削除したのに復元された|デジタルフォレンジックと立件

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

 一度削除したはずの画像や動画について、捜査の中で「復元されました」と告げられる。あるいは、これから端末を調べられるとしたら、過去に消したものが出てくるのではないかと考えて落ち着かない。児童ポルノに関する事件では、この不安を抱えたままご相談に来られる方が少なくありません。

 この記事では、復元されにくくする方法や、発覚を避けるための行動、取調べでの受け答えの組み立て方は扱いません。それらは弁護の助けにならないうえ、後の判断でかえって不利に働くことがあるためです。ここで整理するのは、「復元された」という出来事が刑事手続のどこに位置しているのか、そしてそれが立件の判断とどうつながっているのかという一点です。

 もう一つ、前提として書いておきます。この分野で問題になる記録には、実在する子どもが写っています。データが戻るかどうかという技術の話に見えても、その先には被害を受けた側がいます。本稿は、その前提の上で法律上の扱いを説明するものです。

「デジタルフォレンジック」という言葉が指しているもの


 まず、言葉の整理から始めます。デジタルフォレンジックは、法律の条文に出てくる用語ではありません。捜査や訴訟の場面で、端末や記録媒体に残された電磁的記録を、記録された状態をできる限り変えないように保全したうえで分析する一連の作業を、実務上こう呼んでいるにすぎません。

 この言葉は「削除されたデータを元に戻す技術」と受け取られがちですが、実際の作業はもう少し広いものです。どのファイルが、いつ、どのように扱われたのかという、記録の周辺にある情報を読み取る作業を含んでいます。

 この広さは、後で述べる「復元されたのだから立件される」という単純な図式が成り立たない理由と、そのまま結びついています。

なぜ端末そのものが持って行かれるのか


 電磁的記録については、必要なデータだけを取り出して押収する方法が法律上用意されています。刑事訴訟法百十条の二は、差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、その記録媒体を差し押さえる代わりに、記録を別の媒体に複写し、印刷し、又は移転したうえで、その別の媒体を差し押さえることができると定めています。この方法は捜査機関が行う場合にも準用されています。また、記録を保管している人に必要な記録を記録させ、又は印刷させたうえで差し押さえる、記録命令付差押えという方法もあります(同法二百十八条一項)。

 それにもかかわらず、実際の事件では端末や記録媒体そのものが持って行かれることが多くあります。この点について、法改正の立案に関わった担当者の解説は、電磁的記録についても、その真実性や関連性は、記録されている情報それ自体だけでなく、それが記録されている状態を含めた全体から判断されるべきものであり、データの削除痕跡も含めて分析する必要があるなど、記録媒体自体に証拠価値が認められる場合も多いと説明しています。

 つまり、削除された領域まで見に行くことは、後から思いつかれた追加の作業ではありません。記録媒体そのものを押さえる方法が残されている理由の一つとして、制度の側にあらかじめ想定されているものです。「消したのだから、そこには何もないはずだ」という前提が、法律の側では初めから置かれていない、ということになります。

 記録命令付差押えのような方法は、記録を保管している側の協力を前提としています。協力が得られない場面や、どの記録が必要かをあらかじめ絞り込めない場面では、この方法だけで足りるとは限りません。端末そのものが押収されやすいのには、こうした事情も重なっています。

 なお、端末の外にある記録に届く手続もいくつか設けられていますが、その点は別の解説で扱っています。

解析はその場で終わるものではない


 解析は、捜査機関の中の専門部門で行われることもあれば、外部に鑑定を嘱託して行われることもあります。捜査機関が必要に応じて鑑定を嘱託できることは、刑事訴訟法二百二十三条一項に定められています。

 いずれにしても、端末を提出してから結果が動き出すまでに、数週間から数か月かかることがあります。事情を聞かれて帰宅した後、しばらく何の連絡もない時間が続くのは、この作業が進んでいるためであることが少なくありません。

 この時間の使い方は、その後の展開に影響します。何も起きていないと受け取って放置するのか、経緯を整理し、説明できる部分とできない部分を分けておくのかで、連絡が来たときの立ち位置が変わってきます。

