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1.電子帳簿保存法の改正の施行は、インボイス制度の施行の3か月後!
2023年から2024年にかけて、中小企業を取り巻く税制に大きな変革が押し寄せます。
一つは、いわずもがなの、インボイス制度。これは、消費税に関する大きな変革です。
そして、その陰に隠れていますが、法人税に関する大きな変革が、電子帳簿保存法(以下、「電帳法」と称します。)の改正法の施行です。電帳法は、平成10年7月に施行された法律で、今までは、これが非常に使いにくい制度を定める法律でした。
これが、電子政府の流れ・情報とプロセスのデジタル化・デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れの中で、この度、改正がなされました。この改正法の施行は、本来、2022年4月だったのですが、コロナ禍などの事情から延期され、2024年1月施行となりました。
つまり、インボイス制度開始の3か月後です。
中小企業にとって、2023年は、インボイス制度と電帳法改正の、両方に対応しなければならないという、税制の一大イベントの年になるわけです。
2.電帳法が向かう先にあるのは、税務調査大量実施時代だ
法人税法は、第126条1項で、青色申告法人に、帳簿書類の備え付けと帳簿保存を義務付けています。つまり、仮にデジタルツールで帳簿を作成していたとしても、それを法律上は紙で保存することを義務付けていました。
従って、これまで、税務調査が入ると、企業の経理部門が行う業務は、大量にデジタルで保存された帳簿類や証拠書類をプリントアウトし、ファイリングして、税務調査を迎えていました。
改正電帳法は、この紙での保管原則を、デジタル情報での保管原則に変えました。
そして、タイムスタンプと、検索性を確保させて保存する、ということを義務付けたのです。
勿論、これは、経理業務のデジタル化という時代の要請に応えたことで、いつかは通らねばならない道です。しかし、これは、一方で、これまで膨大な紙データの保存を確認するため、数人で数日かけて、企業を訪問して行っていた税務調査を、すべてデータで提出させることによって、税務調査が遂行できるようになったことを意味します。
仮に、税務調査を特定企業に毎年行おうとすれば、税務当局は、数人を、一定の日数、投入せざるをえないという物理的な限界をきたしてしまいます。当然、税務調査の内容も、的を絞った内容にならざるをえませんでした。
しかし、デジタルですべてのデータの提出を行えるようにすれば、仮に、毎年、すべての帳簿と証拠書類をデジタルで提出させ、それを税務当局の予定にあわせて、網羅的に調査を行うことができます。
電帳法改正の、税務当局側の狙いの一つには、この税務調査をスムーズかつ大量・網羅的に進めることができる、という点があることは間違いありません。
だからこそ、電帳法は、税負担が大きい大企業ほど、その義務が強く課されているのです。そして、中小企業にとっても、これは、「いつか迎えなければならない」事態なのです。
しかも、税務調査が訪問という形をとらなくなれば、税理士さんが立ち会って、社長の代わりに説明するという機能も果たさなくなります。おそらく、質問は、すべてメールで回答するということになるでしょう。
デジタルでの帳簿や証拠の保存の時代は、税務調査大量実施時代のスタートだととらえ、中小企業は、しっかりと、それに向き合わなければならない時代に入ったということになるでしょう。
3.改正電帳法の全体像を、ざっくりと知ろう
そこで、この電帳法という法律は、どのような制度を規定しているのか?
