【カスハラ対策】客とのやり取りを録音すると掲示してよいか|通話録音の告知

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

店内に「お客様とのやり取りを録音しています」と貼り出してよいのか、電話の冒頭で録音の案内を流すべきなのか。2026年10月1日にカスタマーハラスメント対策が事業主の義務となることもあり、録音の告知をどう扱うかというご相談が増えています。ここでは、掲示や告知が法律上どのように位置づけられるのか、何を書けばよいのか、そして先に告げたことで何が変わり、何は変わらないのかを整理します。

掲示して録音すること自体は、禁じられていない

 前提として、自分が当事者として加わっている会話を録音する行為そのものを禁じた規定は見当たりません。従業員が客とのやり取りを録音する場面は、これに当たります。掲示は、その録音をあらかじめ知らせておくための手段の一つです。

 東京都が事業者向けに公表している共通マニュアルでも、会話の録音についてはトラブルを避けるため事前承諾を得ることが望ましいとしたうえで、同意を得ない録音でも直ちに違法ではないとされる、と整理されています。録画については、店舗内に掲出しておくことが望ましいと記載されています。

 告知は法律上の義務ではないものの、望ましい方向として示されている。これが出発点になります。

掲示・アナウンス・その場の一言は役割が違う

 「告知」とひとくくりにされがちですが、手段によって届く相手も、期待できる働きも変わります。

手段届く相手向いている場面
店内やカウンターの掲示来店した人のうち、掲示に目を留めた人日常的に録音する運用を続ける場合
電話の冒頭アナウンス電話をかけてきた人のほぼ全員通話を一律に録音する場合
その場で口頭で伝える目の前にいる相手だけやり取りが激しくなった場面で個別に録る場合


 掲示は「常に録っている」という状態を知らせるのに向いている一方、電話には届きません。逆に、その場で口頭で伝える方法は相手に直接届きますが、伝えた瞬間に相手の態度が変わることもあります。三つを別のものとして組み合わせるのが実際的です。

掲示は「同意をもらう手続」ではなく「知らせる手続」

 ここは誤解されやすいところです。掲示は、録音してよいという承諾を取り付けるためのものではありません。

 個人情報の取扱いに関するルールでは、事業者は利用目的をできる限り特定し、個人情報を取得したときは、あらかじめ利用目的を公表している場合を除き、速やかに本人へ通知するか公表することとされています。この「公表」の方法として、店舗や事務所など顧客が訪れることが想定される場所でのポスター等の掲示や、パンフレットの備置き・配布が例に挙げられています。掲示は、この公表の手段として位置づけられるものです。

 したがって、掲示があるからといって、相手が録音に同意したことになるわけではありません。もっとも、特定した利用目的の範囲内で扱う限り、本人の同意までは求められていません。同意を得なければ録音できない、という関係にはないという点は押さえておいてよいところです。

「掲示がないのに録音するのは違法だ」と言われたら

 録音していることをその場で伝えるよう直接義務づけた規定は見当たりません。加えて、クレーム対応の場面については、利用目的の通知や公表をしなくてよい例外に当たると説明されることが多く、事前の告知がなかったことだけを理由に違法と評価されるとは考えにくいところです。

 ただし、相手がその主張を続ける場面で、法律論を戦わせても実益は乏しいでしょう。「記録のために録音しています」「目的以外には使いません」と用途を短く伝え、話題を用件に戻すほうが収まりやすくなります。

掲示や案内に何を書くか

 書く項目は多くありません。次の5点が入っていれば、公表としての形は整います。

  1. 録音(録画)を行っていること。
  2. どの範囲で行っているか(電話、カウンター、店内など)。
  3. 何のために使うか(応対内容の記録、応対品質の確認、トラブルが生じた際の事実確認など)。
  4. 問い合わせ先(担当者や連絡先)。
  5. 希望があれば説明に応じる旨。


掲示とアナウンスの文例

 店内掲示であれば、次のような書き方が考えられます。

 「当店では、応対内容の記録およびトラブルが生じた際の事実確認のため、お客様とのやり取りを録音させていただく場合があります。録音した内容は、上記の目的以外には使用いたしません。ご不明な点は係員までお申しつけください。」

 電話の冒頭であれば、「応対品質の向上と内容の記録のため、通話を録音させていただいております」といった短い案内が一般的です。長い文言は聞き流されやすいため、目的が伝わる範囲で短くまとめるほうが向いています。

「カスハラ対策のため」と書くべきか

 利用目的は、できる限り具体的に特定することが求められます。もっとも、掲示の文言は、来店する人の大半を占める通常の利用者にも向けられています。「迷惑行為の防止」といった強い言い回しを前面に出すと、正当な申し出まで言い出しにくくさせる面があります。目的そのものは社内の規程に具体的に書き、掲示では平易な表現にとどめるという分け方が現実的です。

掲示だけでは届かない相手がいる

 掲示は、見た人にしか届きません。運用を決めるときは、次のような場面が抜けやすいので確認しておくとよいでしょう。

  • 電話は掲示が見えないため、冒頭のアナウンスや口頭での案内が別に要る。
  • 訪問先や顧客の自宅など、自社の掲示が届かない場所での対応。
  • 掲示が入口だけにあり、やり取りが起きるカウンターからは見えない場合。
  • ウェブサイトに掲載する場合に、来店した人がその記載にたどり着けるかどうか。


 ウェブサイトでの公表について、個人情報保護委員会は、店頭販売が中心の事業者でもホームページでの公表は可能と解されるとしつつ、来訪した人にとってそのページが把握できることを含め、分かりやすい場所への掲載が求められると説明しています。どこかに載せておけば足りるという性質のものではありません。

