営業時間外の呼び出し・長時間の居座り|断るための法的根拠

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

 「今夜10時に行くから対応しろ」「納得できないから、そっちが家まで来い」「結論が出るまで帰らない」——。

 苦情への対応そのものよりも、時間と場所を相手に決められてしまうことに消耗している、というご相談は少なくありません。断りたい気持ちはあっても、「客商売なのに断ってよいのか」「断ったことが後で不利にならないか」という迷いから、深夜の呼び出しに応じ、何時間も話を聞き続けてしまう。そうして一度応じると、それが次回からの基準になっていきます。

 この記事では、営業時間外の呼び出しと長時間の居座りについて、なぜ断ってよいのかという法的根拠を整理します。刑事上の各罪の成立要件そのものは別の記事に譲り、ここでは「どこまでが応じる義務のある範囲か」という手前の線引きに絞ります。

1. 「断ってよいのか」が分からなくなる理由

 前提として、苦情を申し入れること自体は正当な行為です。商品やサービスに問題があれば、事業者は事実を調査し、必要な対応をとる責任があります。この記事は、そうした申し入れを退けるためのものではありません。

 問題になるのは、要求の中身と、要求の通し方が切り離されている場面です。

 たとえば「靴にシミがあったので交換してほしい」という申し入れ自体は正当でも、「今夜10時に店を開けて対応しろ」という部分は、交換という要求とは別の話です。中身が正当だからといって、方法まで相手の指定どおりにする義務が生じるわけではありません。

 逆に言えば、中身への対応は誠実に行いながら、時間と場所の指定だけを断るという対応が成り立ちます。ここが整理されていないと、「断る=苦情そのものを拒絶する」と感じてしまい、身動きが取れなくなります。

2. 相手が指定できること・できないこと

 契約から生じる義務は「何をするか」であって、「いつ・どこで・誰が・どういう態度で」までを相手が決められるとは限りません。おおまかには次のように整理できます。

事項考え方
対応の中身(交換・修補・返金・説明)契約や法律上の責任の範囲で、応じる義務が生じ得る
対応の時期緊急性がなければ、直ちに対応する義務があるとは限らない
対応の時間帯取引時間の定めがあれば、その時間内に限られる(民法484条2項)
対応の場所契約の内容や取引の実情によるが、相手の指定に従う義務があるとは限らない
対応する人物の指定「上を出せ」「社長を出せ」に応じる義務は原則としてない
面談・訪問・謝罪の方法契約上の債務の内容ではなく、義務があるとは言いにくい

 この表の下の4つは、いわば要求の中身ではなく、要求の通し方にあたる部分です。ここに応じる義務があるかは、中身の正当性とは別に判断できます。

3. 営業時間外の呼び出しを断る根拠

 まず、時間についてはかなり直接的な条文があります。

 民法484条2項は、「法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、弁済をし、又は弁済の請求をすることができる」と定めています。これは2017年(平成29年)の民法改正で新設された規定で、それまで商人について定めていた旧商法520条を、商取引に限らない一般的なルールとして民法に移したものです(2020年4月1日施行)。

 ポイントは、「弁済の請求」も取引時間内に限られると書かれている点です。つまり、履行を求める側も、取引時間外に請求できるわけではないという建付けになっています。営業時間を定めて掲示している店であれば、この考え方が当てはまる場面は多いと考えられます。

 もっとも、この規定が直接カバーするのは債務の履行とその請求の場面です。「営業時間外に謝りに来い」「夜中に電話で説明しろ」といった要求は、そもそも弁済の請求ですらないことが多く、その場合は次の点がより重要になります。

 面談・訪問・謝罪そのものは、通常、契約上の債務の内容ではありません。 商品を引き渡す、代金を受け取る、契約不適合があれば追完するといった義務は契約から生じますが、「夜に呼び出しに応じる」という義務は、特別な合意がない限り生じません。応じる義務のないことを、害悪の告知や暴行によって強いれば、それ自体が刑法223条の強要罪の問題になり得ます(この点の詳細は「土下座・謝罪文の強要」の記事で扱っています)。

 なお、追完の方法についても、民法562条1項ただし書は、買主に不相当な負担を課さない限り、売主が買主の請求した方法と異なる方法で追完できる旨を定めています。方法の決定権が全面的に申入れ側にあるわけではないという考え方が、条文にも表れています。

 したがって、「本日中に、営業時間外に対応する法的義務があるか」と問われれば、緊急性がない限り、一般にはないと考えてよい場面が多いといえます。その上で、「営業時間内にお持ちいただければ確認のうえ対応します」と、中身については応じる姿勢を示すのが実務的です。

4. 「こちらに来い」を断る根拠

 「そっちが取りに来い」「うちに来て説明しろ」という求めについても、応じる義務が当然に生じるわけではありません。

 弁済の場所については民法484条1項に原則規定がありますが、当事者の合意や取引の実情が優先します。店頭での売買であれば、店頭でのやり取りが前提になっているのが通常です。まして、面談や説明のために相手の指定場所へ出向くことは、契約上の債務とは別の話です。

 実務的にも、相手が管理する場所での面談は避けるのが基本とされています。理由は次のとおりです。

  • その場に誰が同席するか、何人になるかを、こちらで決められない
  • 話が終わっても、こちらの判断で退出しにくい状況が生まれやすい
  • 録音・録画などの記録が残しにくい
  • 物を壊した、といった別の主張を持ち出される余地がある

 やむを得ず外で会う場合でも、第三者の出入りがある場所(喫茶店やホテルのロビーなど)を選び、複数名で臨み、戻る予定時刻を別の人に伝えておく、といった手当てが考えられます。