「復元された」と言われている状況は一つではない


 同じ「復元された」という言葉でも、実際に起きていることは同じではありません。おおまかに分けると、次のような形があります。

「復元された」と言われている状況記録がどこに残っていたか主に問題になること
削除の操作をした領域から記録が取り出された端末の中に、見えない形で残っていたいつからいつまで手元にあったか
削除の対象にしていなかった場所から記録が見つかった端末の中に、別の記録として残っていた自分の意思で置いた記録といえるか
端末の外にあった記録が集められた同期先や送信先、事業者の側に残っていた端末を調べ直しても状況は変わらない


 この三つは、条文に当てはめる段階になると違う意味を持ちます。とりわけ二つ目は、自分で保存したといえるのかどうかについて、評価が分かれることのある領域です。捜査機関から「復元された」と言われたときに、それがどの形の話なのかを確かめておく意味は、ここにあります。

 三つ目についても、触れておきます。手元の端末に何も残っていないという状態と、事件として組み立てる材料が何もないという状態は、同じではありません。端末の側で見えなくなっていても、そこに至るまでのやり取りや記録が別の場所に残っていれば、そちらを起点に話が進むことがあります。端末を見て何も残っていなかったという確認だけで判断すると、その範囲の外にあるものが視野から抜け落ちます。

削除しても、それまでに成立した罪が消えるわけではない


 児童買春・児童ポルノ禁止法七条一項は、自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持した者、および同じ目的で児童ポルノに当たる情報を記録した電磁的記録を保管した者を処罰の対象としています。法定刑は一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金です。

 ここで条文が見ているのは、持っていた、あるいは保管していたという状態です。現在も手元にあるかどうかを要件にしているわけではありません。そのため、削除より前の時点の所持や保管について問われるという構造になります。実務でも、消去された後に復元や解析を経て、消去前の所持が問題にされた事案があることが指摘されています。

 削除は、いったん成立した犯罪をなかったことにする操作ではない。この点は、ここで押さえておく必要があります。

それでも「復元された=立件」ではない


 一方で、逆向きの誤解も同じくらい多く見られます。復元されたと言われた時点で、もう何も言えることは残っていない、という受け止め方です。

 復元された記録が示しているのは、その記録がそこにあった、というところまでです。条文は、それ以外にもいくつかの要素を求めています。

・その記録が、法律上の児童ポルノに当たるものか(同法二条三項各号)
・自己の意思に基づいて所持し、又は保管するに至ったといえるか(七条一項のかっこ書き)
・自己の性的好奇心を満たす目的であったといえるか
・写っているのが十八歳未満の児童か、その点をどう認識していたか

 これらは、復元された画面を見ただけで決まるものではありません。所持に至った経緯や、その量、扱われ方といった客観的な状況から判断されるとされています。要件そのものの詳しい説明は別の解説に譲りますが、記録が出てきたことと、条文の要件が満たされると判断されることは、同じではないという点は、ここで分けておいてください。

復元されたデータそのものからは分からないこと


 記録が復元されても、そこから直ちに読み取れないことがあります。その記録がどういう経緯でそこに来たのか、どのくらいの間そこにあったのか、置いたのが誰のどういう操作だったのか、といった点です。

 だからこそ、周辺に残った記録と、本人の説明が重い意味を持ちます。そして、ここで起きやすい行き違いがあります。記憶にない部分を、聞かれた流れのまま「たぶんそうだったと思います」と埋めてしまうことです。

 曖昧なまま述べた内容が、後から動かしにくい前提として扱われることがあります。分からないことは分からないままで構いません。分かる範囲と分からない範囲を分けて話すほうが、結果として説明の筋が通ります。

 同じことは、時期の記憶についても当てはまります。いつごろ端末に入り、いつごろ削除したのかという点は、後の判断に関わってくる部分です。それだけに、日付の記憶がはっきりしないまま数字を挙げてしまうと、その数字を前提に話が進みます。手帳や連絡の履歴など、手元で確認できるものと照らし合わせられる部分は照らし合わせ、確認できない部分はそう伝えるほうが安全です。

