避妊の有無が争点になる場面|感染・妊娠の主張と請求
「規約に書いてあります」。店とのやり取りの途中でこの一言が出ると、そこで話が終わってしまったように感じる方は少なくありません。実際、店の利用規約やホームページに、禁止行為とその場合の取り扱いが書かれていること自体は珍しくありません。ただ、そこに書いてあるという事実と、その内容があなたと店との約束になっているかどうかは、法律上は別の問題として扱われます。
この記事では、店の規約が客を拘束するのはどういう場合か、という入口の部分だけを取り出して整理します。書かれている条項そのものがどこまで効力を持つか、請求されている金額が妥当かどうかについては、それぞれ別の記事で扱っています。
この記事が前提としている場面
成人同士のやり取りで、客の立場から「規約に書いてある」と言われている場面を想定しています。すでに逮捕されている、警察から呼び出しを受けているといった段階では取るべき対応が変わりますので、その場合は個別に弁護士へご相談ください。
また、この記事は店のルールに反する行為を勧めるものではありません。ここで扱うのは、すでに「規約に書いてある」と言われている状態から、何が決まっていて何がまだ決まっていないのかを整理するための視点です。
「規約に書いてある」という一言が答えていないこと
店の側が「規約に書いてある」と言うとき、その言葉は次の三つを一度に主張しているように聞こえます。しかし、この三つは本来別々に検討されるものです。
- その規約が、あなたと店との契約の内容になっているか。
- 契約の内容になっているとして、その条項がそのまま働くか。
- その条項が、今回起きた出来事に当てはまるか。
この記事が扱うのは、一つ目だけです。二つ目と三つ目は、一つ目がクリアされて初めて出てくる問題で、それぞれ条項の型ごとの効き方や、金額の考え方を扱った別の記事で整理しています。
順番が大事なのは、請求する側は通常、この三つをまとめて一つの結論として示してくるからです。書面に条項が印刷されていること自体は事実であっても、それが直ちに「あなたが同意していた」ことを意味するわけではありません。
規約が契約の内容になる二つの道
民法には、店が用意した規約が客を拘束することになる道が、大きく二つ用意されています。一つは、あなた自身が個別にその内容を受け入れた場合。もう一つは、個別に読んでいなくても、一定の条件を満たせば合意したものとみなされる「定型約款」の仕組みです。
| 規約が契約内容になる道 | 典型的な場面 | 問われること | そうならない場合 |
|---|---|---|---|
| 個別に合意した | 署名した書面、チェックを入れた画面、口頭での承諾 | 承諾の意思表示があったといえるか、対象となる内容が特定できるか | 署名も承諾もない、どの書面を指すのか特定できない |
| 定型約款のみなし合意(第一の入口) | 「規約に同意します」という確認を受けたうえで申し込んだ | 定型取引に当たるか、規約を契約内容とする旨の合意があったか | 定型取引に当たらない、その旨の合意が見当たらない |
| 定型約款のみなし合意(第二の入口) | 申込みの前に、規約を契約内容とする旨を伝えられていた | あらかじめ相手方に表示していたといえるか | 表示が契約より後だった、相手方に向けた表示といえない |
| どちらの道にも乗らない | 店内の掲示だけ、後から見せられた書面 | — | 原則として契約の内容にはならず、別の合意があったかが問われる |
道その一 自分で受け入れた場合
署名した、チェックを入れた、「わかりました」と答えた。こうした場合は通常の契約のルールで判断されます。押さえておきたいのは、内容を読んでいなかったとしても、受け入れたこと自体は残るという点です。「読まずにサインした」という事情だけで、承諾がなかったことになるわけではありません。
もっとも、これは「サインした以上すべて決まった」という意味でもありません。承諾があったかどうかと、その条項がそのまま働くかどうかは、やはり別に検討されます。署名した書面の条項ごとの見方は、別の記事で扱っています。
道その二 定型約款としてのみなし合意
民法五四八条の二第一項は、一定の取引について、個別の条項を読んでいなくても合意したものとみなす、という規定を置いています。切符を買うたびに運送約款を読む人はいませんが、それでも約款が適用されるのはこの仕組みによります。店側が「規約に書いてある」と言うとき、実質的にはこの仕組みを前提にしていることが多く、その前提が実際に満たされているかを確認することが入口の検討になります。
まず「定型取引」に当たるかが問われる
みなし合意の規定は、どんな契約にも使えるわけではありません。条文は、対象となる取引を「定型取引」として定義しており、その中身は二つの要素からできています。
- ある特定の者が、不特定多数の者を相手方として行う取引であること。
- その内容の全部または一部が画一的であることが、当事者双方にとって合理的であること。
二つ目の「双方にとって合理的」という部分は、見落とされがちですが重要です。一人ひとりと条件を交渉することが想定されている取引は、この定義から外れる方向に働きます。逆に、誰に対しても同じ条件で提供することに意味がある取引であれば、当てはまりやすくなります。
