社員を自宅待機にした場合、給与はどう扱うべきか【社員の私生活トラブルと会社対応シリーズ④】

桐生英美

桐生英美

テーマ:労務管理

社員を自宅待機にした場合、給与はどう扱うべきか

会社都合の待機と本人都合の欠勤を分けて考える


今日もありがとうございます。
人事トラブルを整理する「人の専門家」
ハーレー好きの社労士、キャプテン ヒデです。

社員が重大な交通事故を起こした。
本人が逮捕された。
会社名が報道されるかもしれない。
職場に出勤させると混乱が起きそうだ。

このような場合、会社として、

「しばらく自宅待機にしたい」

と考えることがあります。

自宅待機は、労務トラブルの初動対応として使われることがあります。
ただし、ここで注意したいのが、給与の扱いです。

「本人が問題を起こしたのだから、無給でよいのではないか」
「会社が来なくてよいと言ったのだから、給与は払うべきなのか」
「休業手当を払えばよいのか」
「有給休暇で処理してもよいのか」

実務では、このあたりが曖昧なまま進んでしまうことがあります。

自宅待機中の給与を考えるときは、まず、誰の事情で働けない状態になっているのかを分けて見る必要があります。

会社が出勤を控えさせているのか。
本人側の事情で出勤できないのか。
それとも、事実確認や処分判断のために一時的に勤務から外しているのか。

この整理をしないまま「自宅待機」という言葉だけで判断すると、後で未払い賃金や休業手当のトラブルにつながることがあります。

自宅待機という言葉だけでは判断できない


自宅待機と一口にいっても、実務上は少なくとも3つの場面に分けて考える必要があります。

1つ目は、本人は出勤できる状態だが、会社が業務上の判断で出勤を控えさせるケースです。

たとえば、

・事実確認が終わるまで出勤させない
・社内の混乱を避けるため、一時的に待機させる
・報道対応が落ち着くまで勤務を見合わせる
・顧客や取引先への影響を確認するまで出勤を控えさせる

といった場合です。

2つ目は、本人側の事情で出勤できないケースです。

たとえば、

・逮捕、勾留により現実に出勤できない
・本人が体調不良で勤務できない
・本人が連絡不能で出勤意思を確認できない

といった場合です。

3つ目は、事実確認や懲戒処分の検討のために、会社が一時的に勤務から外すケースです。

この場合も、本人が働ける状態にあるのか、会社が労務提供を拒んでいるのかによって、給与の扱いが変わる可能性があります。

ここを混同すると、

「無給でよいのか」
「休業手当が必要なのか」
「通常の賃金を払うべきなのか」
「欠勤扱いにできるのか」

の判断を誤りやすくなります。

会社が出勤を控えさせる場合は、休業手当の問題が出る


本人が働ける状態であるにもかかわらず、会社が、

「しばらく出勤しないでください」
「会社から連絡するまで自宅で待機してください」
「処分が決まるまで来ないでください」

と命じる場合、労働基準法26条の休業手当の問題が出る可能性があります。

労働基準法26条では、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合、会社は休業期間中、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないとされています。厚生労働省の「確かめよう労働条件」でも、労働基準法等の基礎知識や労務管理に関する情報が提供されています。

そのため、本人が出勤できる状態にあるのに、会社が一方的に自宅待機を命じて無給にする対応は、慎重に考える必要があります。

ここで誤解しやすいのは、
「平均賃金の60%を払えば、必ずそれでよい」
というわけではないことです。

労働基準法26条の休業手当は、最低限の基準としての性格があります。
事案によっては、賃金全額の支払いが問題になることもあります。

たとえば、会社側の判断で出勤を止めているのに、待機期間が長くなっている。
本人は働く意思も能力もある。
就業規則に自宅待機中の賃金の扱いが整理されていない。

このような場合には、単に「60%払えばよい」と考えるのではなく、自宅待機を命じる理由、期間、本人の状態、就業規則の定めを確認する必要があります。

この点は、個別事情によって判断が分かれます。
実際に無給、休業手当、通常賃金のどれで扱うかは、慎重な確認が必要です。

逮捕・勾留で出勤できない期間は、別の整理になる


一方で、本人が逮捕・勾留されていて、現実に出勤できない期間については、会社が出勤を止めているというより、本人側の事情により労務提供ができない状態と整理されることが多いです。

