【風俗トラブル・ホストクラブ】『色恋だと分かっていたはずだ』と言われた|困惑類型の主張の立て方

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

「あなたも色恋営業だと分かっていたはずだ」。ホストクラブで支払ったお金の返還を求めたときに、店側から返ってくる言葉として、これはよく耳にするものです。担当者とのやり取りを示しながら説明しても、営業だと承知のうえで通っていたのだから話が違う、と返されてそこで止まってしまう。ご相談の場では、この一言で先に進めなくなったという方が少なくありません。

 店側の立場からすれば、好意的に振る舞うことは接客の一部であり、それを前提に来店していた客に返金の義務は生じない、という説明になります。この説明自体が誤っているわけではありません。好意を示す接客がそれだけで違法とされるわけではありませんし、飲食が現に提供されている以上、支払った額がそのまま戻るという話にもなりにくい。ここまでは、多くの解説が書いているとおりです。

 見えにくいのは、この言い分が「どの主張に対する反論なのか」という点です。返金を求める組み立てには入口が二つあり、「分かっていたはずだ」という言葉は、そのうち一方には正面からぶつかりますが、もう一方の要件をそのまま崩すわけではありません。この記事では後者、つまり消費者契約法の「困惑」を理由とする取消しを主張する場合に、何を、どの順で説明することになるのかを整理します。風営法の改正内容そのものや、まだ支払っていない売掛金の支払義務については別の主題ですので、ここでは扱いません。

「分かっていたはずだ」は何に対する反論なのか

 同じ返金の話でも、法律上の組み立ては一つではありません。大きく分けると、だまされたという話と、困惑させられたという話の二つがあります。この二つは要件が別で、必要になる説明も違います。

入口は二つある

 一つ目は、事実と違うことを告げられ、それを信じて支払った、という組み立てです。詐欺による取消し(民法96条1項)や、重要事項について事実と異なることを告げられた場合の取消し(消費者契約法4条1項1号)がこれに当たります。中心にあるのは、嘘の内容と、それを信じたかどうかです。

 二つ目は、ある事柄を告げられて困惑し、その状態で申込みをした、という組み立てです。消費者契約法4条3項が定める類型で、いわゆるデート商法についての規定(同項6号)もここに置かれています。中心にあるのは、何を告げられ、そのときどのような状態に置かれたのかという点です。

組み立て中心となる問い「分かっていたはずだ」の効き方
だまされたという話どんな嘘を言われ、それを信じたか正面からぶつかる
困惑させられたという話何を告げられ、どう追い込まれたかそのままでは要件を崩さない


争う場所を選び直す

 「色恋営業だと分かっていた」という反論は、一つ目の入口では強く効きます。営業の手法だと理解していたのなら、嘘を信じて支払ったとは言いにくいからです。一方で二つ目の入口では、手法を知っていたかどうかが、そのまま要件として並んでいるわけではありません。相手の言い分に押されて説明の場所を間違えると、本来なら詰めるべき点に手が届かないまま話が終わってしまいます。

困惑を理由とする取消しで問われる「誤信」の中身

 消費者契約法4条3項6号は、好意の感情を不当に利用された場合の取消しを定めています。条文には誤信という言葉が出てきますが、その対象は業界の手法についての知識ではありません。

誤信の対象は「目の前の相手の気持ち」

 消費者庁が公表しているホストクラブなどに関する周知文書では、この規定の当てはめが具体的に説明されています。そこで挙げられているのは、客が担当者に好意の感情を抱き、かつ担当者も自分に対して同じ感情を抱いていると誤って信じていた、という状態です。つまり問われているのは、その相手が自分に好意を持っていると受け止めていたかどうかであって、色恋営業という手法の存在を知っていたかどうかではありません。

一般論として知っていたことと、その場で信じていたことは別

 「知っていた」と言われるときも、指している中身は一つではありません。次の三つは、要件との距離がそれぞれ違います。

指摘の内容よくある言い方要件との関係
色恋営業という手法があることそういう店だと知っていたはず要件に直接ひもづかない
担当者が仕事として接していたこと営業だと分かっていたはず誤信を否定する材料になりうる
その相手が自分に好意を持っていないこと本気にしていなかったはず誤信の有無が正面から争われる


 店側の説明は一つ目の層にとどまっていることが多く、その場合、三つ目の層についての反論にはなっていません。反論を受けたときは、どの層の話をしているのかをまず切り分けることになります。

