被害者が複数いる|弁償の順序と原資の作り方
児童ポルノ事件では、最初に問題になった一件だけで捜査が終わらないことがあります。スマートフォンやパソコンが押収され、その中から別の画像や動画、やり取りの記録が見つかると、「余罪」として扱われる範囲が当初の見込みより広がっていきます。
このとき、多くの方が気にされるのは「何件になるのか」という点です。ただ、児童ポルノ事件の余罪は、同じ罪が件数分だけ横に並んでいくという形では広がりません。端末に残っていた一つひとつの記録が、それがどういう経緯でそこにあるのかによって、別々の条文に振り分けられていきます。広がる方向が、件数ではなく罪名の側にあるという点が、この類型の特徴です。
この記事では、児童ポルノ事件で余罪がどの方向に広がっていくのか、その枠組みを整理します。なお、発覚を避けるための方法や、取調べでの受け答えの台本は扱いません。記録に写っているのは実在する子どもであり、その一つひとつに被害を受けた側がいるという前提で書いています。
「余罪」という言葉が児童ポルノ事件で指しているもの
余罪とは、いま捜査や起訴の対象になっている事実とは別に、同じ人が関わったと疑われている事実のことをいいます。児童ポルノ事件の場合、その多くは押収された端末や記録媒体の中から出てきます。
もっとも、「見つかった記録」がそのまま「余罪」になるわけではありません。捜査機関の側からみると、見つかった記録は最初の段階では手がかりにすぎず、そこから、いつ・どこで・誰を撮影したものか、あるいは誰から受け取ったものかを詰めていく作業が続きます。その作業の結果として、初めて別個の事実として立件されるかどうかが決まります。
端末がどのような根拠で調べられるのか、解析の結果が捜査全体のどこに位置づけられるのかについては、当事務所の別の記事で扱っています。ここでは、出てきた記録がどの方向に広がっていくのかという点に絞って説明します。
どこから始まった事件かで、広がる方向が変わる
余罪がどちらに向かって広がるかは、その事件がどこから始まったかによって傾きが違います。捜査機関がすでに手にしている情報の種類が違うためです。
たとえば、子どもの側から相談や申告があって始まった事件では、その子どもとのやり取りの全体が最初から見えている状態で捜査が進みます。この場合、同じ相手とのあいだで何回、どういう経緯があったのかが先に詰められ、そこから他の相手へと関心が移っていきます。
これに対して、記録が流通していた経路の側から始まった事件では、入口が画像そのものです。この場合は、まず端末に何が残っているかが確認され、記録ごとに入手の経緯をさかのぼる形で捜査が広がります。別の事件の捜索で端末が押収され、その解析の中で見つかったという入り方も、進み方としてはこちらに近くなります。
どちらの入口であっても、最終的には記録ごとの経緯が確かめられていく点は変わりません。ただ、先に何が確認されているかによって、こちらが最初に整理しておくべき事柄の順番は変わります。
記録はまず「どうしてそこにあるか」で仕分けされる
児童買春・児童ポルノ禁止法は、7条で行為の類型ごとに別々の罰則を置いています。同じ一つの画像データであっても、それが端末に入った経緯が違えば、動く条文も変わります。
ここが、盗撮事件などとの大きな違いです。盗撮であれば、撮影行為が一回あれば一件、というように、行為と件数が比較的そろって数えられます。これに対して児童ポルノ事件では、端末から出てきた記録ごとに経緯を確かめる作業が入り、その結果として罪名の側が増えていくという進み方をします。
| 記録がそこにある経緯 | 主に問題になる規定 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 自分で保存し、持っていた | 7条1項(所持・保管) | 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 相手に姿態をとらせて撮影・送信させた | 7条4項(製造) | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 相手に知られない態様で撮影した | 7条5項(製造) | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 特定の相手に渡した、その目的で持っていた | 7条2項・3項(提供等) | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 不特定又は多数が見られる状態に置いた、その目的で持っていた | 7条6項・7項(提供・公然陳列等) | 5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金(併科あり) |