この場合は、就業規則に基づいて、

・欠勤
・休職
・年次有給休暇の申請の有無
・無断欠勤に該当するか
・連絡不能時の扱い

などを確認することになります。

ただし、ここでも注意が必要です。

たとえば、釈放された後、本人が出勤できる状態になったとします。
その時点で会社が、

「まだ出勤しないでください」
「社内が落ち着くまで自宅で待機してください」
「処分を決めるまで来ないでください」

と命じる場合には、そこからは会社都合の待機として、休業手当や賃金の問題が出る可能性があります。

つまり、逮捕・勾留中と、その後の自宅待機は分けて考える必要があります。

「最初は本人都合の欠勤だった」
としても、途中から会社が出勤を止めているのであれば、給与の扱いも変わる可能性があります。

免許停止・免許取消の場合は「出勤不能」とは限らない


交通事故や飲酒運転などでは、免許停止や免許取消が問題になることがあります。

ここで注意したいのは、免許停止や免許取消により「担当業務ができない」ことと、「会社に出勤できない」ことは別だという点です。

たとえば、配送担当者、営業車を使う営業職、送迎業務を担当する社員などが免許停止になった場合、従来の運転業務はできなくなるかもしれません。

しかし、会社に出勤して、別の業務を担当できる可能性はあります。

・倉庫作業
・事務作業
・補助業務
・社内研修
・顧客対応以外の業務
・一時的な配置転換

このような対応が可能かどうかを確認せずに、直ちに無給や欠勤扱いにすると、後で問題になることがあります。

もちろん、会社の規模や業務内容によっては、代替業務を用意できない場合もあります。
その場合でも、会社として何を検討したのかは記録に残しておきたいところです。

免許停止や免許取消の場面では、

「運転業務ができない」
「会社に出勤できない」
「会社が出勤を控えさせている」

この3つを分けて考えることが大切です。

年次有給休暇で処理する場合の注意点


自宅待機中の給与を考えるときに、

「本人の有給休暇で処理すればよいのではないか」

という話が出ることがあります。

この点にも注意が必要です。

年次有給休暇は、原則として労働者が請求する時季に与えるものです。労働基準法39条5項は、使用者は労働者の請求する時季に有給休暇を与えなければならないとし、事業の正常な運営を妨げる場合には他の時季に与えることができるとしています。厚生労働省の中央労働委員会資料でも、年休の時季変更権について、労働者が指定した時季に与えることが事業の正常な運営を妨げる場合の考え方が示されています。

そのため、会社が一方的に、

「自宅待機中は有給休暇で処理します」

と決めるのは避けるべきです。

本人から年次有給休暇の申請があり、それを会社が認めるのであれば、年休処理は選択肢になります。

一方で、本人の申請がないのに、会社が勝手に有給休暇を充当することは、トラブルになりやすい対応です。

特に、会社が出勤を控えさせているにもかかわらず、有給休暇で処理してしまうと、

「会社都合の待機なのに、なぜ本人の有給を使わされたのか」

という不満につながります。

有給休暇で処理する場合は、本人の申請や同意を確認し、記録に残しておくことが大切です。

自宅待機命令は、口頭だけで済ませない


自宅待機を命じる場合、口頭だけで済ませるのは避けたいところです。

「とりあえず家にいてください」
「給与は後で考えます」
「落ち着いたら連絡します」

このような曖昧な対応は、後でトラブルになりやすいです。

自宅待機を命じる場合は、少なくとも次の点を文書で残しておくと安心です。

・自宅待機を命じる理由
・自宅待機の開始日
・予定期間
・期間を延長する場合の連絡方法
・給与の扱い
・通常賃金、休業手当、欠勤扱いのいずれか
・年次有給休暇を使う場合は本人申請によること
・会社への連絡方法
・連絡可能な状態を保つこと
・会社からの呼び出しに応じること
・会社の許可なく出社しないこと
・待機中の服務規律
・本件に関して、会社の許可なく外部に説明、投稿、発信しないこと
・追加で報告すべき事項

