不当要求のサイン10|こう言われたら要注意のフレーズ集

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

 金銭の請求や苦情そのものは、正当なものであることも少なくありません。問題になるのは、要求の「中身」に法的な根拠がない場合と、要求の「通し方」が度を越えている場合です。

 そして、そのどちらの兆候も、多くの場合はまず「言葉」に表れます。この記事では、不当要求の入り口でよく現れるフレーズを10通り取り上げ、なぜ注意が必要なのか、法的にはどう位置づけられるのかを整理します。あわせて、「一見きつく聞こえても、直ちに不当要求とはいえない言葉」も取り上げます。

 はじめに前提をひとつ共有させてください。強い言葉が出たからといって、その要求が当然に不当なものになるわけではありません。感情的な言い方でも中身は正当な請求ということはありますし、逆に、終始丁寧な口調のまま不当な要求が進むこともあります。ここで挙げるフレーズは、「疑う入り口」であって「断定の根拠」ではないという位置づけでお読みください。

1. なぜ「言葉」に注目すると早く気づけるのか

 不当要求では、最初から金額と根拠がはっきり示されないことが多いという特徴が指摘されています。相手が金額を明示しないのは、こちらに先に言わせたい、あるいは要求内容を後から膨らませたい、といった事情があるためです。

 そこで、要求の中身が固まる前の段階で使われがちな言い回しには、次の5つの働きがあると整理できます。

働きねらい
① 要求の中身をぼかす金額や根拠を明かさず、こちらに提案させる
② 判断の時間を奪う検討・確認をさせないまま結論を出させる
③ 第三者を遠ざける弁護士・警察・家族などの関与を避けさせる
④ 不利益をほのめかす応じなければ困ったことになる、と思わせる
⑤ 記録と証拠を動かす有利な証拠を作ろうとする、不利な証拠を残させない

 以下の10のサインは、この5つの働きごとに並べています。

2. 要注意フレーズ10選

【① 要求の中身をぼかす】

サイン1「誠意を見せてください」「どうするかはそちらで考えて」
 要求の内容を自分の口からは言わず、こちらに提示させようとする言い回しです。企業・自治体向けのクレーム対応の解説でも、代表的な常套句として繰り返し取り上げられています。

 こちらが「では〇万円で」と切り出してしまうと、その金額が交渉の出発点になってしまいますし、後から「自分から言い出した」と扱われるおそれもあります。要求の内容は、相手の言葉で具体的に述べてもらうことが基本です。「誠意とは、具体的に何をすることを指しますか」と聞き返し、答えが返ってくるまでこちらから金額を提示しない、という対応が考えられます。

サイン2「金額は後で決めればいい。まずは話し合いましょう」
 根拠と金額の説明を後回しにしたまま、話し合いの事実だけを積み重ねようとする形です。何回か会って話した、という経過そのものが「認めていた」という主張の材料に使われることがあります。

 支払義務が発生する原因は、契約・不法行為・不当利得などに限られます。**「何にもとづく、いくらの請求なのか」**は、話し合いの前提として確認しておきたい点です。

サイン3「そちらにも落ち度がありますよね」
 こちらに一定の非がある場面で使われる、もっとも見分けにくい言い方です。落ち度があること自体は事実でも、落ち度の大きさと請求額が釣り合っているかは別問題です。実務でも、事業者側に非はあるものの請求額が過大、という類型は「過剰要求」として区別して扱われています。

 非を認めることと、言われた金額を受け入れることは、切り離して考える必要があります。

【② 判断の時間を奪う】

サイン4「今日中に返事をください」「今すぐ払えば穏便に済ませます」
 期限を極端に短く切るのは、比較・相談・確認をさせないための古典的な手法です。本来の請求であれば、こちらが根拠を確認する時間を与えることに支障はないはずです。

 その場での即答は避け、**「確認のうえ、あらためて回答します」**にとどめる対応が考えられます。「検討します」「考えてみます」といった、相手に期待を抱かせる言い方は避けたほうが無難とされています。

【③ 第三者を遠ざける】

サイン5「弁護士なんて入れたら、話がこじれますよ」
 こちらが第三者に相談することを止めようとする言葉です。要求に法的な裏づけがあるのなら、専門家が入って困る理由は通常ありません。第三者の関与を嫌がること自体が、その要求の性質を示している場合があります。

サイン6「誰にも言わずに、二人だけで解決しましょう」
 秘密にすること自体が直ちに問題なのではありません(示談で守秘条項を設けることは通常の実務です)。注意したいのは、秘密の維持が「こちらが相談できない状態」を作るために使われていないかという点です。家族や職場に知られたくないという気持ちにつけこむ形で、相談先を断つ方向に働いているのであれば、慎重に見る必要があります。

