事業承継後に先代社長が経営に口を出して困る…【事業承継後のゴタゴタ整理2】
「阿吽の呼吸」では会社は動かない
「うちは親子だから、言わなくても分かる。」
「長年一緒にやってきたから、役割は暗黙の了解です。」
事業承継を終えた会社で、このような言葉を聞くことがあります。
確かに、親子や長年の役員同士であれば、お互いの考え方はよく分かっているのかもしれません。
しかし、その「分かっている」は、本当に会社全体でも共有されているのでしょうか。
私が現場で見る限り、多くの混乱は「役割が決まっていない」のではありません。
「役割が周囲に見えていない」ことから始まっています。
社員は「誰に従えばいいのか」が分からない
例えば、新しい設備投資を検討している会社があったとします。
後継社長は導入に前向きです。
一方で、先代会長は慎重な意見を持っています。
二人は、「最後は相談して決めよう。」と考えているかもしれません。
しかし、そのやり取りを見ている社員は、「結局、誰が決めるのだろう。」と思っています。
すると、社長にも相談する、会長にも相談する、都合の良い方の意見を採用する。
そんな状態が少しずつ生まれてしまいます。
「相談」と「決裁」は違う
ここで混同されやすいのが、「相談すること」と「決裁すること」です。
新社長が先代へ相談することは、決して悪いことではありません。
経験豊富な先代から助言を受けることは、大きな財産です。
しかし、相談した結果、「では、私が決めます。」という姿勢がなければ、社員は、「やはり最後は先代が決めている。」と受け止めます。
相談は助言を得る行為。
決裁は責任を負う行為。
この二つは、明確に区別しなければなりません。
「会長だから」「親だから」はルールにならない
事業承継では、「会長だから。」「創業者だから。」「親だから。」という理由だけで関与が続くことがあります。
しかし、社員から見れば、それはルールではありません。
会社は組織です。
組織は、「誰が、何について、どこまで責任を持つのか。」が明確になって初めて、安心して動くことができます。
明文化すると、関係が悪くなるのでしょうか
「そこまで文章にすると、親子関係がぎくしゃくしませんか。」
そう質問されることがあります。
私は逆だと思っています。
曖昧なままだからこそ、「言った。」「聞いていない。」「そんなつもりじゃなかった。」という行き違いが起きます。
役割を書き出すことは、お互いを縛るためではありません。
お互いを守るためです。
私が整理する「役割の四つの区分」
事業承継後には、少なくとも次の四つを整理することをお勧めしています。
① 最終決裁
誰が最終的に判断するのか。
社員全員が同じ認識になっているでしょうか。
② 助言
先代は、どのような場面で助言するのでしょうか。
また、その助言を求めるのは誰でしょうか。
③ 対外的な役割
金融機関。
主要取引先。
地域団体。
先代だからこそ果たせる役割があります。
一方で、新社長が前面に立つ場面もあります。
その使い分けが重要です。
④ 社員との関わり方
社員から直接相談を受けるのか。
受ける場合は、新社長へ共有するのか。
ここを決めておかなければ、情報が分散し、二重指揮系統になってしまいます。
明文化すべきなのは「権限」だけではない
役割分担というと、決裁権ばかりに目が向きます。
しかし、本当に大切なのは、期待される役割まで共有することです。
例えば、先代には、
「会社の歴史を伝える役割」
「重要な取引先との信頼関係をつなぐ役割」
後継者には、
「未来を示す役割」
「最終判断を下す役割」
このように整理すると、お互いの価値が見えやすくなります。
役割は、権限を分けるためだけではありません。
強みを生かすためにあるのです。
「経営の再編集」という視点
私は、事業承継とは「社長交代」ではなく、会社の役割を書き換える作業
だと考えています。
先代が悪い、後継者が未熟だ、そんな話ではありません。
会社が次の時代へ進むために、誰が何を担い、誰が責任を持ち、誰が支えるのか。
それを社員にも見える形で整理すること。
それが、「経営の再編集」の第一歩です。
阿吽の呼吸だけで会社が回る時代は、終わりました。
だからこそ、役割を言葉にし、文章にし、全員で共有することが、事業承継後のゴタゴタを防ぐ最も確実な方法なのです。
次回予告
「親子だから話せない…その問題は『家族の問題』ではなく『会社の課題』です」
親子承継では、経営の議論がいつの間にか親子げんかになってしまうことがあります。
次回は、感情と経営を切り分け、会社として課題を整理するための考え方についてお伝えします。