まずは、その全体像をざっくりと、把握しましょう。
基本的に、電帳法は、3つの制度から成り立っている、ということです。
電子帳簿等保存
まず、第一が、名前になっている、電子帳簿等保存という制度です。
この制度の対象は、企業の作成する会計帳簿です。
企業会計では、まず仕訳帳を作成し、そこから総勘定元帳をつくり、試算表・精算表をえて、財務諸表を作成します。
その財務諸表が、税務書類作成の基本になります。
この一連の流れの対象が、電子帳簿等保存の対象です。
スキャナ保存
第二が、スキャナ保存という制度です。
この制度の対象は、会計帳簿を作成するための証拠となる紙で受領・作成した書類です。
企業では、取引を行う場合、見積書・契約書・納品書・請求書・領収書が発生します。これらの書類が、取引の証拠となり、会計書類が作成されます。
これらの書類が、紙で受け渡しをされた場合、この対象の書類が、スキャナ保存の対象です。
電子取引
第三が、電子取引という制度です。
この制度の対象は、スキャナ保存の対象となる書類が、紙ではなく、電子的に受領した場合の、そのデータです。ネット上からダウンロードした情報ということです。
4.電帳法対策 今、やったほうがよいこと
さて、上記の3つの制度のうち、まず、今、中小企業がやったほうがよい電帳法の制度は、電子帳簿等保存です。
「いや、それは、もう、とっくの昔に電子的に作っているよ。」
と、多くの企業の経理の方は、言われると思います。
流石に、今時、簿記検定試験で出題されるような方法で、会計帳簿を手の帳簿で作成している会社は、ないでしょう。
実は、法人税法は、いまだに、会計帳簿を電子的に作成することを前提にしていませんでした。そのため、電子的に会計帳簿を作成した場合、仕訳帳から、財務諸表に至るまで、そのすべてを、紙で保存する義務を青色申告法人に課していたのです。
改正電帳法では、それを紙ではなく、電子的に作成することを原則として、電子的に作成し、保存してよい、と、規定しました。
つまり、企業は、税務調査に備えて、紙で、出力をしなくてもよい、ということになったのです。ちなみに、電子帳簿等保存の導入は、2023年1月施行の改正電帳法では、任意です。義務付けされていません。紙で保存しても、電子的に保存してもよい、ということです。
これは、企業にとって、圧倒的にメリットがある制度です。
従って、第一の制度である電子帳簿等保存は、これを導入し、紙での保存から解放されましょうということを、お勧めします。
5.電帳法対策 まだ、やらないほうがよいこと
一方、スキャナ保存の電子化も、今回の改正で義務化されておらず、任意の導入となっています。
結論から言いますと、電子帳簿保存は、企業にとってメリットが大きく、やったほうがよいのですが、一方、スキャナ保存を電子化すると、大きな管理コストを生むことになり、中小企業にとっては、非常にデメリットが多いため、僕は、現時点では、スキャナ保存の電子化には、着手しないほうがよいと考えています。
関連企業が、改正電帳法を掲げて、大きくCMをしていますが、これらの企業が、スキャナ保存の電子化のためのツールを売ろうとしていることからわかる通り、スキャナ保存の電子化は、相当な経費がかかってきます。
はっきり言って、スキャナ保存を電子化したとしても、企業の売上は、一円たりともアップしません。会社がすべて、テレワークだけで動いている、従業員が30人を超える企業は別として、リアルな出勤を行っている企業であれば、従業員100人くらいまでは、スキャナ保存の電子化は、メリットよりも、コスト増のデメリットが大きくなります。
スキャナ保存の対象は、紙でやり取りをしている見積書・契約書・納品書・請求書・領収書などのすべてです。
その量は膨大になります。その膨大な量の情報すべてに、以下のような措置をすることになります。
スキャナ保存の電子化を実施しますと、これらを授受する社員は、そのすべてを紙からスキャンして電子情報にしたうえで、タイムスタンプを付与し、訂正削除履歴が確保された状態で保存が義務付けられます。
単に、スキャナでとればとよい、のではありません。
①スキャン
②タイムスタンプ付与
③訂正削除履歴の確保
この3つが導入要件となります。単に、紙をスキャンすればよいわけではなく、タイムスタンプによる日時の管理と、訂正削除履歴の確保が必要となりますので、スキャナ保存を導入すると、いわゆる、「日付なし領収証」による、損金の操作が不可能になります。
そして、これらの措置は、経理部門だけが行うのではなく、書類を受けとる社員の協力がなければできません。しかしながら、このすべてを忙しい社員がしっかり行うことは、相当に、困難だと思います。
そこで、先にあげたように、電帳法改正を契機にCMを展開している企業の経費管理システムを導入せざるをえないわけです。
このような導入には、システムに対する経費がかかってきます。現時点では、中小企業にとっては、かなり高いと感じます。加えて、一番、問題なのが、これらのシステムを導入するのと同時に発生する、社員への経費の受け渡しのための振込みのための手数料の膨大な発生です。
つまり、これまでは、社員は紙の経費精算の手続きの書類を作成して、経理にそれを提出し、現金で、経費精算や仮払を受け取っていました。