5. 従業員に対応させる前に確認したいこと

 ここは、事業者側の視点で見落とされやすい部分です。客の求めに応じて従業員を営業時間外に対応させれば、それは労働時間の問題になります。

 労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、これに当たるかどうかは、就業規則などの定めではなく客観的に判断されるとするのが最高裁の考え方です(最判平成12年3月9日・三菱重工業長崎造船所事件)。会社の指示で夜間の呼び出しに応じさせれば、所定労働時間外の対応であっても指揮命令下と評価される余地があります。

 そうなると、法定労働時間を超える部分については36協定と割増賃金の問題が生じます。「客が呼んでいるから」は、労働時間規制を外す理由にはなりません。

 加えて、使用者は労働契約法5条により、労働者の生命・身体等の安全に配慮する義務を負います。危険が予想される場所へ一人で向かわせる、深夜に長時間拘束される状況を放置する、といった対応は、この観点からも問題になり得ます。

 さらに2026年10月1日からは、改正労働施策総合推進法により、事業主にカスタマーハラスメント対策の措置義務が課されます。厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、**拘束的な言動(不退去・居座り・監禁)**は、要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高い言動として挙げられています。時間外の呼び出しや長時間の拘束は、この枠組みの中で捉えるべき問題になりつつあります(義務の中身は「カスハラ対策の義務化」の記事で扱っています)。

6. 長時間の居座り・その場からの拘束

 次に、時間の区切り方です。

 事実関係と要求内容を把握するだけであれば、多くの場合30分から1時間程度で足りるとされています。あらかじめ終了時刻を伝えておくことが、後から打ち切るより実行しやすい方法です。

  • 予約時に「15時から16時まで」と終了時刻まで伝える
  • 開始時に改めて終了時刻を確認する
  • 時刻が来たら「予定の時刻になりました」と告げて終了する

 事前に伝えていなくても、「お話の趣旨は把握しました」「開始から30分が経過しましたので」と区切って構いません。話の途中であっても、こちらから終える判断はできます。断る理由を詳しく説明する義務もありません。

 それでも退去してもらえない場合は、退去を求めた事実を記録に残したうえで警察に相談する、という段階に進みます。刑法130条後段の不退去罪の成立要件や、退去要求をどう積み重ねるかについては、「職場・自宅に押しかけられた」の記事で詳しく扱っています。

 注意したいのは、逆方向の場面です。 相手の自宅などに出向いた側が「結論を出すまで帰るな」と言われた場合、そこにとどまる義務はありません。出入口をふさぐ、複数人で取り囲むといった形で事実上その場を離れられない状態が作られれば、刑法220条の逮捕・監禁罪の問題になり得ます。

 この場面で有効なのは、その場で結論を出さないと明言して離脱することです。「持ち帰って検討します」と告げて席を立つ形をとれば、対立を正面から作らずに退出できる場合があります。

7. 一人で営業している場合

 ここまでの実務は、複数名での対応や、決裁権者を出さないという前提に立っています。しかし個人商店や一人営業の場合、自分が決裁権者であり、持ち帰る先がありません。

 この場合でも、その場で結論を出さないという方針は維持できます。

  • 「弁護士に確認してから回答します」と伝える
  • 「返答は◯日までに書面でお送りします」と期限を切って区切る
  • 対応窓口を弁護士に一本化し、以後の連絡先を伝える

 「自分が責任者だから、この場で答えなければならない」ということはありません。決裁権があることと、その場で即答する義務があることは別です。 判断に法的な検討が必要である以上、確認の時間を求めるのは不自然なことではありません。

 一人で対応する場合は、営業時間外の連絡手段をあらかじめ絞っておくこと(留守番電話への切り替え、営業時間の掲示)も、事前の備えとして有効です。

8. 断るときの実務と、避けたいこと

しておきたいこと

  • 中身への回答と、時間・場所の指定への回答を分けて伝える
  • 同じ内容を繰り返す。理由を増やすほど反論の材料が増えます
  • 日時・所要時間・発言の要旨を記録する。記録は後の相談の土台になります
  • 対応の時間と回数について、自分の中で基準を決めておく

避けたいこと

  • 相手を実力で外に出すこと。自力救済にあたり、こちらが加害者になるおそれがあります
  • その場で書面に署名すること、金銭を渡すこと
  • できない約束をすること。曖昧な言い方が、後に合意があったと主張される余地を残します

9. 拘束された状態で書いてしまった書面

 長時間の拘束の中で、念書や示談書に署名してしまうことがあります。

 強迫によってした意思表示は、民法96条1項により取り消すことができます。取消権の行使期間は、追認をすることができる時から5年、行為の時から20年です(民法126条)。

 取消しを主張するには、そのとき何が起きていたかの立証が課題になります。日時、場所、人数、どのような言葉があったか、どれだけの時間その場にいたかを、できるだけ早い段階で書き出しておくことが土台になります。署名した書面自体も、破棄せず保管してください。

10. まとめ

  • 苦情の中身が正当であることと、時間・場所の指定に従う義務があることは別です
  • 民法484条2項は、取引時間の定めがあるときは、弁済もその請求も取引時間内に限られると定めています
  • 面談・訪問・謝罪の方法は、通常、契約上の債務の内容ではありません
  • 従業員に時間外対応をさせれば労働時間の問題が生じ、安全配慮義務やカスハラ措置義務の観点も加わります
  • 面談は終了時刻を先に伝えるほうが区切りやすく、途中で終える判断もできます
  • 相手の場所で「帰るな」と言われても、とどまる義務はありません
  • 一人営業でも、その場で即答する義務はありません

 時間と場所を相手に委ねないことは、相手を敵に回すことではなく、話し合いを成り立たせるための前提です。要求が繰り返される、その場で結論を迫られる、といった状況が続いている場合は、早い段階で弁護士にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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