反社にお金を払ってしまった|取り戻せるのか、責任を問われないか

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

 脅されて、あるいは断り切れずに、相手にお金を渡してしまった。落ち着いてから、二つの不安が同時に押し寄せてくる方が少なくありません。

 ひとつは「あのお金は戻ってくるのか」。もうひとつは「反社会的勢力にお金を渡した自分が、何か責任を問われるのではないか」です。

 この二つは別々の問題で、答えの筋道も違います。本コラムでは、支払ってしまった後の立場から、順に整理します。

 なお「反社会的勢力」は法律上の定義がある言葉ではなく、法律上の取扱いが切り替わるのは「相手が暴力団対策法上の指定暴力団員かどうか」です。この点は別のコラムで扱っていますので、本稿では支払った後の話に絞ります。

1. 払ってしまっても、失われていないこと

 まず前提を三つ確認します。

 支払ったことで、相手の行為が適法になるわけではありません。 脅して金銭を交付させる行為は、交付を受けた時点でむしろ完成しています。応じてしまった経過があっても、相手の行為に対する法的な評価は変わりません。

 支払ったことで、支払義務が確定するわけでもありません。 畏怖しながら渡した金銭は、義務の承認とは別のものです。

 一方で、時間が経つほど選択肢が狭まるのも事実です。時効、記録の散逸、相手の特定のしやすさは、いずれも早い段階のほうが有利に働きます。

2. 取り戻せるのか|考えられる三つのルート

 民事で返還を求める場合、主に次の構成が考えられます。

ルート根拠主張の中身
強迫による取消し民法96条1項害悪を告げられ、畏怖して支払った意思表示を取り消し、不当利得として返還を求める(民法703条・704条)
不法行為民法709条害悪の告知によって金銭を交付させた行為自体を違法とし、交付額を損害として賠償を求める
代表者等への請求暴力団対策法31条の2相手が指定暴力団員で、その威力を利用した資金獲得行為であった場合に、代表者等に対して賠償を求める

 三つ目は、みかじめ料の徴収などが典型例として挙げられているルートです。行為者本人に資力がない場合でも回収の可能性が残るという意味があり、実際に指定暴力団の代表者の責任を認めた裁判例も出ています。

 ここでよくある誤解に触れておきます。「払う義務がないと分かっていながら払ったのだから、もう返してもらえないのではないか」という不安です。民法705条は、債務がないと知って弁済した場合の返還請求を制限していますが、この規定は任意にされた給付に限られ、強迫を受けてした給付には及ばないと解されています。おかしいと思いながら払ったこと自体が、返還を求める障害になるとは限りません。

 また、支払いの経緯にこちらの弱みが絡んでいる場合、「不法な原因のための給付だから返ってこないのでは」と心配される方もいます。民法708条にはただし書があり、不法な原因が受け取った側にのみあるときは、この限りではないとされています。事案ごとの評価にはなりますが、一律に諦める話ではありません。

3. 時効はどう考えるか

 不法行為に基づく請求権は、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で消滅します(民法724条)。何年も支払いを続けてきた場合、古い分は形式的には期間が過ぎていることになります。

 ただし、この点について注目された裁判例があります。長期にわたってみかじめ料を支払わされていた事案で、名古屋高等裁判所は令和5年12月14日、大半を時効として退けた一審の判断を変更しました。継続的な脅迫を受ける中で、被害者が金銭の返還請求などの合理的な対応ができる心理状態ではなかったと認め、時効を主張することは権利の濫用にあたるとして、賠償額を大幅に増額しています。

 これは個別事案についての判断であり、同じ主張が常に通るわけではありません。それでも、「昔のことだからもう無理だ」と自分で結論を出す前に、支払いの全体像を専門家に見てもらう意味はあります。

4. 刑事手続だけでは、お金は戻りません

 被害届や告訴によって刑事事件として動いてもらうことには、相手の特定、証拠の確保、要求を止める効果など、大きな意味があります。

 ただし、刑事手続は処罰のための手続であって、被害の回復を目的とする手続ではありません。弁護士会の相談窓口でも、刑事事件では取られたお金は戻らず、民事上の被害回復は別途行う必要があると説明されています。

 また、支払いが長期にわたっている場合、そのうちのごく一部だけが立件され、残りは手続の外に置かれることもあります。刑事と民事は、どちらかを選ぶものではなく、役割の違う二本の線として考えるのが現実的です。

5. 回収を阻む三つの壁と、使える公的な支援

 実務上、壁になりやすいのは次の三つです。

  • 相手の特定 ── 名乗った名前や組織名が正確とは限りません
  • 相手の資力 ── 判決を得ても回収できるとは限りません
  • 証拠 ── 現金の手渡しは、支払った事実そのものが残りません

 これらを補う制度として、次のものがあります。

 暴力団対策法13条は、暴力的要求行為について中止命令などが出された場合に、その相手方が被害回復を求めるにあたって、加害者への連絡、加害者の連絡先の教示、被害回復の交渉場所としての警察施設の利用といった援助を受けられることを定めています。

 また、各都道府県の暴力追放運動推進センターでは、被害回復の助言のほか、民事訴訟の費用に関する援助などの支援事業が行われています(内容はセンターにより異なります)。

