【不貞慰謝料】不倫を理由に会社から処分を受けることはあるか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

不倫が配偶者に知られたとき、同時に頭をよぎるのが勤務先のことだという方は少なくありません。相手の配偶者から「会社に連絡する」と告げられている、すでに人事から事情を聞きたいと言われている、といったご相談を受けることがあります。

 結論から申し上げると、不倫をしたという事実だけを理由に会社が懲戒処分を行うことは、原則として難しいと考えられています。裁判所は、勤務時間外・職場外の行為に会社の懲戒権が及ぶ範囲を、限定的にとらえてきました。

 もっとも、「原則として難しい」ということと「何も起きない」ということは同じではありません。処分の可否を分けているのは不倫の有無そのものではなく、その事実が勤務先の業務や職場の秩序とどこで接点を持ったかです。この記事では、その接点の作られ方と、実際に処分を告げられたときに確認しておきたいことを整理します。

この記事で扱うこと・扱わないこと


  • 扱うのは、会社が不倫を理由に処分を行える場面と、その限界です。
  • 処分を告げられた場合の確認事項と、納得できないときにとれる手段も扱います。
  • 社内で発覚した場合に何が起きるかの全体像は、別の記事で扱っています。
  • 相手方から退職や転居を求められた場合の考え方も、別の記事で扱っています。
  • 慰謝料の金額そのものについては、この記事では立ち入りません。


「会社から処分される」と言うときの三つの層

 ご相談のなかで「処分」と呼ばれているものには、法律上の性質が異なる三つのものが混ざっています。どれに当たるかで、会社が満たすべき条件も、後から争えるかどうかも変わります。

呼び方法律上の性質後から争えるか
戒告・けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇就業規則に根拠を置く制裁無効の確認を求められる場合がある
配置転換、人事評価の引下げ人事権の行使権利の濫用として争える場合がある
口頭注意、厳重注意、退職勧奨法的な効果を伴わない事実上の働きかけ無効を求める手続は原則として想定されていない


同じ出来事でも呼び方は会社ごとに違う

 会社から書面を渡されず口頭で伝えられただけの場合、それが懲戒処分なのか、事実上の注意なのかがはっきりしないことがあります。呼び方が違えば争い方も変わりますので、まずはどれに当たるのかを確かめることが出発点になります。

退職勧奨は処分ではない

 「辞めてもらえないか」という働きかけは、会社が一方的に地位を奪うものではなく、あくまで退職の申し入れです。応じるかどうかは本人が決められます。応じた場合には自分の意思による退職として扱われますので、その場で結論を出す必要はありません。

会社は私生活上の行為をどこまで問題にできるのか

 懲戒処分は、企業の秩序を維持するための制裁として位置づけられています。そのため、勤務時間外・職場外の行為については、そもそも懲戒権が及ぶのかという点から検討されます。

最高裁が示してきた考え方

 最高裁昭和45年7月28日判決は、私生活の場面で住居侵入により罰金刑を受けた従業員の懲戒解雇について、行為が会社の組織や業務に関係のない私生活の範囲内で行われたこと、刑罰の程度が軽かったこと、社内の地位が指導的なものではなかったことなどを挙げ、会社の体面を著しく汚したとまでは評価できないとして、処分を無効としました。

 その後の最高裁昭和49年3月15日判決は、より一般的な判断の枠組みを示しています。私生活上の行為が就業規則の懲戒事由に当たるというためには、必ずしも具体的な業務の阻害や取引上の不利益が生じている必要はないものの、行為の性質や情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、経営方針、その従業員の企業内での地位や職種など諸般の事情から総合的に判断して、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない、という考え方です。

不倫の場面に置き換えると

 この枠組みを不倫に当てはめると、問われるのは「不倫をしたかどうか」ではなく、「その事実によって会社の評価や業務にどれだけの影響が現に生じたか」ということになります。社内で噂になった、気まずい雰囲気になったという程度では、この基準を満たすとは考えにくいのが一般的な理解です。

不倫が「私生活」の外に出る四つの経路

 逆にいえば、次のような形で業務と接点が生じている場合には、会社が問題にする余地が出てきます。処分の話が持ち上がったときは、自分の状況がどの経路に当たるのかを整理しておくと、会社の言い分を検討しやすくなります。