なお、それぞれの行為類型の詳しい要件と罰則については、当事務所の解説記事で個別に取り上げています。ここで押さえておきたいのは、端末の中では見分けがつかない同じような記録が、経緯次第で法定刑の異なる別の条文に乗るということです。
保存の経緯が変わると、処分の見通しも変わる
上の表からわかるとおり、7条1項の所持・保管と、7条6項の公然陳列等とでは、法定刑の幅がかなり違います。ダウンロードして持っていただけだと考えていた記録について、実際にはやり取りの中で相手に姿態をとらせて送らせていた経緯が確認されれば、動く条文は製造の側に移ります。
その意味で、余罪の広がり方を考えるときに見るべきなのは、見つかった記録の数よりも、経緯の種類がいくつあるかです。数十件の記録がすべて同じ経路で保存されたものであれば、法的な評価はひとかたまりに近づきます。逆に、数件しかなくても、そこに保存・撮影・送信という別々の経緯が混ざっていれば、扱いは重い方向に動きやすくなります。
「何件」と数えるのかは、ファイルの数とは一致しない
余罪が何件になるのかという問いには、ファイルの数を数えれば答えが出る、という形の答え方はできません。刑法には罪数という考え方があり、複数の行為であっても、同じ意思のもとで一続きに行われたと評価できる場合には、まとめて一つの罪として扱われることがあります。
最高裁は、児童ポルノを不特定又は多数の者に提供するとともに、提供する目的で所持していたという事案について、両者は原則として併合罪の関係に立つと判断しています。ただしその事案では、わいせつ物の販売等との重なり方から、全体として一罪と扱われました。同じ端末から出てきた記録であっても、行為の重なり方によって、別の罪として並ぶこともあれば、まとめて評価されることもあるということです。
この点は、良い知らせとしても悪い知らせとしても読まないほうが正確です。件数が想定より少なくまとめられることもあれば、想定していなかった条文が別に立つこともあります。実際にどう整理されるかは、記録ごとの経緯が確認されたあとでなければ見通しが立ちません。
被写体が今は大人になっていても、余罪から外れるわけではない
押収された端末から、かなり前に保存した記録が出てくることがあります。「写っている人はもう成人しているはずだ」という説明を考える方もいますが、この点について最高裁は、描写されている人物が製造の時点で18歳未満であることは必要ないという判断を示しています。撮影された時点で18歳未満であれば、その後どれだけ時間が経っていても、その記録は児童ポルノとしての性質を保ち続けるという整理です。
余罪との関係でいえば、古い記録であることは、それ自体では余罪から外れる理由になりません。他方で、所持や保管といった罪にも公訴時効はあり、その起算点をどう考えるかは記録ごとに検討が必要になります。時効の考え方については、当事務所の別記事で罪名ごとに整理しています。
余罪は児童ポルノ禁止法の外側にも出ることがある
端末の中から出てきたのが画像だけとは限りません。相手とのやり取りの記録が残っていれば、そこから、画像が保存された経緯だけでなく、その前後に何があったのかが問題になります。
最高裁は、児童福祉法34条1項6号の児童に淫行をさせる罪と、児童ポルノ製造罪とは併合罪の関係に立つと判断しています。両者は通常伴う関係にあるとはいえず、保護しようとしているものも違う、というのが理由です。つまり、画像に関する罪と、その画像が生まれる前の行為に関する罪とが、別々に並ぶことがあるということになります。
同じように、都道府県の青少年保護育成条例、児童買春に関する規定、2023年7月に施行された性的姿態等撮影処罰法など、児童ポルノ禁止法の外側にある規定が同時に問題になる場面もあります。余罪の広がりを考えるときは、児童ポルノ禁止法の中だけで完結しないという点を前提にしておく必要があります。
端末の中だけで終わらない場面
記録が保存されていた場所が端末の内部だけとは限りません。クラウドのストレージ、メッセージアプリの履歴、購入や決済の記録なども、経緯を確かめる材料になります。
端末の外に残ったデータに捜査がどう届くのかについては、当事務所の別記事で扱っています。ここでは、端末を提出したことで確認できる範囲がすべてではないという点だけ触れておきます。手元の端末に何が残っているかを見て見通しを立てても、その見通しが後で動くことがあります。