要件を分解して、争点を特定する

 主張を立てるときは、条文の要件を分けて並べ、どこが争われているのかを見えるようにします。消費者契約法4条3項6号は、おおむね次の要素で組み立てられています。

  1. 社会生活上の経験が乏しいこと。
  2. 勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱いたこと。
  3. 相手も自分に対して同じ感情を抱いていると誤って信じていたこと。
  4. 事業者がその誤信を知りながら、これに乗じたこと。
  5. 契約を締結しなければ関係が破綻することになる旨を告げたこと。
  6. それによって困惑し、申込みまたは承諾の意思表示をしたこと。


反論が集まりやすい場所

 実際のやり取りでは、店側の反論は三つ目と五つ目に集まりやすい傾向があります。三つ目については「本気にしていなかったはずだ」、五つ目については「関係が終わるなどとは言っていない」という形です。逆にいえば、この二つについて説明できる材料が手元にあるかどうかが、話の進み方を左右します。

「社会生活上の経験が乏しい」をどう説明するか

 最初の要素は、条文の文言だけを見ると若い方に限られるようにも読めます。ただ、この点については行政の側から解釈の説明が出ています。

年齢で線が引かれているわけではない

 消費者庁の一問一答では、社会生活上の経験が乏しいかどうかは年齢によって定まるものではなく、中高年であっても、経験の積み重ねの点で同様に評価すべき方はこの要件に該当し得るとされています。その判断にあたっては、就労経験や他者との交友関係などの事情を総合的に考慮するものと説明されています。

勧誘のされ方も併せて見られる

 同じ一問一答では、この要件の解釈について、契約の目的となるものや勧誘の態様などの事情を総合的に考慮するとされ、勧誘の態様が悪質な場合には取消権が認められやすくなるとも説明されています。相手の側の言動と切り離して、自分の経験だけを取り出して評価されるわけではないという点は、押さえておいてよいところです。

 もっとも、社会経験を重ねた方の場合に、この要素の説明に手間がかかることは事実です。消費者契約法は民事のルールであり、最終的には個別の事情に即して裁判所が判断します。ここは、通い始めた経緯や、当時の生活の状況を具体的に示していく作業になります。

告げられた言葉を特定する

 五つ目の要素は、契約をしなければ関係が破綻することになる旨を告げられた、という点です。ここは記憶の総体ではなく、個々の言葉が問題になります。

言い回しは人によって違う

 条文どおりの言葉が使われることはほとんどありません。もう会えなくなる、指名が途切れたら終わり、といった趣旨の伝え方が、その場の文脈のなかで示されることが多いといえます。そのため、どの日の、どのやり取りで、何と言われたのかを一つずつ拾い出す必要があります。

困惑は場面ごとに立つ

 取消しの対象になるのは、その働きかけを受けて申込みをした契約です。通っていた期間の全部が自動的に一括りになるわけではありません。実務では、告げられた言葉と、その直後の注文や支払いとを一つずつ結びつけていく形になります。裏を返せば、金額の大きい会計が、どのやり取りの後に発生したのかを整理しておくことに意味があります。

「恋人どうしのやり取りだった」と言われたとき

 返金を求めたときに、これは店との取引ではなく個人的なやり取りだった、という説明を受けることがあります。立替えの精算だ、という言い方をされる場合もあります。

 この点について、先ほどの消費者庁の周知文書は、仮に恋人間の個人的なやり取りだと主張されている場合でも、その担当者が消費者契約法上の事業者に該当し、法律の要件に当たる勧誘をしていれば、契約を取り消すことができるとしています。個人的なやり取りだという説明がされたからといって、それだけで話が終わるわけではないということです。

手元に残しておきたい材料

 この類型では、感情の動きを裏づける材料が中心になります。次のようなものが残っていれば、説明の土台になります。

  • 担当者とのメッセージのやり取り。特に来店を促す部分と、関係の継続に触れた部分。
  • 伝票、レシート、カード明細など、支払いの日と額が分かるもの。
  • 来店の日時が分かるもの。予約のやり取りや交通の記録も含みます。
  • 当時の心境を書き残したもの。日記やメモ、家族や友人に送った連絡なども含みます。
  • 消費生活センターや周囲に相談した際の記録。


