なぜフレームワークを学んでも経営は良くならないのか【経営者のためのフレームワーク活用術1】

経営者向けの研修や経営書で、
一度は目にしたことがあるフレームワークがあります。
BCGマトリックスです。
市場成長率と市場シェアを軸に事業を4つに分類する考え方で、
花形(スター)
金のなる木(キャッシュカウ)
問題児(クエスチョンマーク)
負け犬(ドッグ)
という少々刺激的な名称でも知られています。
経営学の世界では非常に有名なフレームワークです。
私自身も経営支援の現場で活用することがあります。
しかし、
このフレームワークをそのまま信じることには危険もあると感じています。
BCGマトリックスとは何か
まず簡単に整理しておきましょう。
市場成長率が高く、市場シェアも高い事業が
「花形」
です。
成長市場で強いポジションを持っている状態です。
将来の柱になる可能性があります。
市場成長率は低いものの、市場シェアが高い事業が
「金のなる木」
です。
成熟市場で安定的な利益を生み出します。
会社の収益基盤になる存在です。
市場成長率は高いが、市場シェアが低い事業が
「問題児」
です。
将来性はある。
しかし今はまだ勝てていない。
投資を続けるかどうかの判断が求められます。
市場成長率も低く、市場シェアも低い事業が
「負け犬」
です。
一般的な教科書では、
撤退候補とされることが多い分類です。
理屈としては分かりやすい。
だからこそ広く普及しました。
しかし現実の経営は、
この4分類ほど単純ではありません。
金のなる木が会社を弱くする
経営支援の現場でよく見かけるのが、
金のなる木への依存です。
かつて大ヒットした商品。
長年の主力事業。
安定して利益を生むサービス。
確かに重要です。
会社を支えてきた功労者でもあります。
しかし、
利益を生む事業ほど経営者は執着します。
当然です。
今も利益が出ているからです。
ところが、
市場は少しずつ変化しています。
顧客も変わっています。
競争環境も変わっています。
にもかかわらず、
「まだ利益が出ているから」
という理由で変化を先送りしてしまう。
すると何が起きるのでしょうか。
気が付いたときには、
市場そのものがなくなっているのです。
過去の成功体験は強力です。
しかし同時に、
未来への挑戦を妨げることもあります。
会社を衰退させる最大の要因は、
失敗ではありません。
成功体験への執着です。
問題児が未来をつくる
一方で、
問題児と呼ばれる事業があります。
売上は小さい。
利益も出ていない。
市場での存在感もまだ弱い。
数字だけを見ると、
撤退候補に見えるかもしれません。
しかし、
未来はいつも問題児から生まれます。
かつてのインターネット事業。
スマートフォン事業。
EC事業。
サブスクリプション事業。
生成AI関連事業。
最初から金のなる木だったものはありません。
すべて問題児でした。
将来性はある。
しかし不確実性も大きい。
だから多くの人が手を出さなかった。
しかし、
そこに挑戦した企業が次の時代をつくりました。
経営とは、
現在を守る仕事であると同時に、
未来を育てる仕事でもあります。
花形は永遠ではない
花形事業にも注意が必要です。
成長市場でシェアを持っている状態は魅力的です。
しかし、
永遠に成長し続ける市場はありません。
どんな市場もやがて成熟します。
花形はやがて金のなる木になります。
つまり、
花形であること自体に価値があるわけではありません。
重要なのは、
次の花形を育て続けることです。
会社が停滞するときは、
今の花形ばかりを見ています。
成長するときは、
次の花形を探しています。
負け犬は本当に不要なのか
BCGマトリックスで最も誤解されるのが
「負け犬」
という分類です。
名前が悪い。
実に悪い。
誰だって自社事業を負け犬と呼ばれたくはありません。
しかし現実には、
市場規模は小さい。
シェアも大きくない。
それでも利益を生み続ける事業があります。
ニッチ市場です。
大企業が参入しない。
競争も激しくない。
顧客との関係性が深い。
こうした事業は、
BCGマトリックス上では魅力的に見えないかもしれません。
しかし、
中小企業にとっては理想的なポジションであることも少なくありません。
だから私は、
BCGマトリックスを使う際に、
「負け犬」という言葉をそのまま受け取らないようにしています。
市場シェアだけでは測れない価値があるからです。
数字は過去を表す
BCGマトリックスの最大の弱点は、
未来を予測できないことです。
なぜなら、
分析に使う数字はすべて過去の数字だからです。
市場成長率も。
市場シェアも。
過去の結果です。
しかし経営者が判断したいのは未来です。
5年後。
10年後。
あるいは次の世代です。
そこには、
技術革新があります。
価値観の変化があります。
人口動態の変化があります。
AIがあります。
社会環境の変化があります。
こうしたものは、
BCGマトリックスだけでは見えてきません。
だからこそ、
フレームワークは補助線でしかないのです。
本当に見るべきもの
私は経営支援の現場で、
BCGマトリックスを見るとき、
必ず別の問いを加えます。
それは、
「この事業は未来につながっているか」
という問いです。
今利益が出ているか。
今シェアがあるか。
もちろん重要です。
しかしそれ以上に、
未来の顧客価値につながるか。
未来の市場につながるか。
未来の会社につながるか。
を考えます。
なぜなら、
経営とは未来を選ぶ仕事だからです。
現在の利益だけを追えば、
未来を失います。
未来ばかり追えば、
現在が立ち行かなくなります。
経営者の仕事は、
その両方のバランスを取ることです。
BCGマトリックスが教えてくれること
BCGマトリックスの本当の価値は、
事業を分類することではありません。
資源配分を考えることです。
限られた時間。
限られた人材。
限られた資金。
それをどこに投資するのか。
どこを守るのか。
どこを育てるのか。
どこから撤退するのか。
それを考えるためのフレームワークです。
つまり、
事業を評価する道具ではなく、
未来への投資判断を考える道具なのです。
次回は、
バリューチェーン分析を取り上げます。
利益は売上で決まると思われがちですが、
実は利益の差は、
どこで価値を生み出し、
どこで価値を失っているか
によって決まります。
多くの会社が見落としている
「利益の漏れ」
について考えてみたいと思います。