【③ 不利益をほのめかす】

サイン7「会社(家族・学校)に知られてもいいんですか」
 社会的信用を失うことへの不安に働きかける言い方です。「払わなければ、勤務先に伝える」という形で告げられれば、名誉や信用といった利益に対する害悪の告知として、脅迫罪(刑法222条・2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)にあたる余地があります。金銭の交付を求める形であれば恐喝罪(同249条)、義務のないことをさせる形であれば**強要罪(同223条・3年以下の拘禁刑)**が問題となり得ます。

サイン8「ネットに書きます」「SNSで拡散します」
 事実にもとづく感想を投稿すること自体は、本来自由な行為です。問題になるのは、**その投稿を「支払わせるための道具」として持ち出したときです。**専門家の解説でも、相場を超える金額を請求すること自体は直ちに違法ではないが、「払わなければネットに書く」と告げれば別の評価になり得る、という整理が示されています。

 投稿の内容によっては、名誉毀損(刑法230条)や業務妨害(同233条・234条)の問題も生じます。

サイン9「知り合いにその筋の人がいまして」
 暴力団などとのつながりを直接・間接に示唆する言い方です。実際に関係があるかどうかにかかわらず、相手を怖がらせて要求を通そうとしている点で、態様が不当な要求といえます。

 このタイプは、当事者だけで対応を続けるのが難しい類型です。各都道府県の暴力追放運動推進センターや警察の相談窓口があり、事業者の場合は暴力団対策法にもとづく不当要求防止責任者の制度も設けられています。早い段階で外部につなぐ判断が要になります。

【⑤ 記録と証拠を動かす】

サイン10「ここにサインだけしてもらえますか」「録音はやめてください」
 その場で書面に署名を求める、あるいは記録に残されることを嫌がる、という形です。

 一方的に用意された書面に署名する義務はありません。内容に問題がないと思えても、その場では署名しないという対応が広く推奨されています。いったん署名した書面は、後から「合意した証拠」として扱われ、これを覆すには相応の主張と立証が必要になります(強迫による意思表示として取り消しを主張する余地はありますが、その立証はこちら側の負担です。民法96条)。

 録音を強く拒まれる場面も同様で、記録が残ると困る内容が予定されている可能性を示すサインになり得ます。

3. 似ているけれど、直ちに「不当要求」とはいえない言葉

 サインを覚えると、今度は正当な請求まで拒絶してしまうという別の失敗が起こりがちです。次の言葉は、それ自体では不当要求の根拠になりません。

  • 「訴えます」「弁護士に相談します」……法的手続をとることの予告は、本来認められた権利行使です。予告したこと自体が直ちに違法になるわけではありません。
  • 「消費生活センターに相談します」「被害届を出します」……公的な窓口に相談することも同じです。
  • 金額が高いというだけ……請求すること自体は自由で、支払義務の有無と金額の相当性は、あらためて検討すべき別の論点です。
  • 強い口調・大きな声だけ……表現が感情的でも、中身が正当な苦情であることはあります。実際、カスタマーハラスメントに関する国の指針でも、社会通念上許容される範囲で行われた申入れは、正当なものとして区別されています。

 判断の軸は「言い方の強さ」ではなく、「法的根拠があるか」と「通し方が度を越えていないか」の2点です。この見分け方については、別のコラムで詳しく整理しています。

4. サインに気づいたときにまずすること

  • その場で結論を出さない。 支払う・支払わないの回答も、金額の提示も保留する。
  • 要求の中身を、相手の言葉で確認する。 誰が、何を根拠に、いくらを、いつまでに求めているのか。こちらで補って解釈しない。
  • 書面に署名しない。現金を渡さない。 特に、その場で持ち出された書面は持ち帰って確認する。
  • やり取りを記録に残す。 日時・場所・発言内容をメモし、メッセージのやり取りは消さずに保存する。
  • 一人で抱え込まない。 対応を続けるほど、断る判断は難しくなります。要求が続いている段階で相談したほうが、選べる手段は多く残ります。

まとめ

 不当要求は、いきなり明確な形では現れません。多くの場合、要求の中身をぼかす言葉・判断の時間を奪う言葉・第三者を遠ざける言葉から始まります。ここで挙げた10のサインは、そのどれかに当てはまるものです。

 同時に、強い言葉がすべて不当要求ではありません。大切なのは、言い方に反応することではなく、「その要求に法的な根拠があるか」「通し方が度を越えていないか」を落ち着いて確かめることです。

 判断に迷う段階であっても、相談していただいて差し支えありません。応じるべき部分と応じる必要のない部分を切り分けるところから、対応は始まります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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