年収のカラクリ ~年商5億円を超えた経営者たちの、自分の年収の決め方の技~
年商5億円を超える企業経営者は、ヒトの使い方の達人が多い
年商5億円を超える企業は、社長は自分が前面に出て、鎌倉武士的に一騎打ちをすることから脱却すべきことを、前回のコラムで発信しました。これに対して、年商5億円を超える社長は、戦国大名的な、組織戦略的な戦い方に脱皮する必要があることも述べました。
企業の経営をやってみると、サラリーマンには理解できないヒトを使う大変さを痛感します。
まず、ヒトを社員として雇用すれば、簡単には解雇できません。
給与は勿論ですが、更に、法定福利費として、厚生年金・健康保険・介護保険・雇用保険の半額負担義務、更に労災保険の全額、通勤交通費を会社が負担し続けなければならず、給与と法定福利金の支払いだけでも、創業したての企業の経営者は押しつぶされそうになります。この重圧を、社員を抱えた場合、数十年にわたって受け続けなければなりません。この会社の負担を社員が自力で稼ぎ出してくれれば問題はないのですが、こちらの思ったように、社員は働いてくれるわけではありません。そして、簡単には成長もしてくれません。
そのような中、社長は、自分が連帯保証をして銀行から借りた資金を運転資金にして、会社を経営するわけです。
売上1億円を超える前の、まだ財務基盤が薄い企業にとって、安易な社員の雇用は、会社の成長どころか、会社を危機に陥れることにもなりかねません。
創業仕立ての経営者が倒産する最も多い要因は、この人件費の負担の重さを軽く見て、人件費が大きく売上利益を超えてしまうことにあります。
このような人件費の重圧を経営者は、独りで負わなければなりません。
これは、サラリーマンには、絶対に理解できない重圧です。
僕は、自分も経営者ですので、売上1億円程度の企業の社長が、重圧から、社員に対してきつく当たったりする気持ちは痛いほどわかるのです。
言いたくなる気持ち、本当に理解できます。
しかし、今のご時世、そんなことをしてしまうと、たちまち、パワハラと言われ、下手をすれば、SNSに書き込まれるなどの攻撃を受けて、大変なことにもなりかねません。
世間では、パワーハラスメントをする社長は、即、悪者のように言い立てます。
しかし、パワーハラスメントを行ってしまう社長の気持ちというものを、僕は経営コンサルタントであるとともに、同じ経営者でもありますから、よくわかるのです。
社長のパワハラというのは、男性のセクハラのように、一方的に非難されるほど、単純なものではないと、僕は思っています。年商1億程度の企業の社長が、大企業の名経営者のまねをして、ヒトを重視した経営を考えてみても、実際は、とても実行に移せないし、下手をすれば、会社を傾けてしまうリスクがあるのです。
一方で、年商が5億円に近づいてくると、会社は、財務基盤が厚くなってきます。上記のような社員のコストを重圧に感じる段階から、ようやく、社長は開放されます。
そう、この段階から、社長はようやく、ヒトを使い方に精通し、その達人になることに目標を転換すべきなのです。
昭和最後の政商 小佐野賢治氏に学ぶ、人事
昭和最後の政商と言われた、小佐野賢治氏は、その人材掌握術の中で、次のような名言を残しています。
「信頼すれども、信用せず」
部下をヒトとして信頼することと、部下を仕事の成果や経済面で信用することは、別だ、という厳しい言葉だと、僕は思っています。
いかなる規模の企業の経営者でも、部下をヒトとして信頼できないようであれば、経営者の器ではないわけです。部下を使うのであれば、その部下をヒトとして信頼することが、絶対に不可欠です。
しかし、その信頼をしているということで、部下の能力や経済面における誠実さをそのまま信用をするのは、ある程度の規模の企業の経営者になったならば、慎まなければなりません。
部下を信頼するということは、次のようなことです。
●自分が採用した部下は、企業が育成をし、機会を与えれば、成長をしてゆくと信頼する
●組織に、よい環境や人間関係ができれば、部下は活き活きと仕事をすると信頼する
●組織に明確な目標を与え、その目標の達成や、それを通して得られる成長に対して適切な評価をすれば、ヒトは、努力を続けると信頼する。
