昭和の人気食堂と令和の土産物店から考えた「変えること」と「残すこと」

桐生英美

桐生英美

テーマ:労務管理

先日、友人と千葉方面へツーリングに行きました。

目的地は、テレビのグルメ番組で何度も紹介されている人気食堂です。

開店時間に合わせて海ほたるで合流し、開店直後に到着。待つことなく入店できました。

ところが、店に入って驚きました。

テレビで見るより店内は広く、メニューは100種類以上あります。

フロア担当の女性が、店内に響く声でその日のおすすめを案内していました。

私は評判の「巣ごもり定食」、友人はおすすめの「壺漬け定食」を注文しました。アジフライもおいしいということで、1皿頼んで二人で分けることにしました。

入店後、店はすぐに満席になりました。

平日にもかかわらず、大変な人気です。

ただ、料理はなかなか出てきません。

20分ほど待って周囲を見渡しても、まだ誰も食べていません。

厨房は、女将さんと弟さんの二人で切り盛りしているようでした。開店直後に注文が集中したこともあったのでしょう。

友人と話をしながら待つこと約1時間。

ようやく定食が運ばれてきました。

結局、入店してから店を出るまで約90分。料理はおいしかったのですが、時間に余裕がないときには少し難しい店です。

人気があることと、運営しやすいことは別の問題


この食堂には、長く支持される理由があります。

豊富なメニュー、ボリューム、味、店の雰囲気、接客する女性の威勢のよい声。

効率だけでは説明できない魅力があります。

一方で、客が一気に押し寄せると、厨房の人数では対応が追いつきません。

これは、中小企業の職場でもよく見られる状況です。

仕事を知り尽くした少人数のベテランが、現場を支えている。

普段は問題なく回っているため、会社もその体制を当たり前だと考えている。

しかし、注文や仕事が集中したとき、誰かが休んだとき、急な依頼が入ったときに、一気に業務が滞ります。

「忙しいけれど、何とか回っている」

この状態は、必ずしも余裕があるという意味ではありません。

特定の人の経験、体力、責任感に支えられているだけという場合もあります。

「昔からこのやり方」は強みでもあり、リスクでもある


中小企業の人事労務相談では、

「昔からこの人がやっているので、詳しいことは本人しか分かりません」

という話をよく聞きます。

給与計算、勤怠集計、請求業務、顧客対応、商品の発注など、重要な仕事が一人に集中していることがあります。

その人が元気に働いている間は、大きな問題になりません。

しかし、病気、退職、介護、育児、急な欠勤などが起きた途端に、業務が止まります。

そこで初めて、

「手順書がない」

「パスワードが分からない」

「誰も代わりができない」

という事実に気づきます。

昔から続いているやり方には、長年積み上げてきた知恵があります。

そのため、すべてを新しくすればよいわけではありません。

ただし、何を残し、何を見直すかは、定期的に確認した方がよいでしょう。

犬吠埼の土産物店は、令和の店になっていた


食堂を出た後、4年ぶりに犬吠埼を訪れました。

以前訪れたときと比べて、土産物店がきれいにリニューアルされていました。

商品も、昔ながらの観光地のお土産だけではありません。

パッケージや並べ方が工夫され、若い人や女性も手に取りやすい、おしゃれな商品が増えていました。

場所や景色の価値は変わりません。

しかし、見せ方や売り方は、時代に合わせて変わっていました。

これは会社にも同じことがいえます。

会社の理念や大切にしてきた考え方まで、流行に合わせて変える必要はありません。

一方で、採用方法、社員への説明、仕事の進め方、教育方法、情報共有の方法は、働く人や社会の変化に合わせて見直す必要があります。

就業規則を直すだけでは、職場は変わらない


人事労務の世界では、法改正があるたびに就業規則の変更が話題になります。

もちろん、就業規則を最新の法令に合わせることは大切です。

しかし、条文を変更しただけで、現場の運用が変わるとは限りません。

例えば、育児や介護と仕事の両立支援制度を整えても、管理職が制度を理解していなければ、社員は利用しにくいままです。

ハラスメント相談窓口を設置しても、相談を受けた後の対応方法が決まっていなければ、担当者が困ります。

テレワーク制度を導入しても、業務の指示、進捗確認、勤怠管理のルールが曖昧であれば、かえって混乱します。

制度を作ることと、実際に使える状態にすることは、別の作業です。

会社が確認しておきたいこと


自社の仕事の進め方について、次の点を確認してみてください。

特定の社員しか分からない仕事はないか。

その人が1週間休んでも、業務を継続できるか。

業務手順や判断基準は、記録されているか。

昔からのやり方が、現在の社員数や働き方に合っているか。

新しい制度を作った後、管理職や社員に説明しているか。

ルールと実際の運用に違いがないか。

すべてを一度に変える必要はありません。

まずは、止まると困る仕事から整理する方が現実的です。

変えてはいけないものと、変えなければならないもの


昭和の雰囲気が残る食堂には、その店にしかない魅力がありました。

一方、犬吠埼の土産物店は、時代に合わせて見せ方を変えていました。

どちらが正しいという話ではありません。

変えないからこそ価値があるものもあります。

変えなければ、選ばれにくくなるものもあります。

会社経営でも、同じです。

長く大切にしてきた社風や人間関係まで、無理に変える必要はありません。

しかし、業務が特定の人に集中している状態や、誰にも説明できないルール、現在の働き方に合わない運用は、見直した方がよいでしょう。

就業規則や制度だけでなく、実際の仕事の流れ、管理職の説明、社員への周知まで含めて整理する。

一度、現在のルールと現場の運用が合っているか確認しておくと安心です。

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桐生英美
専門家

桐生英美(社会保険労務士)

日本経営サポート株式会社

民間企業での人事経験25年、社労士登録30年。労基署対応、労務トラブル、ハラスメント・カスハラ、問題社員対応を、経営と法令の両面から現場目線で整理し、中小企業の判断と実務対応を支援します。

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