店の利用規約がこれに当たるかは、営業の形態や実際のサービスの提供のされ方によって変わり得ます。一律に決まるものではなく、個別の検討事項です。「規約と名前が付いているから当然に定型約款だ」とも、「風俗店の規約だから定型約款ではない」とも決めつけられません。
定型約款に当たらないと、客に有利になるとは限らない
ここは誤解されやすいところです。定型取引に当たらなければ、みなし合意の規定は使えません。その結果、店の側は「あなたが個別に承諾した」ことを示す必要が出てきます。この点だけを見れば、客の側に有利に働く場面はあります。
一方で、定型約款のルールには客の側を守る規定も含まれています。後で触れる不当な条項を合意から外す規定や、内容を見せるよう求められる規定は、いずれも定型約款であることが前提です。つまり、「定型約款に当たらない」という主張は、どちらの側にも有利にも不利にも働き得るということになります。
みなし合意の二つの入口
定型取引に当たるとして、次に問われるのが、その規約が契約の内容として組み込まれたかどうかです。条文は二つの入口を用意しています。
第一の入口 規約を契約の内容とする旨の合意
申込みの際に「利用規約に同意する」という確認を受け、それに応じた場合が典型です。ここで合意しているのは個別の条項の中身ではなく、「その規約を契約の内容にする」ということ自体です。だからこそ、中身を読んでいなくても個別の条項に合意したものとみなされます。
第二の入口 あらかじめ相手方に表示していたとき
合意までは取っていなくても、規約を準備した側が、あらかじめ、その規約を契約の内容とする旨を相手方に表示していた場合には、同じくみなし合意が働きます。
ここで注意したいのが、「表示」という言葉の意味です。条文が求めているのは、相手方に対して表示していたことです。鉄道や航空のように個別の提示が現実的でない分野には、特別の法律で「表示し、又は公表していた」と読み替える手当てがされています。裏を返せば、そうした手当てのない場面で、公表しているだけで足りるとは条文上読めないということになります。
掲示があったことと、表示があったことは同じではない
店内に張り紙がある、ホームページの下のほうに規約のページがある。こうした事情は、規約の存在を示す材料にはなります。ただ、それだけで「あらかじめ、あなたに対して、これを契約の内容とする旨を表示していた」といえるかは、また別の話です。
また、「あらかじめ」という言葉が示すとおり、表示は契約より前でなければなりません。申込みや入室の後に初めて示された規約は、この入口には乗りにくいことになります。
いつ示されたかで結論が変わる
規約をめぐる話では、内容よりも時間の前後関係が結論を左右することがよくあります。整理すると次のようになります。
- 契約の前に示され、契約の内容にする旨が伝わっていた場合は、契約の内容になりやすい。
- 契約と同時に承諾を求められ、これに応じた場合も、契約の内容になりやすい。
- 契約が成立した後に初めて示された場合は、元の契約の内容にはならないのが原則。
三つ目の場合、店の側が示している書面は、すでにある契約の中身の確認ではなく、新しい合意の申込みという位置づけになります。トラブルが起きた後にその場で差し出される書面は、この形になっていることが少なくありません。応じるかどうかは、その内容を見て判断する話になります。「もともと決まっていたことを確認するだけ」という説明と、実際の位置づけがずれていることがある、という点は知っておいて損はありません。
「規約を見せてください」と言えること
民法五四八条の三は、定型取引を行う側に対し、相手方から請求があったときは、遅滞なく相当な方法でその内容を示さなければならないと定めています。すでに書面を交付している場合などは別ですが、そうでなければ、内容を見せてほしいと求めること自体は、条文が予定している行動です。
契約の前に拒まれた場合
同条第二項は、契約の前にこの請求を拒んだときは、みなし合意の規定は適用しないと定めています。ただし、一時的な通信障害が発生した場合など、正当な事由があるときは除かれます。
言い換えると、契約前に「見せてほしい」と言って正当な理由なく断られていた場合、その規約は契約の内容にならない方向に働くということです。そうした経緯があるなら、記憶が新しいうちに書き留めておく意味はあります。
契約の後に請求する場合
契約の後に内容の表示を求めた場合について、拒まれたときの効果を直接定めた規定はありません。この場合は一般のルールに戻って考えることになります。それでも、請求の根拠となる条項の全文を確認したいと伝えることは、話を整理するうえで自然な求めです。条項の一部だけを読み上げられることもありますが、前後まで含めて確認すると、適用の範囲や手続が別の条項に書かれていることもあります。
「規約が変わった」と言われたとき
利用したときの規約と示されている規約が違う、あるいは「その後に改定した」と説明される。こうした場合に関わるのが民法五四八条の四です。同条は、相手方の同意を個別に取らなくても定型約款を変更できる場合として、次の二つを挙げています。
