世代別マーケティング戦略 FOMOとJOMOの違いを意識する

松本尚典

松本尚典

テーマ:ミレニアム世代 Z世代


1.ヒトの人生観や価値観は、知らず識らずのうちに、世代意識に


日本の経済史の中において、今ほど、世代間の意識に差がある時代はありませんでした。

※以下の世代の説明については、論者により、いくつかの分類の違いがあります。本コラムは、その中の一つの分類法に従っており、これと異なる分類をされている説があることを前提にお読みください。


●バブル世代(1965年から1970年生まれ)


例えば、僕は、2022年現在54歳(1967年生まれ)で、バブル世代の真ん中に属しています。振り返ってみると、僕の人生観や価値観は、まさに、バブル世代のそれ、そのものでした。

大学の就職活動は絶好調で、中央大学法学部の、企業法の名門ゼミを出身していた僕は、新卒で一部上場企業8社に内定し、その中から、大手都市銀行を選んで、金融業界に入りました。そして、銀行系シンクタンクで、経営コンサルタントの道に進みました。その後、銀行の社費留学で、アメリカにわたり、MBA(経営学修士号)を取得して、ウオール街に金融系経営コンサルタントとして入っていきました。

もう、この生き方そのものが、ジャパン・アズ・No.1と叫び、日本が、世界一の経済大国になっていく「幻想」を、本気に信じて、「24時間働く」ことを美徳とし、タイムイズマネー、タイムプロデュースマネーを実践した、バブル世代の、申し子のような生き方です(苦笑)。

ヒトは、知らず識らずのうちに、自分が属する世代意識によって規定されて、人生観や価値観を形成しているものなのです。

2.現代日本の現役世代区分


しかし、僕が経営者、あるいは経営コンサルタントとして、マーケティングの戦略を立案する前提として、顧客のペルソナを分析し、マーケティング戦略を立案する場合、自分の属する世代意識を持ち込んだのでは、失敗します。

また、別の世代に属する部下に、自分の世代の価値観を押し付けても、組織は崩壊します。

非常に細分化されている日本の現役世代の区分を知らないと、ターゲットとなるヒトの人生観や価値観、それに裏付けられた消費行動を見誤る可能性があります。

そこで、まず、今回のコラムでは、現在の日本の労働現役世代の区分をみてみましょう。

●しらけ世代(1950年から1964年生まれ)


現役世代を65歳以下と規定した場合、僕の属するバブル世代より一つ上には、「しらけ世代」がいます。

60年~70年代の安保闘争を行った団塊の世代(1947年から1949年生まれ)が、連合赤軍のあさま山荘事件を起こして、革命闘争があらぬ方向にそれていったのを目の当たりにした、しらけ世代は、団塊の世代の挫折と、厳しい学歴競争社会の荒波と、高度成長期の甘えを、同時に味わった世代です。大学を、「レジャーランド」と呼び、受験競争と、厳しい就職までの間の大学時代を、モラトリアムととらえて、青春を謳歌したのが彼らでした。

しかしながら、彼らが社会に出て、年功序列と終身雇用の日本型雇用に自らを順応させて生きることにした、その後に、中高年となった彼らを襲ったのは、極めて厳しい、IT化の流れと、バブルの急上昇と、失われた30年の急下落という、日本の乱高下の現実でした。

人生の中で、価値観を確立することが最も難しい世代だった彼らは、今、定年退職を目前にして、周囲の成功者から目を背ける「茹で蛙」と日経新聞に定義され、「しらけ世代」という不名誉な世代の名称で呼ばれるはめになってしまったのです。

●就職氷河期ゆとり世代(1970年から1980年生まれ)


そして僕の属するバブル世代を挟み、僕のすぐ下には、就職氷河期世代という、長い年代の世代が横たわっています。

彼らの意識は、僕ら、バブル世代とうってかわって、大学を出ても、正社員としての就職先が非常に少なくなりました。上をみれば、いい気になっているしらけ世代と、イケイケのバブル世代が大きく企業のポストを占めてしまっており、失われた30年に突入した経済不況のあおりを喰った形の彼らは、男女を問わず、非正規雇用者が増えはじめた世代です。

加えて行政改革によって誕生した文部科学省が、ゆとり教育に舵をきり、学校教育から落ちこぼれをなくすという大義名分のもとに、高校以下の教育水準が大きく低下をしました。このゆとり教育は、今、日本が先進国で、日本が低学歴国家となった元凶の政策と批判を受けるに至った愚策です。

大学を出ても、上の世代と異なり、いい就職先もなく、将来への夢を持てず、学校教育の質は、低下の一途を辿っていった・・・。

もとは、非常に水準の高かった日本の教育が、この世代には機能せず、彼らは、バブル世代と、次に現れてくるミレニアム世代のはざまで、非常に不運な時代に生まれたといえます。