特に、給与の扱いは曖昧にしないことが大切です。

「無給なのか」
「休業手当なのか」
「通常どおり支払うのか」
「本人申請により有給休暇を使うのか」

この点を決めないまま自宅待機を命じると、後で未払い賃金や休業手当の問題になりやすくなります。

自宅待機は、目的と期間を決めておく


自宅待機は、初動対応としては使いやすい方法です。

ただし、目的や期間を決めずに続けると、別の問題が出てきます。

事実確認のためなのか。
社内混乱を避けるためなのか。
顧客対応への影響を確認するためなのか。
懲戒処分を検討するまでの一時的な対応なのか。

目的をはっきりさせたうえで、まずは一定期間に区切ることが大切です。

たとえば、

「まずは〇月〇日まで」
「事実確認が終わるまで」
「次回連絡日を〇月〇日とする」

というように、期間や連絡の目安を示しておくと、会社も本人も状況を整理しやすくなります。

反対に、

「いつまでか分からない」
「給与も決めていない」
「会社から連絡があるまで待っていてください」
「理由は説明できません」

という状態が続くと、会社が就労を拒否していると受け取られるおそれがあります。

自宅待機は、あくまで一時的な対応です。
長期化する場合は、その理由を確認し、給与の扱いも含めて見直す必要があります。

懲戒処分とは分けて考える


自宅待機は、懲戒処分そのものではありません。

ただし、実務では、

「処分が決まるまで自宅待機」
「調査が終わるまで出勤停止のような扱い」
「本人に反省してもらうためにしばらく来させない」

という運用になっていることがあります。

ここは注意が必要です。

懲戒処分としての出勤停止であれば、就業規則上の懲戒処分として、根拠、手続き、処分の相当性が問題になります。

一方で、事実確認のための自宅待機であれば、懲戒処分とは別の業務命令として整理されます。

この2つを曖昧にすると、

「これは懲戒処分なのか」
「給与はどうなるのか」
「二重処分ではないのか」
「いつまで続くのか」

という問題が出てきます。

会社としては、自宅待機を命じる時点で、

・事実確認のための一時的な待機なのか
・職場秩序維持のための待機なのか
・懲戒処分としての出勤停止なのか

を分けておく必要があります。

特に、懲戒処分として出勤停止を行う場合は、就業規則上の根拠と手続きの確認が必要です。

まとめ


社員が重大な事故を起こした。
本人が逮捕された。
会社名が報道されるかもしれない。
職場に出勤させると混乱しそうだ。

このような場面で、自宅待機を検討することはあります。

ただし、自宅待機は使いやすい反面、給与の扱いを曖昧にすると、後でトラブルになりやすい対応です。

会社として確認したいのは、次の点です。

・会社が出勤を控えさせているのか
・本人側の事情で出勤できないのか
・本人は労務提供できる状態なのか
・逮捕・勾留中なのか、釈放後なのか
・免許停止などで担当業務ができないだけなのか
・代替業務や配置転換の余地はあるのか
・就業規則に自宅待機や懲戒処分の規定があるか
・給与、休業手当、欠勤、有給休暇の扱いをどうするか
・自宅待機の目的と期間を文書で示しているか

特に大切なのは、
「自宅待機」という言葉だけで処理しないことです。

本人が働ける状態なのに、会社が出勤を止めているのであれば、休業手当や賃金の問題が出ます。

本人が逮捕・勾留されていて現実に出勤できないのであれば、欠勤や休職など、本人側の事情として整理する場面もあります。

ただし、途中から会社が出勤を控えさせる場合には、そこから扱いが変わることもあります。

自宅待機を命じる場合は、口頭で済ませず、理由、期間、給与、連絡方法、待機中のルールを文書で残しておくことをおすすめします。

重大事故や逮捕対応では、会社も冷静さを失いやすくなります。

だからこそ、感情で動く前に、
「誰の事情で働けないのか」
「会社は何を命じているのか」
「給与はどう扱うのか」
を整理しておくことが大切です。

就業規則に自宅待機、休職、懲戒処分、服務規律の定めがない、または古いままになっている場合は、問題が起きる前に一度確認しておくと安心です。

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桐生英美
専門家

桐生英美(社会保険労務士)

日本経営サポート株式会社

民間企業での人事経験25年、社労士登録30年。労基署対応、労務トラブル、ハラスメント・カスハラ、問題社員対応を、経営と法令の両面から現場目線で整理し、中小企業の判断と実務対応を支援します。

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