっている現実の問題に向き合うことです。
そのうえで、必要以上に思考を過去や未来へ奪われず、現在の問題へ集中する。
私は、そこにマインドフルネス的な発想を経営者が取り入れる意味があると思っています。
また、経営者のココロの健康を守る方法は、マインドフルネスだけではありません。
十分に休む。
睡眠を取る。
身体を動かす。
趣味を持つ。
家族や友人と過ごす。
信頼できる経営幹部を育てる。
税理士、弁護士、金融機関、経営コンサルタントなど、率直に相談できる相手を持つ。
仕事を一人で抱えず、組織へ権限を移す。
こうした環境そのものを整えることが大切です。
そして、眠れない状態が続く、気分の落ち込みが長く続く、強い不安によって日常生活や仕事に支障が出るなど、自分自身では対処しにくい状態になった場合には、精神論だけで乗り越えようとせず、医療機関など専門家へ相談することも必要です。
私は、経営者である以上、強くなければならないとは考えていません。
むしろ、長く経営を続けるためには、自分自身の限界を知っていることの方が重要だと思っています。
できないことを認める。
知らないことを認める。
疲れている時には、それを認める。
人の力が必要な時には、その力を借りる。
そして、現在、自分がやるべき一つのことへ戻る。
これは、経営においても同じです。
すべての問題を今日解決することはできません。
しかし、今日、一つの問題を前へ進めることはできます。
会社を長く経営していると、順調な時期もあれば、思うようにいかない時期もあります。
私自身も、これから先、すべてが計画どおりに進むとは考えていません。
だからこそ、経営者には、外部環境をコントロールしようとするだけではなく、自分自身の状態を整える力も必要なのだと思います。
過去から学ぶ。
未来を考える。
しかし、意識は現在へ戻す。
そして、今日できることを一つずつ実行する。
私にとって、マインドフルネスという考え方の中で、経営に最も活かせるのは、この発想です。
経営者に必要なのは、不安を感じない強さではありません。
不安があっても事実を見つめ、必要な人の力を借り、自分自身を整えたうえで、今日行うべき意思決定へ戻ること。
それもまた、長く会社を経営するために必要な経営能力の一つだと、私は考えています。