結果的に、バブル世代以上と比較をして、所得が相対的に少なく、不安定です。教育の質が低く、仕事に対するモチベーションも相対的に低く、非正規雇用を進んで受け入れた世代であったため、生産性も低い世代です。

そして、直撃をした新型コロナ禍において、最も、打撃を受けた層が、この世代であるといえます。

消費者としての消費力が低く、その生活習慣は、バブル世代とはうって変わって、デフレ社会型といえます。

●ミレニアム世代(1981年から1990年生まれ)


ゆとり教育の弊害が自覚されて、その反動を受け、かつ、パソコンからスマホへの情報通信環境の激変を受けたのが、ミレミアム世代です。

後で詳述するように、ミレニアム世代は、そのあとに登場するZ世代と、極めて大きく異なると特徴を持った世代であるといえます。

ミレニアム世代と、この後に登場するZ世代の最大の差は、Z世代が最新の情報通信デジタルネイティブなのに対し、ミレニアム世代は、其の前の世代のアナログからデジタルへの急速な変化の流れに晒された世代である、ということです。

彼らは、生まれながらのデジタルネイティブではありません。物心ついたころは、まだ、その前の世代と同様、アナログの世界に生きていました。それが、パコソンとインターネットが登場し、更に、タブレットが登場したかと思ったら、携帯からスマホへと情報通信機器が流れていった、その最中に、生きた世代です。

●Z世代(1990年から2010年生まれ)


一方、Z世代は、デジタルネイティブ世代です。彼らは、ゆとり教育から日本が完全に脱却した後の、少子化世代に属し、日本社会が、一人一人の子供を大切に扱うことに向かった時代に、デジタルを物心つくまえから、当然の環境として育ちました。

ここに、ミレニアム世代と、大きな隔絶があります。

3.今後の日本の企業や消費行動に最も大きく影響を与える、ミレニアム世代とZ世代


さて、以上の日本の世代のうち、今後、ビジネスで最も注目をすべき世代は、Z世代の動きであると、僕は考えています。

日本は、非常に深刻な少子高齢化社会の道を進んでおり、人口構造的には、高齢者の割合が増えています。しかし、高齢者は、労働力の担い手としても、消費の主体としても、そのチカラは、年齢とともに、低下します。高齢者は、貯金保有額では大きな主体ではありますが、消費性向は、年齢とともに低下するため、企業からみて、将来的に有望な消費者ではありません。

現在、団塊の世代が高齢者の領域に達し、今後は、続々と「しらけ世代」が高齢化してゆきます。そして、これまで、消費の有望な担い手であった、バブル世代も、今は、労働と消費の担い手ではありますが、既に、中年に達しているため、将来に備えて、高い消費性向を、貯蓄性向に切り替えはじめています。バブル世代が担ってきた労働力の提供と、高い消費性向に基づく消費は、今後、アフターコロナで、急速に落ちてゆくでしょう。

そして、その下に位置する就職氷河期ゆとり世代は、非正規雇用の割合が高く、新型コロナ禍で、最も傷ついた世代です。

そうなると、近未来の日本の企業の有望な労働力としての生産性を支え、消費の担い手として期待されてくるのは、ミレニアム世代と、Z世代です。

アフターコロナ禍のビジネスでは、このミレニアム世代と、Z世代を知ることが非常に重要であると、僕は考えています。

4.FOMOと、JOMOを知ろう


ミレニアム世代と、Z世代は、上下に続く世代ですが、その世代意識は、全く異なります。

それは、バブル世代と、就職氷河期ゆとり世代との世代意識の断絶と対比できるかもしれません。

バブル世代と、就職氷河期ゆとり世代の世代意識の断絶は、日本が世界のナンバーワン国家にかるのではないかと言われた80年代のバブル経済期から、資産の大暴落を契機に、90年からはじまった「失われた30」年への突入という、経済的な環境の激変によるものです。

一方、ミレニアム世代と、Z世代の世代意識の断絶を生んだのは、インターネットの幾何級数的な拡大、検索エンジンの登場によるWeb2.0、そして、そのインターネットの担い手が、パソコンから、スマートフォンに一気に変わった、その時代変化のスピードです。

●ミレニアム世代を支配する意識 FOMO


ミレニアム世代は、その上の世代のゆとり教育に反省の兆しが見えた時代に、高等教育を受けた世代です。

小学校に入った頃には、ゆとり教育。それが、年齢があがるに従って、その教育法に反省が加わりました。

ゆとり教育を真に受けて、甘い基礎学力しかつけてこなかった人も多く、それが、大学を出る頃には、上の世代や社会から、「ゆとり」と呼ばれて、批判をされたという、非常に振り回された世代です。

そして、物心がついた時には、時代は、まだ、パソコンすら、一般的ではありませんでした。そして、10代のころには、インターネットが普及し、あれよあれよという間に、その担い手の機器が、変わって来たことを経験した世代です。

