事業承継後に先代社長が経営に口を出して困る…【事業承継後のゴタゴタ整理2】
その言葉の裏にある本当の気持ち
「やっぱり、前の社長の方がよかった。」
事業承継後、この言葉を耳にした後継者は少なくありません。
長年会社を支えてきた古参社員から言われれば、大きなショックを受けるでしょう。
「私のことを認めてくれていないのだろうか。」
「改革に反対しているのだろうか。」
そう受け止めてしまうのも無理はありません。
しかし、私はこの言葉を聞いたとき、すぐに「反対意見」だとは考えません。
多くの場合、その言葉の裏には、会社への愛着と将来への不安が隠れています。
古参社員は「過去」を守りたいのではない
古参社員は、何十年も会社で働いてきました。
苦しい時代も経験し、会社の成長を自分のことのように喜び、多くの困難を先代社長と乗り越えてきました。
そのため、「前の社長の方がよかった。」という言葉は、「新社長が嫌いだ。」という意味ではなく、「今まで築いてきた会社が変わってしまうのではないか。」という不安の表れであることが少なくありません。
人は「変化」ではなく「喪失」を恐れる
心理学には、人は何かを得る喜びよりも、何かを失う痛みを強く感じる傾向があると言われています。
事業承継でも同じです。
古参社員にとっては、
・長年の仕事の進め方
・先代との信頼関係
・自分の役割
・社内での立場
これらが一度に変わる可能性があります。
つまり、後継者が改革を進めようとすると、古参社員は「変化」を恐れているのではなく、「今まで大切にしてきたものを失うこと」を恐れているのです。
「昔は良かった」は、助けを求めるサインかもしれない
経営者は、この言葉を否定として受け取りがちです。
しかし、私は別の見方をしています。
古参社員は、新社長にこう問いかけているのかもしれません。
「この会社の良いところも残してくれますか。」
もしそうだとすれば、この言葉は対立ではなく対話の入口になります。
感情で受け返してはいけない
ここで後継者が、「いつまでも昔の話をしないでください。」「これからは私のやり方です。」と言ってしまうと、古参社員との距離は一気に広がります。
一方で、「先代が築いてきたものの中で、一番大切だったことは何ですか。」と尋ねると、会話の流れは変わります。
大切なのは、過去を肯定した上で未来につなげることです。
例えば、
残すもの
・お客様との信頼
・地域との関係
・品質へのこだわり
・社員を大切にする文化
変えるもの
・意思決定のスピード
・情報共有の方法
・評価制度
・営業手法
・デジタル化への対応
この区別が社員に伝わると、不安は大きく和らぎます。
古参社員は最大の味方にもなれる
承継がうまく進んだ会社では、古参社員が後継者を支える存在になっています。
その理由は、新社長が古参社員を「抵抗勢力」と見なさなかったからです。
経験を尊重し、意見を聞き、会社の歴史を未来へつなぐ役割をお願いする。
すると、古参社員は新しい体制の橋渡し役になってくれます。
会社の歴史を最も知る人は、会社の未来を支える人にもなれるのです。
「経営の再編集」という視点
私は、事業承継とは「過去を捨てること」ではないと考えています。
また、「過去をそのまま守ること」でもありません。
先代が築いてきた歴史と、新しい時代に必要な経営をつなぎ直すこと。
それが、私の考える「経営の再編集」です。
古参社員の「前の社長の方がよかった。」という言葉は、会社の歴史を守ろうとする気持ちの表れかもしれません。
その言葉を拒むのではなく、「何を残すべきか。」という問いに変えられたとき、事業承継は対立ではなく、次の時代への橋渡しになります。
次回予告
「先代社長と後継者の役割は、どこまで明文化すべきか」
事業承継後の混乱の多くは、「誰が何を決めるのか」が曖昧なことから始まります。
次回は、先代と後継者が互いに力を発揮するための役割分担と、その明文化のポイントについて考えます。



