起業は一人で行おう ~他人と一緒に起業をすると、なぜ失敗する確率が高くなるのか~

松本尚典

松本尚典

テーマ:起業 複数人


1、共同事業で起業をした経営者からの相談がとても多い


経営コンサルタントをやっていると、共同経営でスタートした企業家の一人の方から、ご相談を受けることが、よくあります。

  • 共同経営でスタートしたけれども、意見があわない
  • 事業採算がとれない
  • 自分ひとりで、別会社をたちあげて、そちらの経営に移行しようかと思う


大体、以上のような相談内容です。

このコンテンツをお読みの方は、おそらく、現在、共同事業を立ち上げているが、悩みを持っている方や、共同事業を立ち上げることを検討されている方ではないかと思います。

もちろん、共同事業のすべてが悪いわけではありません。共同事業で起業し、成功されている方もおられます。

しかし、僕がみるところ、日本での起業では、共同事業でスタ-トした事業は、独りでスタートした事業に比べ、失敗する確率が高くなっているように感じます。

2、なぜ、他人と一緒に起業をすると、失敗する可能性が高いのか?


何故、他人と一緒に起業をすると、失敗する確率があがるのでしょうか?

僕は、以下の5つの原因があると思います。

  • 起業のスピードが遅くなる
  • 相互に依存しあう
  • 経営の目標や目的がずれる
  • 複数で「食べる」ために資本がもたない
  • 意思決定が遅れ、問題を先送りしてしまう



では、ひとつずつ見ていきましょう。

起業のスピードが遅くなる


大企業の新規事業を考えてみる


大企業が新規事業を起こす場合、そこには、その企業がもつ組織やブランド・既存事業の基礎があります。大企業の新規事業の場合、これらのシナジーを利用して、新しい事業を創業します。したがって、起業は、必ずチーム制で行うことになるでしょう。

僕がアメリカから帰国した後に、取締役をしていた、ある大企業でも、新規事業の取り組みには、3~4名のチームを構築し、一定の期間の中で採算に乗せることをやっていました。

したがって、その予算規模は、少ないものでも、5000万円規模に達し、その採算をあげていくために、起業2年度から最低でも1億円程度の売り上げを求めるのが通常の新規事業の規模でした。

売上高が100億円を超える企業にとって、スタート時点から1億円を超える売上高が必要で、それが一応、育ってくる段階では10億円程度の売上高になるものでなければ、新規事業のインパクトがありません。

これが、大企業の企業内起業のケースです。

>大企業の新規事業と比較した個人の起業


これに対し、個人が自分で起業をする場合、その規模や目標・方法は、まったく異なります。

どんなに過去に大きな企業で仕事をしてきた人たちでも、自分が起業する場合、ゼロからのスタートになります。

大企業が新規事業に当然のように投資する、数千万円・数億円の資金は、まず、個人では調達できないでしょう。おそらくは、数百万円の規模の資本金が、精一杯という状態から、スタートというのが、多くの個人起業だと思います。

この資金が維持できている間に、売り上げをあげる必要性があります。個人でスタートする事業は、大企業が行う数年単位の採算ではなく、数か月後に、小さくてもいいから売り上げを立てていくスピード感が必要なのです。

スピードをあげる起業は、単独戦で行うのが、最も適しています。多くの資金を投入して、数年間で規模の大きい起業をするのではなく、小型の資金を元手に、数か月で規模が小さくても、スタートできる事業を作るには、チーム制でなく、単独で遂行するのが適しています。

チームには、それぞれの個人がもつ強みを持ちあえるというメリットがあります。しかし、一方で、チームを結成すると、報告・連絡・相談や会議による時間がかかり、スピードが圧倒的に遅くなるのです。

これが、小型の起業には、向きません。

相互に依存しあう


他人と一緒に起業すると、相互の連携という良い効果ではなく、相互に依存しあうという悪い効果が現れてしまいます。

事業における組織は、おのおのが自立し、その自立した個が強みを発揮しながら、弱点を補ってゆく有機的な連携がうまれれば、非常に優れた効果を生みます。

しかし、このような連携の前提には、おのおのが自立した個であることが条件となります。自立した個としての意識を持たずに、相手に依存する人物が組織に入る場合、事業における組織は、相互依存という悪い効果となって現れてしまいます。

経営の目標や目的がずれる


組織が有効に機能する場合の条件が、協働体系になっていること、があげられます。

協働体系とは、個々の構成員の目標や目的とは別の、組織それ自体の目標や目的が設定され、その目標や目的に向けて、構成員の努力のベクトルが一致する状態になっている、ヒトの集団を言います。

人が十分な議論をえずに集まると、それぞれの個々の構成員が、自分の想い・目標・目的で集団を作ってしまいます。協働組織とは、個々の構成員の想いとは別の、組織の想いや目標・目的を持つ状態ですので、その協働組織に至らない場合、個人の努力のベクトルが、バラバラになってしまい、組織の動きのベクトルが定まらず、有害となります。