「見つかった」と「立件された」は別だが、特定できないことは有利とは限らない
記録が出てきても、被写体が誰なのかが分からなければ、その記録を単独の事実として立件することは難しくなります。これは事実です。
ただ、被害児童が特定されていないことは、当事者にとって単純に有利な事情とは言い切れません。児童ポルノ事件では、被害を受けた子どもがいる場合、その保護者と示談ができるかどうかが処分の判断に影響します。相手が分からなければ、その選択肢自体が使えないことになります。
| 被害児童の状況 | 手続で起きやすいこと | とり得る対応 |
|---|---|---|
| 特定されている | 示談の可否が処分に影響する。連絡先は本人には知らされないのが通常 | 弁護人を通じて捜査機関に取り次ぎを求め、保護者と交渉する |
| 特定されていない | その記録単独では立件が難しい一方、他の事実の情状として考慮されることがある | 示談以外の形で、再発を防ぐための取り組みを積み上げる |
| 被写体が現在は成人している | 撮影時に18歳未満であれば罪の成否には影響しない | 記録の入手経緯と時期を整理し、適用される規定を確認する |
削除していた記録が出てきた場合
「消したはずのものが出てきた」という相談は少なくありません。ここで押さえておくべきなのは、削除したことによって、それまでに成立していた罪がなかったことになるわけではないという点です。ある時点で持っていたという事実そのものは、消去によって消えるものではありません。
あわせて申し上げると、捜査の連絡を受けた後に端末を処分したり、記録を消したりする行為は、身柄拘束の必要性を判断する場面で不利に働くことがあります。この記事では、消去や端末の処分をすすめる書き方はしていません。すでに捜査が始まっている段階では、何をするかを自分だけで決めないことのほうが、結果として選択肢を残すことにつながります。
連絡が来た段階で整理しておきたいこと
余罪の広がりは、経緯が確かめられていく過程で形が決まります。そのため、早い段階で自分の側の事実関係を整理しておくことには意味があります。次のような点が、弁護士と話す際の出発点になります。
・最初に問題になっているのがどの記録・どの行為なのか
・端末や記録媒体が押収されているか、どの範囲まで提出したか
・記録がいつごろ、どういう経路で保存されたものか、思い出せる範囲で
・相手とのやり取りが残っている場面があるかどうか
・すでに取調べを受けているか、何を聞かれているか
・仕事や学校との関係で、いつまでに何を決める必要があるか
一方で、避けたい対応もあります。
・端末や記録媒体を処分する、記録を消去する
・相手方や、その家族に自分から直接連絡をとる
・記憶があいまいなまま、断定的に説明したり否定したりする
・関係者に口裏合わせを持ちかける
弁護士に確認できること
余罪をめぐる相談では、次のような点を具体的に確認できます。
・見つかっている記録が、どの規定の問題として扱われる見込みか
・罪数がどう整理されそうか、処分の幅がどのあたりになりそうか
・被害児童が特定されている場合に、示談の申し入れが可能かどうか
・身柄拘束が続くかどうか、続いた場合の見通し
・勤務先や学校への影響を小さくするために、いま何ができるか
・再発を防ぐための取り組みとして、どのような選択肢があるか
なお、早い段階で相談したからといって、望む結果が約束されるわけではありません。ただ、経緯の整理や示談の申し入れは、時期を過ぎると選択肢そのものがなくなることがあります。
まとめ
・児童ポルノ事件の余罪は、件数が並ぶ形ではなく、記録ごとの経緯によって別の条文に振り分けられる形で広がる
・同じような記録でも、保存・製造・提供・公然陳列のどれにあたるかで法定刑の幅が変わる
・何件になるかはファイルの数と一致せず、行為の重なり方によってまとめて評価されることも、別々に並ぶこともある
・撮影された時点で18歳未満であれば、被写体が現在は成人していても記録の性質は変わらない
・余罪は児童福祉法や条例など、児童ポルノ禁止法の外側にも及ぶことがある
・被害児童が特定されていないことは、示談という選択肢が使えないことも意味する
・削除しても、それまでに成立していた罪がなくなるわけではない
端末から思いがけない記録が出てきた段階では、これから何がどこまで問題になるのかが見えにくく、不安が先に立ちやすいところです。もっとも、余罪の広がり方には一定の枠組みがあり、経緯を一つずつ整理していけば、見通しを立てられる部分は少なくありません。ご自身の状況にどの枠組みが当てはまるのかは、事情をうかがったうえでご説明できます。


