【男女トラブル】交際中の写真をAIで加工されて拡散された|削除と賠償の二段構え

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

交際中に撮った写真を、別れたあとにAIで加工され、SNSに投稿されたというご相談があります。「とにかく早く消したい」とおっしゃる方もいれば、「投稿は消えたけれど、誰がやったのかは分からないまま終わってしまった」とおっしゃる方もいます。

 こうした被害の説明では、削除を求め、投稿者を特定し、損害賠償を請求する、という流れがよく示されます。その説明が誤っているわけではありません。ただ、順番に並んでいるために、一本道を上から進むもののように読めてしまいます。実際には、投稿を消すことと、お金の請求を組み立てることでは、必要な材料も、間に合う時間も違います。

 この記事では、交際中の写真をAIで加工されて広められた場面を想定し、削除の段と賠償の段を分けて立てるという考え方を整理します。加工された画像が自分だといえるかという立証の問題、削除申出への返事の期限、投稿者の特定手続の進め方は、それぞれ別の記事で扱っていますので、ここでは要点にとどめます。

この記事で扱うことと扱わないこと

 はじめに、この記事の範囲をお示しします。

  • 加工された画像がすでに投稿・拡散された後の場面を扱います。
  • 削除と賠償を別の段として立てるという、進め方の全体像を扱います。
  • 加工の元になった写真を誰が撮ったかで、使える主張が変わる点を扱います。
  • 相手方から返ってくることの多い言い分と、その受け止め方を扱います。
  • 慰謝料の金額の目安、投稿者の特定手続の詳細、刑事の罪名の振り分けは扱いません。


「二段構え」とは何を分けることか

 二段構えといっても、一段目が終わってから二段目に進むという意味ではありません。二つを同時に、別々に立てるという意味です。

削除と賠償は、順番に進む一本の道ではない

 削除は、投稿や画像を見られない状態にすることが目的です。向き合う相手は、投稿した本人のこともあれば、サービスの運営会社のこともあります。ここで求められるのは、その投稿が誰かの権利を侵害しているという説明であって、誰が投稿したのかが分からなくても進められる場面が多くあります。

 賠償は、生じた精神的な損害の償いを求めることが目的です。相手は、加工して投稿した人や、それを広めた人です。ここでは、誰がやったのかが分からないと請求先が決まりません。同じ被害から出発していても、必要になる材料が違うというのが、二つを分けて考える理由です。

一方の進め方が、他方の材料を減らすことがある

 この二つは干渉します。投稿が消えれば、それがどのような形で表示され、どこまで広がっていたのかを後から示す手がかりも一緒に消えます。運営会社に残る通信の記録にも保存の期間があり、時間が経つほど手が届かなくなります。

 投稿した人に直接削除を求めたところ、アカウントごと消され、連絡もつかなくなったという経過をたどることもあります。急いで消すことと、後から責任を問える状態を残すことは、同じ方向を向いているとは限りません。

二つの段の違いを整理する

 ここまでの違いを表にすると、次のようになります。

比較の観点削除の段賠償の段
目的投稿や画像を見られない状態にする生じた精神的損害の償いを求める
向き合う相手投稿した人、サービスの運営会社加工して投稿した人、広めた人
必要になる材料その投稿が権利を侵害しているという説明加工と投稿を誰が行ったかの裏づけ
時間の性質拡散と記録の保存期間に追われる民法724条の期間の中で組み立てられる
相手が分からない場合進められる場面が多い請求先が決まらない


 民法724条は、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年という期間を定めています。賠償の段は、削除の段ほど日単位で追われるわけではありません。裏を返せば、先に急ぐべきなのは削除そのものよりも、消える前に記録を残すことです。

先に固めておきたいのは記録

 削除の申出も、賠償の請求も、出発点は同じ記録です。

画面だけでなく、たどり着ける情報ごと残す

 加工された画像そのものだけを保存している方が少なくありません。後から必要になるのは、その画像がどこに、いつ、どのような形で置かれていたかです。投稿のURL、アカウント名とその表示、投稿日時、広がりが分かる部分まで含めて、画面全体を残してください。同じ画像が複数の場所に出ている場合は、それぞれについて残します。