経路典型的な場面会社が問題にする理由
勤務時間や会社の資源を使った就業時間中のやり取り、社用の端末・車両・経費の使用職務に専念する義務や社内規程との関係
相手が社内の人だった同じ部署に所属している、業務上のやり取りに私的な事情が入り込む職場の秩序や人員配置への影響
相手が取引先や顧客だった取引の担当者や担当顧客との関係取引関係そのものへの影響
職務上の立場が関係している評価や人事に影響を持つ立場からの働きかけハラスメントとして別の枠組みで扱われる


 このほか、社外に事実が広く知られ、それが職務の性質と結びついて評価される場合もあります。もっとも、これは職業上の倫理が正面から問われる職種で問題になりやすい類型であり、どの職場にも当てはまるものではありません。

 なお、四つ目の経路については、性的な言動によって就業環境が害されたかという別の枠組みで検討されます。立場の差がある関係の場合の考え方は、別の記事で扱っています。

処分に至るまでに会社が満たすべきこと

 仮に懲戒事由に当たる事情があったとしても、会社が自由に処分を決められるわけではありません。次の四つが揃っているかが検討の対象になります。

就業規則に定めがあり、周知されていること

 最高裁平成15年10月10日判決は、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別と事由を定めておくことを要するとしたうえで、就業規則が拘束力を持つためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとしました。労働契約法7条も、周知されていることを前提としています。定めのない種類の処分や、記載のない事由による処分は、根拠を欠くことになります。

その定めに実際に当たること

 就業規則の条項に形式的に当てはめられていても、条項が想定している場面と実際の事情がずれていることがあります。会社が根拠として挙げた条項を確認し、その文言と自分の状況を突き合わせておくことが必要です。

処分の重さが釣り合っていること

 労働契約法15条は、懲戒が、行為の性質や態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、権利の濫用として無効になると定めています。同じような事案で他の従業員がより軽い扱いを受けていた場合には、この点が問題になり得ます。

手続が踏まれていること

 処分の理由を示さない、言い分を述べる機会を与えないといった進め方は、手続の相当性を欠くものとして処分の効力に影響することがあります。会社から事情を聞かれる場面での向き合い方については、別の記事で扱っています。

時間が経ってからの処分には限界がある

 不倫の場合、関係が終わってからかなり経った後に、離婚の話し合いなどをきっかけに会社に伝わることがあります。この点に関して、最高裁平成18年10月6日判決は、問題とされた出来事から7年以上が経過した後にされた処分について、その間に企業秩序が一定程度回復していたことなどを踏まえ、権利の濫用に当たり無効であると判断しました。

 時間が経てば必ず処分ができなくなるという意味ではありませんが、会社が事実を把握しながら長期間放置していた場合には、なぜ今になって重い処分を行うのかという合理性が問われることになります。

 また、すでに一度処分を受けた同じ事実について、後から別の処分を重ねることも、通常は想定されていません。処分の理由として挙げられている事実が、以前に注意や処分を受けたものと重なっていないかは確認しておきたい点です。

退職金の扱いは処分の有効性とは別に判断される

 懲戒解雇が有効とされた場合でも、退職金が当然に全額不支給になるわけではありません。東京高裁平成15年12月11日判決は、不倫とは別の私生活上の行為が問題となった事案ですが、懲戒解雇そのものはやむを得ないとしつつ、退職金については賃金の後払い的な性格を持つことを踏まえ、全額を不支給とするには永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為が必要であるとして、本来の支給額の3割の支払いを命じました。

 処分の効力を争わない場合でも、退職金の取扱いについては別に検討する余地があるということです。

公務員の場合は仕組みが異なる

 民間企業では就業規則が懲戒の根拠になりますが、公務員の場合は法律に直接定めが置かれています。国家公務員法82条1項3号は「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」を、地方公務員法29条1項3号は「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」を、それぞれ懲戒の事由として挙げています。処分の種類も、戒告・減給・停職・免職として法律に定められています。

 あわせて、国家公務員法99条と地方公務員法33条は、その職の信用を傷つけ、職員全体の不名誉となるような行為をしてはならないと定めており、勤務時間外の行為もこの対象になり得ると理解されています。

 ただし、非行に当たれば当然に処分が有効になるわけではなく、処分の重さが裁量の範囲を超えていないかという形で争われます。教育や保育など、職務の性質が正面から問われやすい職種では、判断が異なることもあります。

処分の通知を受けたときに確認しておくこと

 処分を告げられた直後は動揺しやすい場面ですが、後から争う場合に手がかりになるのは、この段階で確認した内容です。

  1. 処分の種類と、根拠とされた就業規則の条項を確認します。
  2. 処分の理由として挙げられている事実を、できるだけ具体的に書き留めます。
  3. 事実と異なる部分や、前提が違う部分がないかを整理します。
  4. 言い分を述べる機会が与えられたかどうかを確認します。
  5. 同じような事案で他の人がどのように扱われてきたかを思い出しておきます。