6. 責任を問われないか①|払ったこと自体が犯罪になるのか

 ここからが二つ目の不安です。

 脅されて金銭を渡した側は、恐喝や強要の被害者にあたる立場です。要求に応じてしまったことをもって、支払った側が処罰されるという仕組みにはなっていません。

 問題になるのは、支払いの向きが逆の場合です。暴力団対策法10条は、何人も、指定暴力団員に暴力的要求行為をすることを要求・依頼・唆すことを禁じています。東京都暴力団排除条例24条1項も、事業者が規制対象者の威力を利用する対価として利益を供与することを禁止しており、警視庁は違反例として、取立てを依頼して金銭を支払った場合や、話し合いの場で脅しをかけてほしいと依頼して金銭を支払った場合などを挙げています。

 つまり分かれ目は、脅されて出したお金なのか、相手の力を使うために出したお金なのかです。前者は被害であり、後者は規制の対象になり得ます。

7. 責任を問われないか②|事業として支払っていた場合

 事業者の立場で支払いが続いていた場合は、もう一段の確認が必要です。

 東京都暴力団排除条例24条3項は、暴力団の活動を助長し、または運営に資することとなることを知って規制対象者に利益を供与することを禁じ、違反には勧告・公表の措置が予定されています。警視庁は、違反にならない場合として、相手が規制対象者だと知らなかったとき、助長・運営に資することを知らなかったとき、そもそも助長等にあたらないとき、法令上の義務その他正当な理由がある場合を挙げています。

 そして、すでに支払ってしまった事業者にとって重要なのが、自主申告による勧告の適用除外です。24条3項違反や名義貸し違反にあたる行為であっても、その事実を公安委員会に申告した場合には、勧告の措置が免除される制度が設けられています。警視庁は、条例施行前の利益供与も含め、申告した都民や事業者に勧告することはないとしており、手続が完了すれば条例上の禁止行為違反として責任を問われることはないと明示しています。申告先は警視庁の暴力団対策課(特別排除係)です。

 さらに、暴力団排除特別強化地域で飲食店や風俗営業などの特定営業を営む方が、用心棒料などを支払ってきた関係を断ちたい場合については、同条例33条3項に自首による刑の減免規定が置かれています。

 なお、これらはいずれも事業者を名宛人とする規定です。事業と関係のない場面で脅されて支払った個人の立場は、条例が想定している構図とは前提が異なります。

8. 責任を問われないか③|「自分も反社扱いされるのでは」

 支払いの事実が残ることで、自分が「暴力団関係者」や「密接交際者」として扱われ、口座や取引に影響が出るのではないか、という不安もよく聞きます。

 この点について警視庁は、暴力団員と一緒にゴルフに行ったり飲食をしたというだけで密接交際者と認定し、勧告や公表の措置を講じる仕組みはないと説明しています。また、交際していると噂されている、一緒に写真に写ったことがある、幼なじみである、親族に暴力団員がいる、といった事情だけで暴力団関係者とみなされることはないとし、暴力団関係者と認められる場合であっても、その事実のみで条例上の勧告や公表が行われることはないとしています。

 一方で、都や暴力団排除に取り組む事業者との各種契約において、排除の対象となる場面はあり得ます。だからこそ、支払いが続いている状態を早く終わらせ、被害者としての経緯を記録として残しておくことに意味があります。

9. 断ったら報復されないか

 支払いを止めることをためらう最大の理由が、この不安です。

 東京都暴力団排除条例21条は、利益供与の拒絶など暴力団排除活動を行った人に対して、つきまとい等の嫌がらせ行為をすることを禁じており、違反には警察署長による中止命令と罰則が予定されています。同条例14条は、暴力団排除活動を行ったことで危害を受けるおそれがある人への保護措置についても定めています。制度上、断った側を保護する仕組みが用意されているということです。

 ただし、相手が半グレやいわゆる匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)である場合、暴力団対策法や暴排条例の一部の枠組みは直接には及びません。その場合は刑法と民事の一般的な手段に戻ることになります。相手の属性による違いは、別のコラムで詳しく整理しています。

10. いまからしておきたいこと/避けたいこと

しておきたいこと

  • 支払いの経過を書き出す(日時・金額・方法・言われた名目・その場で言われた言葉)
  • 振込明細、通帳、ATMの利用記録、領収書、メッセージのやり取りを保全する
  • 相談した日時と相談先を記録に残す
  • 連絡窓口を一本化し、こちらから交渉しない体制にする

避けたいこと

  • 自分で相手の素性を確かめようとする
  • 「これで最後にしてほしい」と口頭で約束し、支払いを重ねる
  • 現金の手渡しを続ける(支払った事実そのものが残りません)
  • 相手が用意した名目の書面や領収書に、内容を確認せずサインする

11. 相談先の使い分け


窓口向いている場面
110番・最寄りの警察署被害のおそれが差し迫っているとき
警察相談専用電話 #9110事件として動くか迷う段階での相談
暴力追放運動推進センター関係を断つ手順、被害回復の助言、支援事業の利用
弁護士返還請求の組み立て、窓口の代行、支払いを止める設計

 払ってしまったことを打ち明けにくいと感じる方は少なくありません。ただ、経緯を隠したまま部分的に相談すると、取れるはずの手が見えなくなります。事実をそのまま伝えていただくことが、結果として選択肢を広げます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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