加工の元になった写真を探しておく

 AIによる加工の場面に特有の作業として、元になったと思われる自分の写真を探しておくことをおすすめします。撮影日時などの情報を含むファイルのまま残っていれば、それも保存します。元の写真と加工後の画像を並べて示せると、どこがどう変えられたのかという説明が具体になり、削除の申出でも賠償の場面でも使えます。

削除の段でできること

 削除には、大きく三つの入口があります。

投稿した人に直接求める

 相手が分かっている場合、いちばん早いのはこの方法です。ただし、記録を残す前に消されると後の材料が失われます。やり取りの中で強い言葉になれば、それ自体が別のトラブルの火種にもなります。連絡するとしても、記録の残る形で、事実と求める内容だけを簡潔に伝える形が現実的です。

サービスの運営会社に申し出る

 各サービスの通報窓口や、送信防止措置の申出という方法があります。加工画像の場合、申出の文面で元の写真の存在に触れ、どの部分が変えられているのかを示すと、判断する側が事実を追いやすくなります。この点でも、元の写真を手元に確保しておくことが効いてきます。

 なお、大規模なサービスについては、申出に対して調査結果を知らせるまでの期間を定めた規定が置かれています。これは返事についての規定であって、削除そのものを約束する制度ではありません。詳細は、削除申出の期限を扱った記事に譲ります。

裁判所の手続を使う

 人格権に基づく差止めとして、投稿の削除を求める仮処分という方法があります。時間や費用、担保金の準備といった負担があるため、任意の削除が進まない場合の選択肢という位置づけです。

元の写真を撮ったのは誰か

 ここが、加工の事案で見落とされやすい分かれ目です。

写っていることと、権利を持っていることは別

 写真の著作権は、撮影した人に生じます(著作権法2条1項1号)。自分で撮った写真なら自分に、相手が撮った写真なら相手にあります。被写体として写っているだけでは、著作権を持っていることにはなりません。写っている側が使えるのは、肖像権やプライバシーといった人格的な利益の側の主張です。

自分が撮った写真なら、加工だからこそ視野に入る条文がある

 元の写真を自分で撮っていた場合には、著作権の側からの主張も重なります。無断で内容を変えられたことは同一性保持権(同法20条1項)に、無断で投稿されたことは複製権や公衆送信権(同法21条、23条)に関わります。作り変えの程度によっては翻案(同法27条)の問題にもなります。

 さらに、著作者の名誉又は声望を害する方法でその著作物を利用する行為は、著作者人格権を侵害する行為とみなされるという規定があります(同法113条11項)。撮影した本人の意図とかけ離れた文脈に置き換える加工は、この規定が視野に入る場面です。同じ一枚の画像でも、誰が撮ったかによって組み立てられる主張の数が変わります

賠償の段で問われること

 請求先が決まったとき、次に整理するのは、何を侵害されたと主張するかです。

どの権利を中心に置くか

 みだりに容ぼうを公表されない人格的な利益、私生活上の事柄をみだりに公開されない利益、社会的な評価の低下、人としての誇りを傷つけられたこと。加工の内容と投稿のされ方で、中心になるものが変わります。

 ここでよく問題になるのが、撮影に同意していたという点です。しかし、撮影に応じたことは、公表に同意したことでも、作り変えられることに同意したことでもありません。同意がどこまで及んでいたかは、撮影のときの状況と、その写真が置かれていた範囲から判断されます。

主張する権利の数だけ金額が積み上がるわけではない

 一つの投稿について複数の権利侵害を並べて主張することはできますが、慰謝料は事案全体を見て一つの評価として出されるのが通常です。項目を増やせばその分だけ加算される性質のものではありません。金額を動かすのは、画像の内容、どこまで広がったか、本人だと分かる状態だったか、どれくらいの期間置かれていたか、削除に応じたか、生活にどのような影響が出たかといった事情です。

相手が分からない場合と、広めた人への請求

 請求先が決まらないという段階で止まってしまう方が少なくありません。投稿者を明らかにする手続は、削除とは別に立てる必要があります。運営会社に残る通信の記録には保存の期間があり、投稿から時間が経つほどたどれる範囲は狭くなります。削除だけを先に済ませると、その投稿を特定するための情報が手元に残らないこともあります。

 また、加工した本人だけでなく、それを引用して投稿した人などにも責任が及ぶ場合があります(民法719条)。もっとも、どの行為までが対象になるかは一律ではなく、裁判例の考え方にも幅があります。特定の手続と拡散した側の責任は、それぞれ別の記事で整理しています。