上記のシステムは、スキャナ保存された書類を承認し、振込み入金する手続きまでを、電子情報で行う仕組みになっておりますので、社員に経費を渡すすべての手続きで、銀行振込みの手数料が発生してしまいます。
例えば、営業交通費の精算を、通常の会社は1週間ごとに行っていると思いますが、こうすると、各社員へ月間4回程度の振込み手数料が発生します。
今、銀行は、従業員が100人を超えたあたりの企業の場合、銀行の支店との特約で、全従業員の給与振込口座を、会社が取引する銀行の支店で統一的に作成させ、その振込手数料を無料にする措置を行っています。この規模の企業であれば、スキャナ保存の電子化の経費は、かかりませんので、よいのですが、普通の中小企業の場合、銀行の支店が、そんな取引に応じてくれませんので、逆に、膨大な振込み手数料を発生させてしまいます。
勿論、社員の経費精算は、給与振り込みに加算して、月1回と定めれば、経費の発生は防げますが、それは、営業交通費をはじめとする社員の経費負担を、1か月間、社員に行わせることを意味します。そうすると、社員は、経費の仮払負担が重くなるため、営業経費が出る活動を控えるようになり、社員モチベーションが極端に低下します。出張などの仮払も行うことができず、社員は、自分の会社をブラックと考えて、動かなくなり、会社の動きが大きく阻害される結果を生みます。
これでは本末転倒です。
このように、スキャナ保存による電子化は、中小企業に経費管理のシステム導入が必要となるだけでなく、管理コストが大きく増えてしまい、企業の利益を圧縮します。
そのため、電帳法改正では、任意導入としたのです。
従って、経理のテレワークを進めるうえでは、相当な経費増大による利益の圧縮もやむを得ないという経営判断をされている企業以外は、充分、導入時期を計画して検討していかないと、後で、利益の圧迫要因になります。
6.電帳法対策 今、やらねばならないこと
電子帳簿保存の電子化や、スキャナ保存の電子化は、任意ですが、一方で、電帳法改正で、義務化されたのが、電子取引の電子化です。
では、任意のスキャナ保存と、電子取引は、どこで線引きがひかれているのでしょうか?
電子帳簿保存法一問一答(国税庁発表)によると、以下のものを、電子取引の例としています。
①電子メールにより請求書や領収書のデータを受領
②インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書、ホームページ上に表示される請求書や領収証
③電子請求書や電子領収書に係るクラウドサービスを利用
④クレジットカード利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービス
⑤特定取引に係るEDIシステムの利用
⑥ペーパレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用
⑦請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して受領
これらは、紙に出力して保管することが禁じられます。
ここが、電帳法改正の一番、大きな点です。
但し、僕が、国税庁の電話サービスに電話をして、質問したところによると、どうも、まだ、国税庁もはっきりとは、方針を決めていないように感じます。
例えば、クレジットカードの明細書について、僕は、次のように質問をし、国税庁から回答を得ています。
僕:「弊社では、クレジットカードの明細書を出力し、それに、店で受け取った領収証などを添付して保存していますが、これは、電子取引にあたり、禁止されるのでしょうか?そのように保管された証拠に基づいて計上した損金は否認を受けるのでしょうか?」
国税庁回答:「その場合、店で受け取った領収証は、紙となり、スキャナ保存の対象ですので、電子化は任意ですので、禁止されるわけではなく、また、仮に電子帳簿保存法に違反していても、損金性までは否認されることはありません。」
この国税庁の回答から推測すると、今回の改正で義務化されるのは、すべてが、電子取引で完結する取引における請求書や領収書に限られ、しかも、仮にそれを、誤って紙で出力をしていたとしても、損金性否認というペナルティは、課されない、という程度の義務と考えてよいのではないかと思います。
尚、電子取引に該当し電子化が義務化されるものに関しては、
①「2か月とおおむね7営業日」以内のタイムスタンプの付与
②日時・金額・取引先の検索機能の確保
これが要件とされており、仮にこれらの要件に隠ぺいまたは仮装された事実に基づく修正申告があった場合、重加算税が10%加算される、というペナルティが課せられます。
つまり、電子化した領収書の「日付操作」を行い、これが税務調査で指摘を受けて、修正申告をすると、重加算税を10%とられます、ということです。
自社の規定を作成する
企業としては、自社の経理の状況を検証し、電子取引に関しては、自社の規定を作成し、その方法を出来る限り、自社に有利に運用することがポイントです。
義務化される電子取引の範囲を、規定を作成することで、限定することができます。
規定は、以下、国税庁が公表しているひな形を修正して策定してください。
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