組織文化はどうやって壊れるのか【コンサルの視点12】

経営を学ぼうとすると、必ずと言ってよいほど「フレームワーク」という言葉に出会います。
SWOT分析、3C分析、PEST分析、5フォース分析、バリューチェーン分析、KPI、KGI、バランスト・スコアカード。
経営に関心のある方であれば、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
私自身も、これらのフレームワークを否定するつもりはまったくありません。むしろ、経営を整理するうえで非常に有効な道具だと考えています。
複雑に絡み合った問題を、いくつかの視点に分けて考える。感覚的に捉えていた課題を、言葉や図にして整理する。経営者の頭の中にある漠然とした違和感を、他者と共有できる形にする。
その意味で、フレームワークはとても便利です。
しかし、ここで大切なことがあります。
フレームワークを学んだからといって、経営が良くなるわけではありません。
むしろ、フレームワークを使ったことで、かえって本質から遠ざかってしまうことさえあります。
なぜでしょうか。
それは、フレームワークが「答えを出す道具」ではなく、「問いを立てるための道具」だからです。
たとえば、SWOT分析を行うとします。
強み、弱み、機会、脅威。
この4つの枠に、自社の状況を書き込んでいく。すると、何となく経営分析をしたような気持ちになります。
しかし、そこで止まってしまえば、それは単なる「整理」であって、経営判断ではありません。
強みとして書き出したものは、本当にお客様から見ても価値のある強みなのか。
弱みだと思っているものは、本当に克服すべき弱みなのか。それとも、あえて捨ててもよいものなのか。
機会に見えているものは、自社が本当に取りに行くべき市場なのか。
脅威だと感じているものは、実は業界全体の変化を知らせる重要なサインではないのか。
こうした問いを深めていかなければ、SWOT分析は単なる表作りで終わってしまいます。
フレームワークの怖さは、空欄を埋めると「考えた気になってしまう」ことにあります。
3C分析も同じです。
顧客、自社、競合。
この3つを整理することは大切です。
しかし、顧客欄に「地域の中小企業」と書き、自社欄に「丁寧な対応」と書き、競合欄に「同業他社」と書いただけでは、何も見えてきません。
本当に問うべきなのは、
「その顧客は、なぜ今困っているのか」
「自社は、その困りごとに対して何を提供できるのか」
「競合と比べて、なぜ自社が選ばれる必要があるのか」
ということです。
つまり、フレームワークは枠そのものに価値があるのではなく、その枠を通じて、どれだけ深い問いを立てられるかに価値があります。
私は経営支援の現場で、さまざまな会社の課題に向き合っています。
売上が伸びない。
人が育たない。
利益が残らない。
新規事業が進まない。
社員が主体的に動かない。
こうした課題は、一見するとそれぞれ別々の問題に見えます。
しかし、実際にはもっと深いところでつながっていることが少なくありません。
売上の問題だと思っていたものが、実は商品の問題ではなく、社長の意思決定の問題だった。
人材育成の問題だと思っていたものが、実は評価制度ではなく、会社が何を大切にしているのかが共有されていない問題だった。
マーケティングの問題だと思っていたものが、実は誰に何を届ける会社なのかが曖昧なまま走っていた問題だった。
こうしたことは、経営の現場では珍しくありません。
そのとき、フレームワークは役に立ちます。
ただし、正しく使えば、です。
正しく使うとは、フレームワークに答えを求めることではありません。
フレームワークを使って、現実を見直すことです。
地図を持っているからといって、目的地に着けるわけではありません。
地図は、今どこにいるのか、どの方向に進めばよいのかを考えるための道具です。
しかし、実際の道には、工事中の場所もあります。思ったより急な坂道もあります。地図には載っていない細い道もあります。場合によっては、そもそも目的地を変えた方がよいこともあります。
経営も同じです。
フレームワークは地図です。
現実そのものではありません。
現実の経営には、社員の感情があります。取引先との歴史があります。地域との関係があります。社長自身の迷いや覚悟があります。数字には表れない空気があります。
そうしたものを無視して、フレームワークだけで経営を語ろうとすると、どこか薄っぺらい分析になってしまいます。
では、フレームワークは不要なのでしょうか。
もちろん、そうではありません。
むしろ、経営者こそフレームワークを知っておくべきです。
ただし、それは「正解を出すため」ではありません。
自分の考え方の癖に気づくためです。
経営者は、日々多くの判断をしています。
だからこそ、どうしても自分の経験や勘に頼る場面が増えます。それ自体は悪いことではありません。経験や勘は、経営者にとって重要な資産です。
しかし、その経験や勘が、いつの間にか視野を狭めていることもあります。
売上ばかり見ていて、利益構造を見落としている。
新規顧客ばかり追いかけて、既存顧客との関係を軽視している。
競合ばかり気にして、自社が本当に提供すべき価値を見失っている。
社員の能力不足だと思っていたら、実は仕事の設計が悪かった。
こうした盲点に気づくために、フレームワークは役に立ちます。
つまり、フレームワークとは、経営者の視点を広げるための道具です。
そして同時に、経営者の視点を深めるための道具でもあります。
大切なのは、フレームワークを「知っている」ことではありません。
使えることです。
さらに言えば、使ったうえで、必要に応じて疑えることです。
このフレームワークでは見えないものは何か。
この整理の仕方は、自社の現実に合っているのか。
この枠組みに当てはめることで、逆に切り捨ててしまっている大事なものはないか。
そこまで考えて初めて、フレームワークは経営の道具になります。
私は、経営を「経」と「営」に分けて考えることがあります。
「経」とは、変わらない軸です。
会社が何を大切にするのか。誰のために存在するのか。どのような価値を世の中に届けるのか。
一方、「営」とは、変化に対応する営みです。
市場の変化にどう向き合うのか。商品やサービスをどう磨くのか。人や組織をどう動かすのか。日々の数字をどう管理するのか。
フレームワークの多くは、この「営」を整理するためには非常に役立ちます。
しかし、「経」が曖昧なままフレームワークを使っても、会社の向かう方向は定まりません。
どれだけ立派な分析をしても、そもそも何のためにその事業を行うのかが見えていなければ、意思決定はぶれてしまいます。
だからこそ、フレームワークを使う前に、あるいは使いながら、常に問い直す必要があります。
わが社は、何を大切にする会社なのか。
誰に、どのような価値を届けたいのか。
今、何を残し、何を変えるべきなのか。
この問いがなければ、フレームワークは単なる知識で終わります。
逆に、この問いを持って使えば、フレームワークは経営者にとって強力な思考の補助線になります。
今回からのシリーズでは、代表的な経営フレームワークを取り上げながら、単なる解説ではなく、「経営の現場でどう使うか」「どこに落とし穴があるか」「何を問い直すべきか」という視点で考えていきます。
SWOT分析、3C分析、5フォース分析、BCGマトリックス、バリューチェーン分析、PEST分析、KPI、バランスト・スコアカードなどを順に扱っていく予定です。
ただし、目的はフレームワークを覚えることではありません。
経営を見る目を養うことです。
フレームワークは、答えではありません。
問いを立てるための道具です。
そして、経営者にとって本当に必要なのは、フレームワークそのものではなく、その先にある「視点」です。
次回は、最も有名なフレームワークの一つであるSWOT分析を取り上げます。
SWOT分析は「強み探し」の道具だと思われがちですが、実はそこに大きな落とし穴があります。
「強み」とは、自分たちが得意だと思っていることではありません。
お客様や市場との関係の中で、初めて意味を持つものです。
次回は、そのあたりを掘り下げていきます。