相手方から返ってくる言い分

 交渉の場面で示されることの多い言い分と、その受け止め方を整理します。

よくある言い分受け止め方
AIで作ったもので本人ではない見る人が本人だと分かる形なら、作り物であることが侵害を否定する理由になるとは限りません
自分で公開していた写真だ公開していた範囲や目的を超えた使われ方かどうかが問われます
加工しただけで、自分は撮影していない問われているのは撮影ではなく、作り変えて公表した行為です
通報を受けてすぐ消した削除した事情は考慮されますが、それだけで責任がなくなるものではありません
面白半分で、悪意はなかった動機や目的だけで責任が否定されるとは限らないという考え方が示されています


 本人ではないという言い分に対しては、加工された画像が自分だといえるかという立証の問題が正面から出てきます。この点は、同一性を扱った別の記事に譲ります。

先にしておきたいこと

 順序としては、次のように進めていただくと整理しやすくなります。

  1. 投稿のURL、アカウント名、投稿日時を含めて、画面全体を保存する。
  2. 同じ画像が出ている場所をひととおり探し、それぞれについても同じ形で残す。
  3. 加工の元になったと思われる自分の写真を、ファイルのまま探しておく。
  4. 相手や周囲とのやり取りは、消さずに残す。
  5. 削除を求める連絡をする場合は、記録の残る手段を使う。
  6. 削除の申出と、責任を問う準備を、別の作業として並行して進める。


避けたい進め方

 一方で、次のような対応は、後の選択肢を狭めることがあります。

  • 記録を残す前に、相手に削除を求めてしまうこと。
  • 加工された画像を引用する形で、事情を説明する投稿をすること。
  • 相手の投稿に反論を書き込み、やり取りが公開の場で続くこと。
  • 削除と引き換えに条件を示され、その場で合意してしまうこと。
  • 何も動かないまま時間が過ぎ、記録の保存期間を過ぎてしまうこと。


 二つ目は、被害を伝えるつもりでも、加工された画像を新たに広げることになりかねません。事情をお伝えする必要がある相手には、公開の場ではない形でお伝えください。

よくあるご質問

 ご相談の中で繰り返しいただく質問をまとめました。

元の写真は相手が撮ったものです。何もできませんか

 著作権の側からの主張は難しくなりますが、写っているのが自分である以上、肖像権やプライバシーの側からの主張は残ります。使える条文が変わるだけで、請求そのものができなくなるわけではありません。

加工が精巧で、本人だと分からないかもしれません

 見る人が本人だと分かるかどうかは、顔だけで決まるものではありません。アカウント名、投稿に添えられた文章、背景に写り込んだものなど、周辺の情報も合わせて判断されます。

削除だけして、賠償は求めない進め方でもよいですか

 その選択も十分にあり得ます。ただ、後から気持ちが変わる方もいらっしゃいます。削除を先に進める場合でも、記録だけは残しておくと、後で選び直す余地が残ります。

まとめ


  1. 削除と賠償は順番に進む一本の道ではなく、必要な材料も間に合う時間も違う別の段である。
  2. 削除は相手が分からなくても進められるが、賠償は請求先が決まらないと動かない。
  3. 賠償は民法724条の期間の中で組み立てられるため、先に急ぐのは記録を残すことである。
  4. 投稿のURL、アカウント名、日時を含めて画面全体を残し、加工の元になった自分の写真も探しておく。
  5. 写真の著作権は撮影した人に生じるため(著作権法2条1項1号)、誰が撮ったかで主張の数が変わる。
  6. 自分で撮った写真なら、同一性保持権(同法20条1項)や名誉又は声望を害する利用のみなし規定(同法113条11項)も視野に入る。
  7. 撮影に応じたことは、公表への同意でも、作り変えられることへの同意でもない。


画像の削除と賠償をご検討中の方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。加工された画像が広まってしまった場面では、早く消したいというお気持ちと、後で責任を問える状態を残しておくことが、同じ方向を向くとは限りません。どちらを先に動かすかは、拡散の広がり方と、手元に残っている記録によって変わります。

 すでに投稿されている方も、まだ相手とのやり取りの段階にとどまっている方も、記録が残っているうちにご相談いただければ、取り得る選択肢は広がります。お一人で判断を迫られる前に、状況を整理するところからご一緒させてください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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