一方、信用するというのは、次のようなことです。
●部下は、管理をしなくても、自分で自律的に収益を稼いでくると信用する
●部下は、自分で自律的に成長すると信用する
●下に経費などの管理を任せきりにして信用する
●組織のお金を部下が勝手に流用するなどということはないと信用する
多くの零細企業の経営者は、信頼と信用を混同しています。
部下を信頼してしまうと、そのまま信用してしまうのです。一方で、部下に信用で裏切られると、信頼までしなくなってしまいます。
このような経営者を、「器を小さい」と小佐野賢治氏は言うわけです。
零細企業の場合、信頼と信用を混同していても、あまり大きな事故は起きません。
しかし、年商5憶を超えてきた企業の場合、部下を信頼しつつも、信用せず、部下を管理したり、成長を促したりする仕組みを構築する必要があります。
この点も、経営者は大きく、意識を改革しなければならない点だと、僕は思っています。
部下の採用と、教育、管理に関すること
5億円を超える企業の経営者が、最も重要なことは、部下に任せることです。
しかし、部下に任せるということは、部下を信頼することであって、部下を盲目的に信用することではありません。
ここからは、年商5億円を超えることを目指す経営者が、先に述べたように、極めて重い経費負担を負っても、尚、企業を成長させるため、部下を信頼しながら、事業を続け、最終的に、信用できるまでに、部下を育成することの過程を述べて参ります。
部下の採用
日本の労働法の世界では、一度、正社員で採用した部下は、勝手に解雇することができません。加えて、先に述べた通り、社員を雇用するには、大きなコストがかかります。
日本の労働法の世界で、唯一、会社が、すべての権限をもって、ヒトを選定し、不十分であれば、雇用する必要がない、という、会社の自由が保障されている局面は、採用という場面だけです。
従って、中小企業ほど、採用には、本当に慎重にならなければならないし、採用の基準をしっかり持つ必要があるのです。
しかし、大企業が、採用を非常に慎重にするのに対して、中小企業は、本当に採用の基準が甘いと、僕は、常々、感じています。
人事採用広告を出し、応募してきたヒトを、社長がちょっと会っただけで採用してしまう、という企業が、非常に多いのです。
ちなみに、僕は、自分が投資するURVグローバルグループの各企業では、正社員の採用については、一切、採用広告での募集をしません。
僕は、日頃、様々な交流会などにも参加し、また関係する企業での方と広くお付き合いをしているのですが、正社員では、これらの知り合った方と、かなり長くお付き合いや、お取引をし、その中から、ヘッドハンティングの形で、採用者を決めています。
必ず、採用後は、自分の直轄におき、自分の仕事のやり方を仕込む
そして、採用後は、必ず、一定期間、自分の直下に配置し、頻繁にコミュニケーションをとりながら、自分の仕事のやり方や考え方を見せます。そして、経営者である僕の考え方にあわない場合、できるだけ早めに、自己都合退職をしてもらいます。
中小企業の場合、よい意味でも悪い意味でも、企業のオーナー社長である僕と、考え方があわない方は、本人が、その会社にいても、絶対に成長しません。そして、不信感を募らせれば、本人のモチベーションが落ちてゆきます。
逆に、僕の仕事に関する考え方や、事業哲学に深く共感してくれれば、その社員のモチベーションや貢献意欲はあがり、お互いの信用が、アップします。
このように、僕は、社員の採用と、初期段階の育成は、必ず、自分の手で、一定の時間をかけて行い、そこで、信用できるレベルに到達した社員だけを、幹部にして、事業を任せます。
こんような採用と育成の方法は、中小企業だからこそ、できる方法です。大企業では、絶対に不可能な採用・育成方法です。
このようにして、手間と時間をかけて採用育成した部下に事業を任せていくことで、事業は拡大し、企業は、5億円の壁を、安定的にクリアーすることができるのです。
続く
[囲み装飾]松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス
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