複数で「食べる」ために資本がもたない


事業を複数人で行うということは、複数人が食べていかなければなりません。サラリーマン時代には、企業が人を雇用するというのは、単に、給料を受け取ることだと思っているものですが、実際、企業が負担する人件費には、法定福利費等も含まれます。

法定福利というのは、従業員の健康保険や厚生年金について、会社と個人が折半して負担することに伴って生じる費用です。

会社は、個人を雇用した場合、個人が給与の中から引かれる健康保険や厚生年金と同額以上の負担を、給与に加算して、国に負担することを義務づけられています。加えて、会社が負担を義務づけられる労災保険なども、会社が全額負担しなければなりません。

そして、個人は、給与総額から上記の健康保険や厚生年金、更に雇用保険が引かれ、そこから、所得税や住民税がひかれて、手取り収入を受け取ります。そして、日々の生活の中で、消費税を買い物ごとに徴収されます。

実際、個人が生活に使用し、貯蓄をする金額の、倍近い金額を、会社は、負担しているのです。すなわち、ざっくりした数字ですが、個人が生活や貯蓄で使用するお金が30万円必要だとすれば、会社は、60万円近い金額を、一人の従業員を維持するのにかかることになります。

これは、従業員ではなく、役員でも同じです。

起業したばかりの会社が、数人分の、以上のようなコストを支払うことは、収入から生まれる利益が伴わない段階では、資本を食いつぶしてコストを負担せざるをえず、したがって、メンバーの人件費だけで、資本を食いつぶしてしまうことになりかねません。

複数人で起業すると、資本がもたないのです。

意思決定が遅れ、問題を先送りしてしまう


起業をした段階というのは、すべてのことがはじめてのため、意思決定の連続になります。スピードある起業を行うためには、行動のスピードをあげるとともに、意思決定を瞬間で行い続ける必要があります。

ところが、複数人で起業すると、その複数人間での意思疎通、つまり報告・連絡・相談が必要となります。

この報告・連絡・相談に時間を要し、しかも意見の相違があらわれると、その調整に時間を要します。事業が安定飛行をはじめる段階では、ある程度、慎重な経営を行い、会議体で意思決定してもよいのですが、起業段階では、これが致命的なスピードダウンに繋がりかねません。

3、事業家とは、結局、孤独なもの


以上のように、個人での起業は、複数人で行うには、適したものではありません。

事業家には、自分の心の中に目標を持ち続けて、ぶれずに、単独行動し、失敗があっても、折れずに続ける適性が必要です。

これができずに、誰かと一緒でなければ、起業ができないというヒトは、大変失礼ながら、事業家には向きません。チーム制で実力が発揮できる、大企業に勤め続けたほうが、成功します。

事業家は、結局、非常に孤独なのです。その孤独感を愛し、他社と一人で競争し続ける、単独ランナーのような性格が必要です。例え、事業が大きくなり、部下がたくさんできても、部下は一緒に走ってくれる伴走者ではありません。

仲間に依存したり、部下に依存したりするヒトは、どこかで、事業を失敗してしまいます。

4、孤独を恐れず、自分の足で立ち、歩もう


事業家は、非常に孤独であり、仮に共同事業で成功している方々をみても、そのおのおのは、自立されて動いておられます。

自分の足で立ち、自分で情報を収集し、自分の意思で意思決定を行い、自分で責任をとるのが事業家です。他人に、任せて、その責任を他人や部下に押し付けることは、どんな規模の企業の経営者でも許されません。

したがって、事業家の生きる道は、孤独を恐れず、むしろそれを愛し、自分の足で立って、歩むところにあります。

5、経営者のメンターとしての経営コンサルタント


ただ、それは、時として、様々な判断に迷ったり、自分を顧みて自信を喪失したりすることに繋がります。

しかし、それ自体が、事業家として大切な資質なのです。

判断に迷うのは、そこに選択可能な選択肢が複数存在していることに気付いているからです。
自信を喪失するのは、自分の失敗を顧みているからです。

これもまた、大切な事業家の素質で、「大丈夫、大丈夫」と言い続けて、迷ったり、自身を失ったりしないほうが、感性が鈍い事業家に不向きなヒトの証拠なのです。

迷ったり、自身を失ったとき、それを客観的に観察して、適切な情報を提供し、意思決定のファクタ-を提示し、そして、明日への道を再確認させて、再び歩みださせる存在が必要です。

このような経営者や事業家のメンターとして、支援を続けるのが、僕の経営コンサルティングの役割の一つだと、僕は思っています。

松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス

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専門家

松本尚典(経営コンサルタント)

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経営者の弱みを補強して売上を伸ばし、強みをさらに伸ばして新規事業を立ち上げるなど、相談者一人一人の個性を大切にしたコンサルティングで中小企業を成長させる。副業から始めて、独立で成功したい人も相談可能。

松本尚典プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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