同棲中に飼っていたペットはどちらが引き取る?ペットの帰属トラブル

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

 同棲を解消するとき、家具や家電は「これはあなた、これは私」と分けていくことができます。しかし、犬や猫はそうはいきません。二人で飼っていた子を、どちらが引き取るのか。どちらも譲らないまま話し合いが止まってしまい、やがて「連れて行かれた」「返してくれない」という状態に発展することがあります。

 このテーマは離婚の文脈で語られることが多いのですが、結婚していない同棲カップルの場合、前提となるルールが離婚とは異なります。ここを取り違えたまま交渉を始めると、話が噛み合わないまま長期化しかねません。本コラムでは、同棲解消時のペットの帰属について、法的な整理と、実務上気をつけたい点を解説します。

1. 同棲のペットには「財産分与」のルールが使えない

 まず前提として、法律上、ペットは動産、つまり「物」として扱われます(民法86条2項)。感情としては家族そのものであっても、法律の分類は素っ気ないものです。そのため、子どもについての親権・養育費・面会交流といった制度は、ペットには適用されません。

 そのうえで、婚姻関係の有無によって使えるルールが変わります。

  • 離婚の場合:夫婦が婚姻中に協力して取得した財産として、財産分与(民法768条)の枠組みで処理されます。裁判所は「一切の事情を考慮して」分与を定めるとされているため(同条3項)、どちらが世話をしていたか、どちらになついているか、離婚後の飼育環境はどうかといった事情を、裁判所が裁量の中で考慮する余地があります。
  • 内縁(事実婚)の解消:財産分与の規定を類推適用する扱いが認められています。
  • 単なる同棲の場合:財産分与の土俵に乗りません。「誰が所有者なのか」という所有権の帰属の問題として整理されることになります。

 ここが最も重要なポイントです。離婚のケースを解説した記事に出てくる「世話の実績」「どちらになついているか」といった要素は、財産分与という調整の枠組みがあってはじめて正面から考慮されるものです。同棲の場合は、まず所有権が誰にあるかという入口で結論が決まりやすく、世話をしてきた事実だけで所有権が自分に移るわけではありません。「ずっと自分が世話をしてきたのだから当然自分のものだ」という感覚は、法的な結論と一致しないことがあります。

2. 所有者は誰か——出発点は「誰が費用を負担したか」

 では、所有権は誰にあると考えるのでしょうか。

 ペットショップやブリーダーから購入した場合は、原則として購入代金を負担した人が所有者となります。二人で折半したのであれば、二人の共有です。共有者の持分の割合が明確でなければ、相等しいものと推定されます(民法250条)。

 一方が全額を負担し、契約上の名義もその人だった場合は、その人の単独所有と評価されるのが原則です。もう一方が日常の世話を担っていたとしても、それだけで所有権が移るとは限りません。

 保護団体などから譲り受けた場合は、譲渡契約の相手方が誰か(誰が譲受人として署名し、条件を引き受けたか)が手がかりになります。同棲を始める前から一方が飼っていた場合は、その人の所有のままです。

手元で確認しておきたい資料

  • 売買契約書、譲渡誓約書、領収書、クレジットカードの利用明細
  • マイクロチップの登録情報(所有者として誰が登録されているか)
  • 犬の場合、狂犬病予防法に基づく登録・鑑札の名義
  • 動物病院の診察券やカルテの名義、ペット保険の契約者
  • フード代・医療費・トリミング代などの継続的な支払い記録

 なお、マイクロチップについては、令和4年6月1日から犬猫の販売業者に装着・登録が義務づけられ、飼い始めた人は原則30日以内に所有者情報の変更登録を行うこととされています。犬の場合、この登録によって狂犬病予防法上の登録が完了する特例もあります。ただし、後述するとおり、登録名義は所有権を判断する一つの材料にとどまり、それだけで決まるものではありません。

3. 参考になる裁判例——横浜地裁の判断(2026年3月)

 同棲していた二人が共同で飼っていた犬の帰属が争われた事案について、2026年3月19日に横浜地裁が判断を示しています。報道されている内容によれば、事案と判断の概要は次のとおりです(判決文そのものを確認したものではなく、また原告側は控訴の方針と報じられているため、確定した判断ではない点にご留意ください)。

事案の経緯

 同居中の二人が犬を購入し、購入費用は折半しましたが、所有者としての登録は一方(後の被告)の名義でした。その後、被告側から関係解消の申し出があり、被告の転居後は、もう一方(後の原告)が単独で犬を飼育していました。ところが被告が「週末に預かりたい」と申し出て犬を連れ帰り、翌日に返すという約束をしたにもかかわらず、理由を告げずに返還を拒み、代理人弁護士を通じて原告の持分を買い取る旨を提案しました。原告は、被告が持分を放棄したので自分の単独所有になっていると主張して、犬の引渡しと損害賠償を求めました。

裁判所の判断

  • 犬は購入時点で各2分の1ずつの共有であったと認定。
  • 転居後も、双方が持分を放棄したとは認められない。
  • したがって原告の単独所有は認められず、引渡請求は棄却。共有者である被告が犬を占有していることは権利の濫用にはあたらない。
  • 一方で、翌日返すという約束に反し、合理的な理由を示さないまま返還を拒み続けた点については不法行為が成立する。
  • ただし犬は法律上「動産」であり、その時点の財産的損害を裏付ける証拠はないとして、慰謝料など計11万円の支払いを命じた。