非常に、目まぐるしく、時代が変わりました。

そのような環境で育った彼らは、自分の生き方に軸を持つことが難しい世代です。

そして、彼らは、強迫観念にかられるように、新しいものを追いかける癖がついてしまいました。

それは、ミレニアム世代を代表する言葉 「外したくない」という意識を生みました。

彼らは、仲間の間に流行っている最先端を、自分だけが外すことを、極端に恐れることに特徴があります。

この意識は、世界のミレニアム世代を特徴づける言葉、FOMO(Fair Of Missing Out)を生みました。

「外すことへの怖れ」という意味です。

彼らの消費は、外すことを怖れるための消費という特徴があります。

SNSを回遊し、自分がコミュニティの先端情報かおいていかれることを怖れ、ひたすらに多数に乗っていくことを追求するために、ミレニアム世代は消費をします。

それは、バブル世代が、狂乱的な資産インフレの中で、脅迫的に消費を追求したことに似ています。SNSの爆発的な普及は、このミレニアム世代のFOMOが産んだ現象でした。

エンターテイメント世界も、これまでは、このFOMOを利用して、バズるコンテンツを生み出してきたのです。

●Z世代は、このFOMOからの回避 JOMOを追求する


一方、Z世代は、ミレニアム世代と異なり、デジタルネイティブ世代です。彼らは、物心がついたころから、デジタルが当たり前でした。インターネットへの接続デバイスも、小学生のころには、パソコンからスマートフォンに移行しつつあり、携帯電話も、「ガラ携」(ガラパゴス携帯。日本というガラパゴスの中だけで進化した携帯機器という意味)を使わずに、自然にスマートフォンになじんだ世代です。

情報は、スマートフォンを自然に使って収集するのは当たり前になっていました。

そんなZ世代から観ると、自分たちよりも少し年齢が上の、ミレニアム世代が、「外したくない」と言いつつづけて強迫観念にかられているFOMOは、ある意味、滑稽にみえます。

彼らの意識は、JOMO(Joy Of Missing Out)です。流れを追っていくのではなく、流れから外れることを楽しむ世代が誕生しました。

僕は、今、ミレミアム世代から、Z世代へ、消費の主力が移りつつあることに注目しています。Z世代のJOMOの意識は、新型コロナ禍をえて、時代の主流になりつつあります。

ミレニアム世代の消費の仕方は、彼らよりも、ずっと年代が上の、団塊の世代に似ていました。団塊の世代は、日本経済が、戦後の行動成長に至った時代に消費の中心を担ったため、カラーテレビ・クーラー・自動車の「三種の神器」を、他人に負けないように購買に走った世代でした。彼らは、まさに、「外せない」消費を追求したわけで、ミレニアム世代の意識は、団塊の世代の意識に酷似しています。

一方、Z世代の消費意識は、これまでの日本の世代のどことも似ていません。

日常的な消費を増やすことには、(ほしいものは、別にいつでも手に入るという安心感があるため)あまり興味を示さず、一方、自分が興味を抱いたことや、「推し」行動には、深く突っ込み、消費を惜しみません。

そして、その興味の対象や「推し」が、自分の感性とあわなくなると、すっきりと「卒業」して、別の興味の対象や、「推し」に移行してしまいます。

職場の付き合いや、興味がないクルマを持つことなどには、ほとんど、おカネを使わず、一方、ケチなわけではなくて、特定の分野には、信じられないほど、消費を入れ込みます。

そして、その興味の対象や推し行動の感性があうヒトと、交際を深めようとします。

これが、Z世代の行動パターンです。

5.企業は、Z世代の消費行動にあわせて、事業を構築しなおせ!


アフターコロナで、最も重要な点は、Z世代が消費の主体としての存在感を大きく増したことです。

2022年現在、Z世代は30代前半から20代前半を構成しており、この層の消費を、今後、企業は取り込まなければなりません。

しかし、彼らは、ミレニアム世代と異なり、「外すこと」に恐怖感を覚えない世代といえます。SNSなどのインフルエンサーを取り込んで、その発信で「バズる」を演出したり、広告費や広報に予算をつぎ込んで「流れ」を演出すれば、そこに乗ってくるミレニアム世代とは、傾向が異なります。

例えば、Z世代の「推し」という行動は、みんなが推しているから、自分も、という発想には立ちません。

「推しが武道館にいってくれたら死ぬ」というアニメがありますが、Z世代の「推し」は、「推し」が武道館にいくようなコンテンツだとわかれば、そこから卒業してしまう心理が働いているのです。

AKBの「推しメン」を「推し」ていく行動は、もう、Z世代的ではありません。

僕は、今、URVグローバルグループの組織の幹部層を、Z世代の感性を十分に備えた、30代前半の人材によって構築しはじめています。今後10年間、世界的に、Z世代が、消費をけん引する時代がやってくると、考えているからです。

続く

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