- 変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
- 変更が契約の目的に反せず、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更をすることがある旨の定めの有無やその内容など、変更に関わる事情に照らして合理的なとき。
そのうえで、変更するときは効力発生時期を定め、変更の内容と効力発生時期をインターネットの利用などの適切な方法で周知しなければならないとされています。二つ目の場合については、効力発生時期が到来するまでに周知をしなければ、変更の効力は生じないと定められています。「今の規約ではこうなっている」と言われたときに、自分が利用した時点でどうなっていたかが出発点になるのは、このためです。
契約の内容になっていても、そこで終わりではない
ここまでは入口の話でした。仮に規約が契約の内容になっているとしても、それで結論が出るわけではありません。
合意から外れる条項がある
民法五四八条の二第二項は、相手方の権利を制限し、または義務を加重する条項のうち、その取引の態様や実情、取引上の社会通念に照らして、信義誠実の原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなすと定めています。
言い回しに注目してください。ここで使われているのは「無効とする」ではなく「合意をしなかったものとみなす」です。効力を失わせるというより、そもそも契約の内容に入らないという整理になっています。日常の会話では「その条項は無効だ」と表現されがちですが、条文の建て付けは少し違います。
なお、この規定が働くかどうかも当然に決まるものではなく、取引の態様や実情を踏まえた判断になります。争いになれば、最終的には裁判所の判断に委ねられます。
残る二つの問い
規約が契約の内容になっていて、その条項が合意から外れないとしても、まだ次の二つが残っています。
- その条項が、消費者契約に関するルールや公序良俗の観点からどこまで働くか。
- その条項が、今回起きた出来事に本当に当てはまるか。
条項の型ごとの効き方、金額の予定を定めた条項の扱い、届いた請求書面の読み方は、それぞれ別の記事で扱っています。規約が直接に決めているのが店とあなたとの関係であり、そこで働いている方個人との関係がそのまま決まるわけではない点も、別の記事で整理しています。
その場と相談前に整理しておくこと
やり取りの最中に条文を持ち出す必要はありません。落ち着いて確認できるのは、次のような点です。
- どの書面のどの条項を指しているのか、名称と箇所を確認する。
- その規約を、いつ、どのような形で示されたのかを思い出す。
- 自分が署名やチェックをした書面があるかどうかを整理する。
- 条項の全文を見せてもらえるよう伝える。
- その場で新たに書面へ署名を求められた場合は、内容を確認する時間をもらう。
いずれも、争うための準備というより、何について話しているのかをそろえる作業です。その場で結論を出してしまうと、後から見直す材料が残りません。そのうえで、相談の前には次の点を書き出しておくと整理しやすくなります。
- 利用した日時と、申込みから退室までの流れ。
- 申込みの画面や電話で、規約についてどのような案内があったか。
- 署名した書面、写真を撮った掲示、受け取った紙の有無。
- 店から示されている条項の文言と、示された時期。
- やり取りの記録(通話履歴、メッセージ、書面)。
手元に何も残っていない場合でも、覚えている範囲で時系列を書き出しておくだけで足ります。
まとめ
- 「規約に書いてある」という事実と、それがあなたと店との契約の内容になっていることは別の問題である。
- 規約が契約の内容になる道は、個別に受け入れた場合と、定型約款としてみなし合意が働く場合に大きく分かれる。
- 定型約款のルールが使えるかどうかは、その取引が「定型取引」に当たるかという前提にかかっており、一律には決まらない。
- みなし合意の入口は、規約を契約内容とする旨の合意があった場合と、あらかじめ相手方に表示していた場合の二つである。
- 掲示やホームページ上の掲載があることと、あらかじめ相手方に表示していたといえることは、同じではない。
- 契約が成立した後に初めて示された書面は、元の契約の内容ではなく、新しい合意の申込みという位置づけになる。
- 規約の内容を見せるよう求めることは条文が予定した行動であり、契約前に正当な理由なく拒まれていた場合はみなし合意が働かない方向に働く。
- 契約の内容になっていても、不当な条項を合意から外す規定があり、さらに条項の効力とあてはめという問いが残っている。
最後に一点だけ付け加えます。ここで整理した視点は、店の言い分を退けるためのものではありません。筋として通っている主張もあれば、前提が抜けている主張もあり、それは個別の事情によって変わります。早い段階で状況を整理したからといって、望んだ結果が得られるとは限りませんが、何が決まっていて何がまだ決まっていないのかを分けて考えることは、その後の判断の材料になります。判断に迷う段階であれば、早めに弁護士へご相談ください。


