保釈保証書発行事業の使い方|手元に現金がない場合
2025年6月から刑法の「懲役」「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されたため、法定刑は拘禁刑で表記しています。また、この記事は手が出る前の「口論」の段階で警察を呼ばれた場面を中心に扱います。交際相手を叩いてしまった場合の流れは、別の記事で詳しく解説しています。
「恋人と言い争いになり、相手が110番した。警察官が来て話を聞かれたが、手は出していない。これは事件になるのか」「口論の声が大きかったのか、近所の人に通報された。名前や連絡先を控えられたが、後で呼び出されるのではないか」。交際相手との口論をめぐっては、このような不安を伺うことがあります。
結論からいえば、言い争いをしたこと自体が直ちに犯罪になるわけではありません。ただし、口論の中で体に触れた、物を壊した、危害を加えると告げたといった言動があれば、刑事事件として扱われる可能性が出てきます。この記事では、口論で警察を呼ばれた側の方に向けて、事件になるかどうかを分ける事情と、その後に気をつけたいことを整理します。
口論だけで、刑事事件になるのか
言い争いそのものは、原則として犯罪ではない
交際相手と意見がぶつかり、強い口調で言い合うことは、それだけで処罰の対象になるものではありません。警察官が駆けつけても、双方にけががなく、言い争い以上のことがなかったと確認できれば、注意を受けて終わることも少なくありません。
また、二人きりの場で相手をののしる言葉を口にした場合でも、侮辱罪(刑法231条)や名誉毀損罪(刑法230条)は「公然と」行われたことが要件のため、通常はこれらの罪にはあたりません。ただし、言葉の内容によっては、次に述べる脅迫罪が問題になります。
口論の中で、事件として扱われやすくなる言動
| 口論の中での言動 | 問題になり得る罪 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 相手の腕をつかむ、突き飛ばす、物を投げつける | 暴行罪(刑法208条) | 2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 |
| 「殺すぞ」など、相手や家族の身体・生命に危害を加えると告げる | 脅迫罪(刑法222条) | 2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金 |
| 相手のスマホを床に叩きつける、私物を壊す | 器物損壊罪(刑法261条) | 3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料 |
| 警察官に制止されても大声で騒ぎ続け、近隣に迷惑をかける | 軽犯罪法1条14号 | 拘留又は科料 |
| 駆けつけた警察官を押しのける、つかみかかる | 公務執行妨害罪(刑法95条1項) | 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
暴行罪の「暴行」は、相手を殴る場合に限られず、腕を強く引く、物を投げつけるといった行為も含まれると解されています。「叩いてはいないから大丈夫」と考えていても、口論の最中の動きが暴行と評価されることがある点には注意が必要です。騒音や迷惑行為で通報された場面については、深夜の騒音・迷惑行為で通報された|どの法令で問題になるかもご覧ください。
「恋人同士のけんか」でも、警察は慎重に対応する
かつては「民事不介入」という言葉で、家庭や男女間の争いに警察が深く関わらない時代もありました。しかし現在、警察は交際相手間の暴力を含む恋愛感情のもつれに起因する事案について、被害者の安全確保を優先して対応する方針をとっています。同棲している交際相手からの暴力や脅迫は、DV防止法の対象にもなります(配偶者暴力防止法28条の2)。
そのため、本人が「ただの痴話げんかだった」と考えていても、警察官はけがの有無や危険の程度を確かめるため、一つひとつ慎重に事情を聞くことになります。
警察を呼ばれた後、その場で起きること
二人を分けて、それぞれから話を聞く
警察官が到着すると、まず二人を別々の場所に分け、何があったのか、けがはないか、以前にも同じようなことがあったかを確認するのが一般的です。このとき、氏名や住所、連絡先を聞かれたり、身分証の提示を求められたりすることがあります。
その場で終わる場合
けがや物の損壊がなく、二人とも落ち着いて事情を説明できるような場面では、注意を受けて終わることがあります。その日は別々に過ごすよう助言され、一方が友人宅や実家に移るよう勧められることもあります。
警察署で話を聞かれる場合
その場では事情がはっきりしないときは、警察署へ来るよう求められることがあります。弁護士ドットコムには、酒の席での口論で警察が来て、二人とも警察署で事情を聞かれ、指紋の採取や状況を書面にすることを求められたものの、その日のうちに帰宅し、それきりになったという相談も寄せられています。
任意の同行であれば、本来は断ることもできます。ただし、口論の直後で双方が興奮している場面では、いったん応じて落ち着いて事情を説明したほうが、結果として早く終わることも少なくありません。
その場で逮捕される場合
相手がけがをしている、暴力が続くおそれがある、警察官の制止に応じないといった場合には、現行犯逮捕されることがあります(刑事訴訟法212条、213条)。手が出てしまった場合の流れは、【刑事事件】交際相手を叩いてしまい110番された、この後どうなる?で詳しく解説しています。
「事件になる」かどうかを分ける事情
| 事件として扱われにくい方向の事情 | 事件として扱われやすい方向の事情 |
|---|---|
| 言い争いだけで、体への接触や物の損壊がない | 相手の体に触れた、物を投げた、物を壊した |
| 双方にけががない | 相手がけがをしている、後日受診して診断書が出た |
| 初めての通報で、その場で落ち着いた | 以前にも通報や相談がある |