 書面が交付されない場合には、処分の内容と理由を書面で示してもらえないか求めることも考えられます。事実と異なる点がある場合には、その場で言い争うよりも、内容を書面にまとめて提出しておくほうが記録として残ります。

納得できないときにとれる手段


まず社内の手続を使う

 会社に苦情処理の窓口や不服申立ての仕組みがある場合には、そこに申し出る方法があります。処分が撤回される場合もありますし、そうでなくても会社の言い分がはっきりする点に意味があります。

労働審判

 地方裁判所に申し立てる手続で、原則として3回以内の期日で審理を終えることとされています(労働審判法15条2項)。裁判所の公表によれば、平成18年から令和6年までに終了した事件の平均審理期間は82.6日で、65.5パーセントが申立てから3か月以内に終了しています。審判に不服がある場合は、2週間の不変期間内に異議を申し立てることで訴訟に移行します。

訴訟

 懲戒解雇のように地位そのものが問題になる場合には、労働契約上の地位の確認と、その間の賃金の支払いを求める形になります。減給や出勤停止であれば、差し引かれた分の支払いを求めることが中心になります。

 なお、都道府県労働局のあっせんなど、裁判所以外の窓口もあります。どの手続が向いているかは、処分の種類と、職場に残る意思があるかどうかによって変わります。

会社の処分と慰謝料の話は別々に進む

 会社が処分を行わなかったことは、慰謝料の請求を退ける理由にはなりません。逆に、会社から処分を受けたことが、支払うべき金額を直接押し下げるわけでもありません。二つは別のルールで動く手続です。

 ただし、両方が同時に進んでいる場面では、会社に説明した内容と相手方に説明した内容が食い違うと、後で説明のつかない状況が生じることがあります。社内で発覚した場合の進み方については、別の記事で扱っています。

請求する側から見ると

 相手の勤務先に事実を伝えれば処分につながるのではないか、と考える方もいらっしゃいます。しかし、ここまで見てきたとおり、会社が処分を行える場面は限られており、実際には注意にとどまることも少なくありません。

 また、勤務先に連絡する行為自体が、こちらの側の責任を生じさせることがあります。宛先の選び方については、別の記事で扱っています。

 加えて、相手の収入が減れば、支払いの原資も細ります。分割払いを前提に話を進めている場合には、この点が交渉全体に影響することがあります。

よくあるご質問


就業規則に「不倫を禁止する」と書いてあれば処分できるのですか

 定めがあることは前提のひとつにすぎません。その定めに当たるかどうか、処分の重さが釣り合っているかどうかが別に検討されますので、規定があることだけで処分が有効になるわけではありません。

会社から事情を聞かれたら答えなければならないのですか

 どのような場合にも協力しなければならないというものではなく、調査の必要性や自分の職務との関係によって考え方が変わります。この点は別の記事で詳しく扱っています。

処分を受けた事実は転職先に伝わりますか

 退職の際に交付される退職証明書には、労働者が請求しない事項を記入してはならないとされています(労働基準法22条3項)。もっとも、懲戒解雇の場合には退職理由の記載を通じて事情が推測されることもありますので、処分の内容によって扱いは変わります。

まとめ


  1. 不倫をしたという事実だけを理由とする懲戒処分は、原則として難しいと考えられています。
  2. 判断の枠組みは、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大と客観的に評価されるかどうかです。
  3. 勤務時間や会社の資源の使用、相手が社内や取引先であること、職務上の立場の関与といった接点があると、会社が問題にする余地が生まれます。
  4. 懲戒には就業規則の定めと周知が必要で、重さの釣り合いと手続も問われます。
  5. 発覚から長い時間が経った後の処分には、合理性の面で限界があります。
  6. 懲戒解雇が有効でも、退職金の全額不支給が当然に認められるわけではありません。
  7. 公務員は法律に懲戒の事由と種類が定められており、民間とは仕組みが異なります。


会社からの処分や勤務先への影響にお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を数多くお受けしています。相手方との交渉と、勤務先との関係は、それぞれ別の対応が必要になる場面です。どちらか一方への対応が、もう一方に影響することもあります。

 処分を告げられた場合も、これから会社に伝わるかもしれないという段階の場合も、早い時期にご相談いただくことで選べる手立てが残りやすくなります。池袋・新橋の事務所でお話を伺っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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