売上5億円を超える事業を起業するタイミング ~逆風を利用して事業を起業する~
1、実は、社長の役員報酬は、設立から3か月以内に支払いを開始しないと損金算入ができなくなることを、知っていますか?
会社を設立する時点で、毎月の売上の確保がきちんとできている経営者は少ないのが、起業の現状です。売上げのめどがたっていないのに、出てゆく経費は非常に多く、設立時に払い込まれた資本金がでてゆくばかり・・・。
こんな状態の中で、経営者が会社から固定の役員報酬を受け取るということは、非常に心理的に抵抗があると思います。
僕も、長年にわたり、副業で会社を動かしていた時代、役員報酬は会社からまったく受け取っていませんでした。僕にも、自分の労力を長年にわたって会社に無償でつぎ込み、事業を作っていた時代がありました。
副業で起業する最大のメリットは、本業の収入があり、生活ができるため、作った会社から役員報酬をうけなくても生活ができ、じっくりと会社を作ることができるという点にあります。
しかし、独立して会社を経営するようになると、自分が会社から受け取る役員報酬で生活をしなければなりません。
ここで、よく犯してしまう過ちは、
「売り上げがあがってきたら、それに応じて、役員報酬をとろう」
と考えてしまうことです。
この考え、日本では非常に大きな落とし穴があるのです。
かりに、それをやってしまうと、その役員報酬が法人税の損金算入にできなくなり、多大な法人税が課税されてしまうという事態に陥ります。
2.なぜ、役員報酬の損金算入に制限があるのでしょうか?
役員報酬は、会計上は自由に費用に計上できますが、法人税法上の損金としては、算入にかなりの制限があります。
法人税で損金算入できる役員報酬は、決算(設立一期目の法人の場合は設立)から3か月以内に、振り込みが開始される固定報酬しか、損金算入が認められません(特別な手続きをとれば、それ以外でも認められる場合もありますが、細かい手続きを要する話なので、ここでは固定報酬だけ、と記載します)。
例えば、決算が3月の法人の場合、5月分の役員報酬を、月額30万円と株主総会で決議し、6月30日までに振り込みを開始すれば、年間360万円が損金に算入できますが、その後の12月に会社に利益がでたから、ボーナスを50万円追加して出すと、この50万円は、法人税法上、損金にならずに、この分の益金には法人税が課税されてしまいます。国税と地方税の合計の法人税率を、ざっくり30%と考えると、法人税が約15万円増えてしまう結果、会社は、役員報酬と税金で、65万円のキャッシュアウトが発生してしまうことになります。
何故、このように、会計上の処理と、法人税法上の処理がずれてしまうのでしょうか?
役員というのは、会社の代表者や取締役であり、自分の意思で、自分の報酬を自由に操縦できてしまう力を持っています。そのため、期中に利益がでれば、それを自分の報酬にすることで、法人税を自由に引き下げることができる立場にあります。
そのため、従業員の賞与が損金算入できるのに対して、役員報酬は、自由な損金算入が認められていないのです。
3、役員報酬と、事業計画や創業時からの売り上げ確保の重要性
しかし、現実問題として、会社を設立し、その3か月後から固定の役員報酬を計上して振り込むというのは、現実問題として非常に困難ではないでしょうか。
この固定の役員報酬は、期中で減額すると、その減額分が損金計上できなくなります。また、2期目以降も、決算から3か月以内に、固定の役員報酬を計上して振り込む必要があります。
そのため、会社の設立を避けて、個人事業主で事業を開始するケースが多いのも理解できます。ただし、個人事業主というのは、BtoCの零細な事業ならともかく、BtoBの事業では、圧倒的に取引先からの信用がありません。取引先から、零細な下請けと認識され、不当な扱いを受けることも発生します。このような下請けいじめは、法律で禁止されていますが、実際は、下請けとして仕事を貰っている立場は、労働者よりも弱く、不当な個人事業主に対する下請けいじめは、なかなかなくなりません。
受注価格も伸びず、利益も少なく、優れた社員を雇うことも個人事業主は非常に難しく、いつまでも、零細なまま事業を進めざるをえず、コロナ禍のような有事があれば、事業はあっけなく、吹き飛んでしまいます。
4、役員報酬をとらないと決める会社の作り方もある!
では、どうすればよいでしょうか?
ここで、僕が最もお勧めする方法は、役員報酬を固定でとれる状態に至るまで、副業で事業を始めることです。本業の収入で生活し、役員報酬を副業からえずに事業を作りあげるという方法です。
僕自身も、この方法で起業し、2017年に完全に独立しました。
僕の場合には、20代から副業をはじめ、年商5億円を超える状態まで副業で継続して独立をしました。これは、僕が、40歳になるまでアメリカのコンサルティングファームで仕事をし、その後、日本の大企業の取締役であったため、本業の仕事を継続する様々なメリットがあったためです。
もし、このような事情がない場合、副業から独立する時期は、自分の生活する役員報酬を利益からえても問題がない程度まで事業を成長させられた時期、ということになります。
副業がどうしても難しいという場合、独立にあたり、綿密な事業計画を作り、利益が計画的に出せるまで事業計画を詰め切ることです。
これをせず、闇雲に独立をしても、事業は継続しません。
実際、個人事業主を含む新規起業が、10年間継続する確率は、6%程度です。
独立する社長100名のうち、事業を10年間継続させられるのは、6人しかいないわけです。それほど、事業の起業は難しいということです。
松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス
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