| 相手が処罰を望んでいない | 相手が被害届を出す意思を示している |
| 警察官の指示に従い、冷静に説明した | 酒に酔って興奮が収まらず、制止に応じない |
逮捕されるかどうかの一般的な分かれ目は、逮捕されるケースと逮捕されないケースの分かれ目|通報から立件までに何が起きるかで整理しています。
相手が「処罰は望まない」と言った場合
暴行罪や脅迫罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪ではありません。そのため、相手が「もういい」と言っていても、警察が捜査を続けることはあり得ます。一方、器物損壊罪は親告罪のため(刑法264条)、相手が告訴しなければ起訴されることはありません。
もっとも、事件として扱われた場合でも、被害が軽く、相手が処罰を望んでいないといった事情があれば、検察官に送致せず警察限りで手続を終える「微罪処分」となることもあります。この仕組みについては、微罪処分とは|警察限りで終わる事件の条件で解説しています。
その場で終わった後に、気をつけたいこと
後日、警察から連絡が来ることはある
その場で帰されたことは、必ずしも手続がすべて終わったことを意味しません。相手が後日になって警察に相談したり、受診して診断書を取ったりすれば、改めて話を聞きたいと連絡が来ることがあります。弁護士ドットコムにも、交際相手との口論の翌日に、相談があったので話を聞きたいと警察から電話があったという相談が寄せられています。
連絡が来たときに慌てないよう、その日に何があったのかを、時刻や言動、けがの有無などとともにメモしておくと、後で落ち着いて説明しやすくなります。連絡が来た段階での対応は、【刑事事件】警察から電話が来た段階で弁護士に相談する意味をご覧ください。
前科や前歴はつくのか
前科は、起訴されて有罪の判決や略式命令を受けた場合につくものです。口論で警察を呼ばれ、注意を受けて終わっただけであれば、前科がつくことはありません。被疑者として捜査を受けた場合には、不起訴となっても捜査を受けた記録である前歴が捜査機関に残ります。違いは、前科と前歴はどう違い、どこに残るのか|期間と照会される場面で整理しています。
相手への連絡は、回数と内容に気をつける
謝りたい、きちんと話し合いたいという気持ちから、口論の後に何度も連絡を重ねてしまうことがあります。しかし、相手が別れを望んでいたり、連絡を控えるよう警察から求められていたりする場面で連絡を続けると、つきまといとして扱われるおそれがあります。
同棲している部屋の荷物の受け取りなど、どうしても連絡が必要な用件は、共通の知人や弁護士を介して段取りを決めることを検討してください。口論の中での自分の言動が法的にどう見られるかを振り返りたい方は、【男女トラブル】デートDVの加害者だと言われた|自分の言動を法的に見直すも参考になります。
弁護士に相談すると何が変わるのか
口論で警察を呼ばれた段階では、まだ事件として扱われていないことも多く、弁護士に相談するのは大げさだと感じる方もいるかもしれません。ただ、この段階で事実関係を整理しておくと、後日警察から連絡が来たときに、何をどう説明すればよいかが明確になります。
また、相手が被害届を出すと言っている、すでに事件として扱われているといった場合には、弁護士が相手との示談の窓口となり、相手の安全に配慮しながら謝罪や話し合いを進めることができます。逮捕に至った場合には、早期の接見や身柄の解放に向けた働きかけも行います。
よくあるご質問
近所の人に通報されただけでも、事件になりますか?
通報したのが誰であっても、警察官は同じように事情を確認します。言い争いだけで、けがや物の損壊がなければ、注意を受けて終わることが多いと考えられます。ただし、警察官の制止を聞かずに騒ぎ続けると、軽犯罪法違反として扱われることがあります。
相手も怒鳴ったり物を投げたりしていました。自分だけが責められるのですか?
お互いに手を出したり物を投げたりしていた場合には、双方が被疑者として扱われることがあります。経緯を説明する材料として、自分のけがや壊された物の写真を残しておくことが役立ちます。考え方は、相手も殴ってきた(相互暴行)|被害者でも加害者でもある場合で解説しています。
しばらく経ってから「警察に行く」と言われました。今から事件になりますか?
暴行罪の公訴時効は3年とされているため、時間が経っていても、相手が警察に相談すれば事件として扱われる可能性はあります。ただ、時間が経つほど当時の状況を確かめる材料は少なくなり、警察も慎重に事実を確認することになります。言われた内容や時期を記録したうえで、早めにご相談ください。
まとめ
- 交際相手との言い争いそのものは、直ちに犯罪になるものではありません。
- 口論の中で体に触れた、物を壊した、危害を加えると告げたといった言動があれば、暴行罪・器物損壊罪・脅迫罪などが問題になります。
- 警察は恋愛感情のもつれに起因する事案について、被害者の安全確保を優先して慎重に対応します。
- その場で注意を受けて終わることもあれば、警察署で話を聞かれたり、後日改めて連絡が来たりすることもあります。
- 暴行罪や脅迫罪は親告罪ではないため、相手が許していても捜査が続くことがあります。
- 口論の後に相手へ連絡を重ねると、つきまといとして扱われるおそれがあるため、必要な連絡は第三者を介することを検討してください。
恋人との口論で警察を呼ばれた方へ
口論で警察を呼ばれた直後は、この先どうなるのか分からず、不安な時間を過ごす方が多いと思います。手が出たかどうか、物が壊れたかどうか、相手がどのような意向を持っているかによって、見通しや取るべき対応は変わります。その場で帰された段階でも、早めに事実を整理しておくことで、その後の連絡に落ち着いて向き合いやすくなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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