ここから読み取れる3つのこと

  1. 登録名義は決め手ではない。 所有者としての登録は相手方の名義でしたが、購入費用を折半していた事実が重視され、共有と認定されています。逆にいえば、名義があるからといって単独所有が確定するわけでもありません。
  2. 共有だと「返せ」と言いにくい。 共有者はそれぞれ共有物の全部について持分に応じた使用ができるとされています(民法249条1項)。そのため、相手が今その子を手元に置いているというだけでは、引渡しを求める根拠になりにくく、単独所有だと主張する側がそれを立証しなければなりません。
  3. 帰属の問題と、取り返し方の当否は別に評価される。 引渡請求は認められなかった一方で、「返す」と約束しながら理由なく返さなかった経緯は、それ自体が違法と判断されています。どちらのものかという争いと、その過程での振る舞いは、切り分けて評価されうるということです。

4. 話し合いがまとまらないとき——共有物分割という手続

 二人の共有と整理される場合、共有関係を解消する法的な手続は共有物分割です。協議が調わないときは、裁判所に分割を請求することになります(民法258条1項)。

 裁判所が命じる分割の方法は、令和5年4月1日施行の改正民法で次のように整理されました。

  • 現物分割(258条2項1号):共有物を物理的に分ける方法
  • 賠償分割(258条2項2号):一方の単独所有とし、その人が他方に持分相当額を支払う方法
  • 競売による分割(258条3項):上記の方法によることができない場合など

 生き物を物理的に分けることはできませんし、競売にかけるという結論も現実的とはいえません。そのため、実際に選択肢となるのは賠償分割です。

 もっとも、ここには割り切れなさが残ります。動産としての評価額は購入価格や同種の市場価格が基準になりやすく、成長した個体では評価がほとんど付かないことも珍しくありません。飼い主にとっての価値と、法的な評価額とが大きくかけ離れる場面です。加えて、訴訟には時間も費用もかかり、その間もその子は誰かの生活の中で年を重ねていきます。手続の見通しが立つ場合でも、まずは協議で決着させることを優先すべき理由がここにあります。

5. 感情的な行動が新たな責任を生むことがある

 こじれたときにとりがちな行動のうち、法的なリスクを伴うものを整理しておきます。

相手のもとから勝手に連れ戻す

 権利があると思っても、自分の手で実力行使をすること(自力救済)は原則として許されないとされています(最高裁昭和40年12月7日判決)。自分にも持分がある場合であっても、他人が占有している物を無断で持ち去れば、刑法242条により窃盗罪が問題となる余地があります。相手の住居に無断で立ち入れば住居侵入罪(刑法130条)にあたる可能性もあり、民事上も不法行為として賠償責任を負いかねません。

嫌がらせとして返還を拒む・会わせない

 前記の裁判例が示すとおり、返す約束をしておきながら合理的な理由もなく拒み続ければ、不法行為と評価されることがあります。「連れ去られた」「返さない」の応酬は、双方に責任が生じうる状況です。

押し付け合い・置き去り

 どちらも引き取れる状況にない、というケースもあります。しかし、置き去りにすることは動物愛護管理法44条3項の遺棄にあたり、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が定められています。世話をやめて衰弱させるなどの行為は同条2項の虐待として同じ法定刑、傷つけた場合は同条1項により5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金とされています。引き取れない事情があるのであれば、自治体の窓口や愛護団体に相談し、次の飼い主を探すことが先決です。

6. 「会わせてほしい」「飼育費を負担してほしい」は合意で作る

 引き取れなかった側が、その後も会いたいと考えるのは自然なことです。しかし、子どもの面会交流や養育費にあたる制度はペットにはありません。法的な権利として面会や飼育費の分担を請求することは、原則としてできません。

 裏を返せば、当事者が合意すれば自由に決められるということでもあります。同棲解消の際に取り交わす書面に、次のような項目を入れておくことが考えられます。

  • どちらが引き取るか(所有権の帰属を明記する)
  • 引き取らない側への金銭の精算(購入費用の負担割合を踏まえた清算)
  • 面会の可否、頻度、方法
  • 飼育費用の分担の有無と金額
  • 既往症、投薬、フード、かかりつけ医などの引き継ぎ
  • 今後この件について互いに請求しないこと(清算条項)
  • 連絡方法の限定(関係がこじれている場合)

 あわせて、マイクロチップの所有者情報や犬の登録の名義変更も済ませておくことをおすすめします。合意書の内容と登録がずれたままだと、後日「名義は自分になっている」という主張を生む火種になります。

7. これから一緒に飼う人へ

 もっとも確実なのは、飼い始める段階で決めておくことです。購入費用を誰がどれだけ負担したのか、所有者を誰にするのか。別れることを前提にした話し合いのようで気が進まないかもしれませんが、これはその子の生活を不安定にさせないための取り決めでもあります。領収書を残し、登録名義を決め、できれば簡単なメモを一通交わしておく。それだけで、後の紛争の多くは避けられます。

まとめ

  • 同棲カップルのペットには財産分与のルールが使えず、所有権が誰にあるかという枠組みで判断されます。
  • 出発点は購入費用を誰が負担したか。折半なら共有となり、登録名義だけでは結論は決まりません。
  • 共有と整理されると、相手が手元に置いていることをもって直ちに「返せ」とは言いにくく、話し合いが調わなければ共有物分割の手続によることになります。
  • 一方で、勝手な連れ戻しや、理由のない返還拒否、置き去りといった行動は、それ自体が新たな法的責任を生むおそれがあります。
  • 面会や飼育費の分担に法的な権利はないため、合意書で作っておくことが実務的な解決策になります。

 ペットの帰属をめぐる争いは、金額の問題ではないだけに、当事者だけでは冷静な話し合いが難しくなりがちです。連絡が途絶えている、感情的なやり取りが続いている、相手に代理人がついたといった段階では、交渉の窓口を弁護士に一本化することで、その子にとっても負担の少ない形で決着させられる場合があります。手元にある資料を整理したうえで、早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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