先に告げた場合と告げない場合で、何が変わるか

 告知するかどうかは、録音が使えるかどうかの問題というより、その場のやり取りの進み方の問題として考えるほうが整理しやすくなります。

場面先に告げた場合告げなかった場合
相手の言動記録に残ると意識され、落ち着くことがあるふだんの調子のまま記録に残る
その場の反応「録音するな」という反発が出ることがある反発は起きにくい
あとの説明いつから何のために録っていたかを説明しやすい経緯を別に説明する必要が生じやすい
向いている狙い抑止と記録の両方をねらう場面そのときの言動をそのまま残す場面


「録音するな」と言われたとき

 告知をすると、この反応が返ってくることがあります。まずは録音の目的を短く伝えます。そのうえで、相手が録音を止めない限り話をしないという姿勢を崩さない場合には、無理に会話を続けず、その日の対応をいったん終える判断もあり得ます。

 注意したいのは、すでに録音したデータを消せという要求に、その場で応じないことです。目的の範囲で保管しているものであり、削除の可否は社内で確認してから回答すると伝えれば足ります。その場の勢いで消してしまうと、後から経緯を説明する材料がなくなります。

録ったあとの扱いのほうが、問題になりやすい

 録音そのものより、保管と使い方の場面で問題が生じることのほうが多いといえます。掲示に書いた目的から外れた使い方、社内の誰でも聞ける状態、期限を決めない保管は、いずれも避けたいところです。記録の作り方や保管の手順そのものは、別のコラムで扱っています。

「録音を出せ」と言われたとき

 本人から自分に関する記録の開示を求められた場合、事業者はこれに応じることが求められます。他方で、業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合など、全部または一部を開示しないことができる場合も定められています。

 その場で結論を出さず、求めの内容を書き取り、いつまでに回答するかを伝えてから検討するのが無難です。窓口で即答してしまうと、後から方針を変えにくくなります。

従業員の声も一緒に記録される

 録音には、応対した従業員の声も残ります。常時録音する運用を入れるときは、客への告知だけでなく、従業員に対しても目的と範囲を先に説明しておくことが要ります。説明のないまま常時録音が始まると、従業員を守るための仕組みが監視と受け取られかねません。

録画・撮影は、録音と同じには考えない

 映像には容ぼうが写るため、録音とは別の配慮が必要になります。最高裁は2005年11月の判断で、みだりに自己の容ぼう等を撮影されない利益に触れ、撮影が社会生活上受忍すべき限度を超える場合には違法となり得るという考え方を示しています。東京都のマニュアルが、録画について店舗内での掲出を望ましいとしているのも、この点と関わります。

相手から録音・撮影される場合

 客の側が録音や撮影をすることもあります。電話については、こちらから止める根拠は見出しにくいところです。他方、店舗内での撮影については、施設の管理権を根拠に断ることが考えられます。断る場合は、その場の思いつきではなく、あらかじめ方針を決めて掲示しておくほうが説明しやすくなります。

 いずれにしても、録られている前提で応対を組み立てておくほうが無難です。掲示を出す側が、自分の応対も記録に残ると意識しておくことには意味があります。

2026年10月の義務化との関係

 2026年10月1日から、顧客等の言動に関して雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。厚生労働省の指針は、講じるべき対処の内容の例のひとつとして録音・録画を挙げており、個人情報の取扱いに関する法令を守ることが前提とされている点も示されています。

 もっとも、掲示を出せば措置義務を満たすというものではありません。掲示は、方針を明確にして周知するという措置の一部を担う位置づけにとどまります。義務の全体像については、別のコラムで扱っています。

掲示するときに避けたい進め方

 ご相談を受ける中では、次のような形が後の説明を難しくしています。

  • 掲示は出したものの、実際には録っていない、または一部の窓口でしか録っていない。
  • 掲示の文言が強く、通常の申し出までしにくい雰囲気になっている。
  • 掲示に書いた目的を超えて、社内の別の用途に使っている。
  • 掲示だけを先に出し、保管の期間や聞ける人の範囲を決めていない。
  • 掲示を貼ったまま、運用が変わっても文面を見直していない。


よくあるご質問

 掲示や告知について、事業者の方からよく寄せられる質問をまとめます。

掲示を出せば、その場で告げなくてよくなりますか

 利用目的の公表という意味では、掲示で足りると考えられます。ただし、掲示を見ていない相手には伝わっていません。相手の言動が落ち着くことを期待する場面では、その場で一言添えるほうが働きます。

「録音に同意しない方の対応はお断りします」と書いてよいですか

 書くこと自体が禁じられているわけではありませんが、正当な申し出まで断る運用と受け取られると、別の紛争を招きます。対応を打ち切る基準は掲示に書き切らず、社内の手順として定めておくほうが扱いやすくなります。

実際には録音していないのに、録音していると伝えてもよいですか

 その場では効くように見えても、後日「記録があるはずだ」と求められたときに説明ができなくなります。事実と異なる案内は避け、必要であれば実際に録れる仕組みを用意するほうが、結果として負担は軽くなります。

従業員のいない個人事業でも掲示してよいですか

 差し支えありません。措置義務は雇用する労働者に関するものですが、指針は、雇用する労働者以外の人に対する顧客等の言動についても同様の方針を示すことが望ましいとしています。事業者自身を守るための記録として、掲示と録音の運用を整えておく意味はあります。

おわりに

 掲示や告知は、相手を牽制するための道具というより、どこまでを記録として残しているのかを、あらかじめはっきりさせておくための手続です。出すか出さないかを迷うより、出したうえで運用をそろえるほうが、後の説明は楽になります。

 当事務所では、店舗や事業所における不当な要求への対応、掲示や社内手順の整備、相手方との交渉についてご相談を承っています。掲示の文言や録音の運用に迷われている場合も、現在の状況をうかがったうえで、進め方をご提案します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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