KPIが会社を壊すとき【経営者のためのフレームワーク活用術8】

会社の業績を測るとき、
何を見るでしょうか。
売上。
利益。
利益率。
資金繰り。
自己資本比率。
多くの経営者は、
まず財務指標を見ます。
もちろん重要です。
むしろ見なければなりません。
しかし、
それだけで会社の健康状態を判断できるでしょうか。
私は、
健康診断に例えることがあります。
体重だけ測って健康だと言えるでしょうか。
血圧はどうか。
血糖値はどうか。
筋力はどうか。
睡眠はどうか。
生活習慣はどうか。
総合的に見なければ健康状態は分かりません。
会社も同じです。
売上や利益だけでは、
本当の状態は見えてこないのです。
バランスト・スコアカードとは何か
バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard)
は、
1990年代に
ロバート・キャプラン
と
デビッド・ノートン
によって提唱された経営管理手法です。
特徴は、
財務だけではなく、
4つの視点から会社を見ることです。
① 財務の視点
② 顧客の視点
③ 業務プロセスの視点
④ 学習と成長の視点
です。
この4つのバランスを見ることで、
会社の将来性まで含めて評価しようという考え方です。
なぜ財務だけでは足りないのか
例えば、
利益が出ている会社があったとします。
決算も良い。
資金繰りも良い。
一見すると問題ありません。
しかし、
顧客満足度が下がっている。
社員が次々と退職している。
技術継承が進んでいない。
新規顧客が増えていない。
このような状態だったらどうでしょうか。
今は良くても、
数年後には苦しくなるかもしれません。
逆に、
今は利益が少なくても、
顧客から高く評価されている。
社員が育っている。
改善活動が進んでいる。
新たな市場開拓が進んでいる。
こうした会社は、
将来的に大きく成長する可能性があります。
つまり、
財務指標は結果であって、
未来そのものではないのです。
顧客の視点
BSCの2つ目の視点は、
顧客です。
顧客は何を評価しているのか。
どのような価値を求めているのか。
顧客との関係はどうなっているのか。
例えば、
リピート率。
紹介件数。
顧客満足度。
問い合わせ件数。
こうした指標を見ることができます。
私は経営支援の現場で、
「売上は落ちていないから大丈夫」
という会社ほど注意深く見ます。
なぜなら、
顧客離れは売上より先に始まるからです。
顧客の視点を見ることで、
将来の変化の兆しを発見できます。
業務プロセスの視点
3つ目は、
業務プロセスです。
どのように価値を生み出しているのか。
どこに無駄があるのか。
どこに改善余地があるのか。
前回のバリューチェーン分析とも関係します。
例えば、
見積作成に時間がかかる。
クレーム対応が多い。
属人化が進んでいる。
納期遅延が発生している。
こうした問題は、
利益を圧迫します。
逆に、
業務プロセスが改善されれば、
利益率は向上します。
つまり、
財務結果の原因を見ているのが業務プロセスの視点なのです。
学習と成長の視点
そして私が最も重要だと思っているのが、
4つ目の
「学習と成長の視点」
です。
社員教育。
人材育成。
組織文化。
情報共有。
改善活動。
これらが含まれます。
実は、
ここが弱い会社は長続きしません。
なぜなら、
会社の未来は人が作るからです。
どれだけ良い商品があっても、
どれだけ顧客がいても、
人が育たなければ継続できません。
ところが、
ここは数字にしにくい。
だから後回しになりやすい。
前回のKPIの話ともつながります。
数字になりやすいものばかりを追うと、
人材育成が犠牲になります。
しかし、
長期的な競争力は人材によって決まります。
中小企業こそBSCが必要
BSCというと、
大企業向けの難しい経営手法だと思われがちです。
確かに本格的に導入すると複雑です。
しかし私は、
むしろ中小企業こそ考え方だけでも取り入れるべきだと思っています。
理由は単純です。
中小企業ほど、
社長の視点が会社の視点になるからです。
社長が売上だけを見れば、
組織も売上だけを見るようになります。
社長が利益だけを見れば、
組織も利益だけを見るようになります。
だからこそ、
経営者自身が多面的な視点を持つことが重要なのです。
私ならこう使う
実際の支援現場では、
私はBSCをそのまま導入することはあまりありません。
代わりに、
次のような問いを経営者に投げかけます。
財務の視点
「利益は十分に残っていますか」
顧客の視点
「お客様は本当に満足していますか」
業務プロセスの視点
「もっと良いやり方はありませんか」
学習と成長の視点
「5年後の会社を支える人は育っていますか」
たったこれだけです。
しかし、
この4つを定期的に考えるだけで、
経営の見え方は大きく変わります。
会社は結果だけでできていない
BSCが教えてくれることは、
とてもシンプルです。
会社は、
売上や利益だけでできているのではない。
ということです。
顧客との関係。
業務の仕組み。
社員の成長。
企業文化。
それらが積み重なって、
最終的に財務結果になります。
つまり、
財務は結果。
顧客・業務・人材は原因。
なのです。
結果ばかり見ていても、
原因は改善できません。
だからこそ、
経営者には多面的な視点が必要なのです。
私はこのシリーズの冒頭で、
フレームワークは答えではなく、
問いを立てるための道具だと書きました。
BSCも同じです。
4つの視点から会社を見ることで、
今まで見えていなかった問いを発見する。
それこそが、
このフレームワークの本当の価値なのだと思います。
次回はいよいよ、
このシリーズの総括に向かうための重要なテーマ、
「フレームワークでは見えないもの」
について考えます。
経営理念。
組織文化。
信頼関係。
社長の覚悟。
数字にも図表にも表れないものが、
なぜ経営を左右するのか。
フレームワークの限界と可能性について、
改めて整理してみたいと思います。