よく言われることと、実際の見られ方


 相談の場面で繰り返し出てくる受け止め方を、実際の扱いと並べて整理します。

よく言われること実際にはどう見られるか
削除したのだから証拠は残っていない消去より前に持っていたこと自体が問われることがある
復元されたのだからもう争えない記録があったことと、条文の要件が満たされるかは別に判断される
自動的に保存されただけだ認識や管理の状況から判断される。主張として意味を失うわけではない
覚えていないので答えられない分からないままで構わない。記憶にないことを断定的に語らない


消したこと自体が罪になるのか


 削除したこと自体が証拠隠滅の罪に当たるのではないか、という質問もよく受けます。刑法百四条の証拠隠滅等の罪は、「他人の刑事事件に関する証拠」を対象としています。自分の事件の証拠を自分で消した場合は、この罪の対象から外れると解されています。

 ただし、人に頼んで消させた場合や、頼まれて消した側については、評価が変わってきます。この点は別の解説で詳しく扱っています。

 そして、罪に問われないことと、不利に働かないことは別です。削除がいつ、どういう状況で行われたのかは、身柄拘束の要否や処分の判断において考慮されうる事情です。

これから消せば済む、という話ではない


 ここまでの説明を、「では今のうちに」という方向に読まないでください。本稿は、記録の消去や端末の処分を勧めるものではありません。理由は次のとおりです。

・すでに成立している罪が、消去によってなくなるわけではない
・捜査が動き出した後の消去や端末の処分は、証拠隠滅や逃亡のおそれの判断で不利に働くことがある
・記録が端末の中だけで完結していない場合が多く、同期先や送信先が残る

 もう一点、見落とされやすいことがあります。消えるのは、自分に不利な記録だけではありません。いつどのような経緯で記録がそこに入ったのかを説明する材料も、同時に失われます。争う余地があった事案で、その余地だけが先になくなることがあります。

連絡が来た段階で整理しておきたいこと


 警察から連絡があった、あるいは端末を提出したという段階で、手元で整理しておくと役に立つ事項を挙げます。

・いつ、どのような形で連絡があったか(書面か、電話か、訪問か)
・端末や記録媒体を任意で提出したのか、押収されたのか
・その際に交付された書面が手元にあるか
・提出や解析について、どのような説明を受けたか
・記録がいつごろ、どのような経緯で端末に入ったと考えているか
・削除をしたのがいつで、そのとき何があったか
・同期の設定や、ほかに使っている機器・アカウントの有無

避けたい対応


 反対に、この段階で取らないほうがよい行動もあります。

・端末や記録媒体を追加で処分する、初期化する、人に預ける
・家族や知人に消去や持ち出しを頼む
・記憶が曖昧なまま、筋の通った説明を作り込む
・関係すると思われる相手に自分から連絡を取る

弁護士に確認できること


 弁護士に相談する場面では、次のような点を具体的に確認できます。

・押収や提出の手続が、どの根拠に基づいて行われているのか
・解析の結果として、どの範囲が問題にされているのか
・条文のどの要素が争点になりうるのか
・取調べで説明する範囲を、どう整理しておくか
・端末や記録媒体が戻ってくる見通し

 早い段階で相談したからといって、望む結果が約束されるわけではありません。ただ、提出に応じるかどうか、どこまで説明するかといった、後から取り返しにくい判断が最初の数日に集まりやすいことは事実です。

まとめ


・デジタルフォレンジックは法令上の用語ではなく、記録された状態を保ったまま分析する作業の呼び方である
・記録媒体そのものが押収されるのは、削除の痕跡を含めた分析が制度の側で想定されているためである
・削除しても、それまでに成立した罪が消えるわけではない
・他方で、復元されたことがそのまま立件を意味するわけでもない
・「復元された」と言われている状況は一つではなく、当てはめの評価も分かれる
・消したこと自体が罪に問われない場面はあるが、不利に働かないという意味ではない
・記憶にないことを断定的に語らないほうが、後の判断の幅を狭めずに済む

 削除したはずの記録が出てきたという知らせは、それだけで結論が決まったように感じられるものです。実際には、そこから先に確かめられることがいくつも残っています。どの記録が、どこから、どういう形で出てきたのか。その一つひとつが、これから先の判断につながっていきます。一人で結論を出す前に、事実関係を整理する段階からご相談いただければと思います。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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