なぜフレームワークを学んでも経営は良くならないのか【経営者のためのフレームワーク活用術1】

経営者に、
「競争相手は誰ですか?」
と質問すると、多くの場合は同業他社の名前が挙がります。
確かにそれは間違いではありません。
同じ地域で。
同じ商品やサービスを提供し。
同じ顧客を取り合っている。
そうした企業は分かりやすい競争相手です。
しかし実際の経営環境は、そんなに単純ではありません。
ある日突然、まったく別の業界から現れたプレイヤーが市場を変えてしまうことがあります。
顧客の価値観そのものが変わり、競争のルールが変わってしまうこともあります。
人材不足によって、競争以前に事業継続が難しくなることもあります。
つまり、
競争相手とは同業他社だけではないのです。
それを体系的に整理したものが、5フォース分析です。
5フォース分析とは何か
5フォース分析は、経営学者である
マイケル・ポーター
によって提唱されたフレームワークです。
企業の収益性は、
競合企業との競争だけではなく、
業界全体の構造によって決まる
という考え方に基づいています。
具体的には、
① 業界内の競争
② 新規参入の脅威
③ 代替品の脅威
④ 売り手(仕入先)の交渉力
⑤ 買い手(顧客)の交渉力
の5つの力によって業界の収益構造が決まると考えます。
競争相手は同業者だけではない
例えば町の書店を考えてみましょう。
競争相手は近隣の書店でしょうか。
もちろんそれもあります。
しかし実際には、
ネット通販
電子書籍
動画配信サービス
SNS
ゲーム
なども競争相手になっています。
なぜなら、
顧客が本に使う時間やお金を奪っているからです。
つまり、
競争とは同じ商品同士の戦いではなく、
顧客の時間やお金の奪い合いなのです。
この視点は、多くの中小企業にとって重要です。
本当の競争相手を見誤ると、
ライバル企業ばかり見ていて、
市場そのものの変化を見落としてしまいます。
代替品という見落とされやすい脅威
5フォース分析の中で、
中小企業が最も見落としやすいのが
「代替品の脅威」
です。
例えばタクシー会社。
競争相手は他のタクシー会社でしょうか。
もちろんそうです。
しかし近年では、
ライドシェア
カーシェア
レンタカー
公共交通機関
さらにはオンライン会議
までもが競争相手になっています。
移動しなくても済むのであれば、
そもそもタクシー需要そのものが減るからです。
これは極端な例ではありません。
実際、多くの業界で起きています。
写真館はスマートフォンと競争しています。
新聞はSNSと競争しています。
会議室はZoomと競争しています。
研修会社は生成AIと競争しています。
競争相手は業界の外側から現れることが多いのです。
人材不足も競争環境である
中小企業の現場で近年強く感じるのは、
人材市場の影響です。
以前は、
顧客獲得競争が中心でした。
しかし現在は、
採用競争の方が厳しい業界も少なくありません。
建設業。
運送業。
介護業。
製造業。
サービス業。
多くの業界で、
仕事はあるのに人がいない
という状況が発生しています。
このとき競争相手は、
同業他社だけではありません。
地域全体の企業が競争相手になります。
場合によっては、
都市部そのものが競争相手になります。
つまり、
競争環境そのものが変化しているのです。
顧客が強くなった時代
5フォース分析には、
「買い手の交渉力」
という視点があります。
昔は、
情報を持っているのは売り手でした。
価格も品質も比較しにくかった。
しかし現在は違います。
顧客はスマートフォン一つで比較できます。
口コミも確認できます。
価格も調べられます。
選択肢も豊富です。
つまり、
顧客の交渉力は過去より圧倒的に強くなっています。
その結果、
単なる価格競争に巻き込まれる企業も増えています。
だからこそ、
価格以外の価値を明確にしなければなりません。
安さだけでは勝てない時代なのです。
AIは脅威か、機会か
最近の経営相談でよく話題になるのがAIです。
AIは脅威でしょうか。
それとも機会でしょうか。
答えは、
両方です。
事務作業中心の仕事は代替される可能性があります。
情報提供だけで成り立っていたビジネスも影響を受けます。
一方で、
AIを活用する企業は大きな生産性向上を実現できます。
つまり、
AIは競争相手にもなり得るし、
強力な味方にもなり得るのです。
重要なのは、
AIそのものではありません。
AIによって変化する競争環境をどう見るかです。
本当に戦うべき相手は誰か
5フォース分析を学ぶ最大の意義は、
競争相手を広く捉えられるようになることです。
しかし私は、
もう一段深い問いが必要だと考えています。
それは、
「本当に戦うべき相手は誰か」
という問いです。
例えば、
価格競争。
人材不足。
市場縮小。
顧客離れ。
こうした課題に直面すると、
外部環境に原因を求めたくなります。
しかし実際には、
もっと大きな敵が存在することがあります。
それは、
変化を拒む自分自身です。
過去の成功体験。
固定観念。
思い込み。
業界の常識。
「昔からこうだった」
という考え方。
これらが最も強力な競争相手になっていることは少なくありません。
競争戦略の本質
5フォース分析は、
競争環境を理解するための優れたフレームワークです。
しかし、
競争環境を理解すること自体が目的ではありません。
重要なのは、
その環境の中でどのようなポジションを取るのか。
どこで戦い、
どこでは戦わないのか。
何を捨て、
何に集中するのか。
を決めることです。
つまり、
競争戦略とは、
戦う方法を考えることではありません。
どこで戦うかを決めることなのです。
その意味で、
5フォース分析は競争相手を探すフレームワークではなく、
「自社の立ち位置を考えるフレームワーク」
と言えるかもしれません。
次回は、
多くの経営者が一度は見たことがある
BCGマトリックス
を取り上げます。
「花形」
「金のなる木」
「問題児」
「負け犬」
という有名な分類がありますが、
実はこのフレームワークにも大きな誤解があります。
そして時には、
「金のなる木」が会社を衰退させることさえあるのです。
次回は、その落とし穴について考えていきます。