 やり取りを消すよう促されていた、という事情を伴う相談も見られます。その場合でも、支払いの記録や周囲への連絡から時系列を組み立てられることがあります。手元にあるものを、消さずにそのまま保管しておくことが出発点になります。

取り消せた場合に戻る範囲

 取消しが認められると、支払ったお金は法律上の原因を欠いた給付として返還の対象になります。ただし、額がそのまま全額戻るとは限りません。

 消費者契約法6条の2は、取消しができることを知らずに給付を受けていた消費者について、現に利益を受けている限度で返還すれば足りると定めています。飲食のように、すでに提供を受けているものが含まれる場合、その評価をめぐって差し引きの議論になることがあります。返還を求める側としても、どこまでを対象とするのかを整理したうえで話を始めることになります。

いつまで主張できるのか

 取消権には期間の制限があります。消費者契約法7条1項により、追認をすることができる時から1年、契約を締結した時から5年で行使できなくなります。

 通っている間は、関係が続いている以上、追認ができる状態にあったとはいえない場合もあります。もっとも、通い終えてから時間が経つほど、記録の保存期間の問題も重なって説明が難しくなります。迷っている段階でも、記録の保存だけは先に進めておくのが現実的です。

求め方を誤ると立場が入れ替わる

 返金を求める過程で、こちらの側が責任を問われる立場になってしまう例もあります。店に何度も押しかける、営業中に大声で抗議する、担当者の氏名を挙げて事実を公表する、拒まれた後も連絡を続けるといった行為は、不退去、業務妨害、名誉毀損、つきまといなどの問題として扱われることがあります。

 連絡の窓口を一つにまとめ、やり取りを書面や記録の残る方法に寄せておくと、この種の展開を避けやすくなります。公的な相談先としては、消費生活の相談を受け付ける消費者ホットライン188、緊急でない警察相談専用電話♯9110、法的トラブル全般の窓口である法テラス、生活の立て直しを含めた相談を受ける女性相談支援センター♯8778があります。

よくあるご質問

好意を示す言葉が残っていないと難しいですか

 文面が残っていれば説明しやすくなりますが、それだけで決まるわけではありません。来店の頻度や支払いの推移、周囲への相談の内容など、当時どのような関係だと受け止めていたかを示す材料は他にもあります。まずは残っているものを見渡すところから始めます。

自分から進んで使った分も対象になりますか

 この類型で問題になるのは、告げられた言葉を受けて申込みをした契約です。働きかけと結びついていない支払いは、対象から外れることがあります。また、店の会計とは別に担当者個人へ現金や物を渡した分は、契約の性質が異なるため、別の整理が必要になります。

何年も通っていた場合、まとめて取り消せますか

 期間の全部が一括りになるわけではなく、個々の契約ごとに要件を検討することになります。加えて、前述の期間制限もかかります。実際には、金額の大きい会計を中心に、やり取りとの結びつきが説明できるものから整理していく形が多くなります。

まとめ


  1. 返金の組み立てには、だまされたという話と、困惑させられたという話の二つの入口があり、要件が異なります。
  2. 「色恋営業だと分かっていたはずだ」という反論は前者に強く効きますが、後者の要件をそのまま崩すものではありません。
  3. 消費者契約法4条3項6号で問われる誤信は、相手も自分に好意を抱いているという受け止めについてのものです。
  4. 要件は六つの要素に分けられ、反論は誤信の有無と、関係が破綻する旨の告知の有無に集まりやすい傾向があります。
  5. 社会生活上の経験が乏しいかどうかは年齢で定まるものではなく、就労経験や交友関係、勧誘の態様も併せて考慮されるとされています。
  6. 個人的なやり取りだと説明された場合でも、事業者に該当し要件を満たせば取消しの余地があります。
  7. 取り消せても返還の範囲は現存利益の限度とされ(消費者契約法6条の2)、行使できる期間にも制限があります(同法7条1項)。


ホストクラブでの支払いについてお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルや飲食店での支払いに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。すでに支払った分の返還を検討されている方も、店側から支払いを求められている方も、置かれている状況によって取り得る対応は変わります。

 どこまで主張できるのかは、残っている記録と当時の経緯によって大きく変わります。ご自身で判断がつかない段階でも構いませんので、記録を消してしまう前に、一度ご相談ください。守秘義務がありますので、ご相談の内容が外部に伝わることはありません。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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