ノートパソコンの液晶パネルの開け閉めが固い!ヒンジの部分が壊れた!その原因と対処法

古賀竜一

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テーマ:機器と端末の管理と保守

液晶パネルの開け閉めが固い、重い!

●ノートパソコンの液晶パネルを開く際に異様に固かったり、開閉がスムーズにできないで困っているという相談がよく寄せられます。

●診断してみると、ヒンジ部分が固くなっていたり、すでにヒンジ部分が焼き付いていて固着し開閉不能になっている場合もあります。中にはヒンジが完全に固着しているのに無理に開け閉めしてしまい、ヒンジ部分を止めている本体のマウント部分や樹脂外装もろとも損壊していて、残った樹脂部分でようやく止まった状態になってることもあります。

●今回はそのような液晶パネルの開閉ヒンジトラブルについて原因とその対策をお伝えします。


液晶パネルのヒンジに起きる現象とは

●液晶パネルのヒンジには金属の部品が使われています。何種類かの金属を組み合わせてありますが多くはステンレス製です。これは錆の問題や強度の問題を考えると理に適った設計です。

●しかし、ステンレスには長所も多いですが短所もあります。ステンレス(SUS304など)は他の金属に比べて非常に強い強度と硬くて粘り(靭性)があります。用途によってはそこが長所になりますが、ボルトナットなどのように組で使う場合は締め方によって「焼付き」または「かじり」というステンレス特有の現象が発生します。

●どういうことかというと、ステンレスの部材同士に強い圧力で摩擦を加えると、接合部分に摩擦熱が生じてステンレスの「粘り」によって溶着したような状態になることがあります。そうなると部材同士が溶接でもしたかように固着し、外そうとしても互いに外れなくなってしまうのです。

●これを「焼付き」や「かじり」と言ったりします。ステンのボルトナットを使用している職業の現場の方々には良く知られている現象です。どんなに力自慢の親方でもステンレスボルトが焼付くと絶対に外すことができません。無理に外そうとすればスパナなどの工具のほうが負けて変形してしまいます。

●その現象が、ステンレスを組み合わせて使用しているノートパソコンのヒンジにも起きて、液晶パネルの開閉トラブルの原因になってしまっているのです。

●その現象は具体的にどういうメカニズムで起きるのでしょうか?


※ノートパソコンのヒンジ部分

ステンレスヒンジの焼付きの原因

●液晶画面のヒンジは主にステンレス製ですが、他の金属製のワッシャなどを挟み込んでどの位置でも液晶パネルが開いたままにできるように一定の圧力で鉸(かし)めてあります。鉸めが弱すぎる場合、ブラブラになって液晶パネルを定位置で留めることができません。開閉と位置の保持にちょうどいい程度の強さで鉸めてあります。

●ヒンジにはこのようにあらかじめ鉸めた圧力がかかっているために、開閉の際に金属同士に摩擦が生じます。特にパソコンの画面を開け閉めする際に勢いが良すぎると、ヒンジ部分の摩擦力も大きくなり熱が発生します。ヒンジにはあらかじめ潤滑剤が塗ってありますが、経年劣化で潤滑剤が不足したり変質していると、次第にその機能を失っていき潤滑不良を起こし始めます。

●日に何度も開け閉めを頻繁に行うような使い方をしている場合は、当然その分劣化速度も加速します。そして、潤滑不良から金属同士の摩耗が進み、剥離した金属片が噛み込むなどします。この時点で開閉が重くなったり、固着が始まります。そのまま無理に使い続けるとさらに状況を悪化させてついに焼き付きを起こし、開閉不能に陥ります。

●以上のことから、ヒンジ故障の原因の一つは「勢い付けすぎる開閉動作」、2つ目は「ヒンジ部分の潤滑不足」ということが挙げられます。


※ヒンジには液晶パネルが開いたままにできる程度の摩擦が確保できるように調整されている

比較的多い機種依存的な原因

●これまでのサポート事例では、ヒンジに問題が出やすい機種というのが確かにあります。そのような機種はネット上にトラブル事例として情報も多く、症状が出る可能性が高くなりますので早めの対処が必要です。

●中には、ヒンジというよりもマウント部の設計が悪く、本体側の破損につながっているものも見受けられます。

●マウント部位が明らかに貧弱で開閉の応力を受け止めきれずに、本体側のマウント部位に無理な力が加わっているような設計となっている場合があります。これは、いわゆる設計ミスといえます。メーカーといえども人間がやることですから日本メーカーが優秀とはいっても完璧ではないという証左です。


※マウント部分が小さいので受け止めた力を分散しにくく応力が一部分に集中して本体の樹脂部分が破損する

●以前のビジネスモデルパソコンでは、強固なマウント方法でがっちりと開閉の力を受け止めるような設計になっています。


※ビジネスモデルのPCの液晶マウント。ビジネスモデルだけあって強固で剛健なアームのようなマウント金具を採用。


※開閉の力をマウント金具全体で受け止める構造になっている

焼付いたヒンジへの対処法

●前述したように一旦焼き付いたステンレス部品は二度と復旧できないので、そのヒンジに給油をしても絶対に回復することはありません。私もペンチなどで動かそうとしたことが何例もありますがびくともしません。ヒンジの金具のほうが曲がってしまいます。よく、CRC556などの浸透潤滑剤でどうにかならないかという相談もありますが、無理です。その理由は後述しますが、金属同士の焼き付きは溶接に匹敵しますから潤滑剤でも改善しません。

●というわけで、ヒンジが固着した場合は残念ながら対処法がないといっても良いでしょう。基本的にはヒンジの交換となります。

●ところが、ヒンジの交換で済むのかというと、そうはいかないパターンもあります。これまでのサポート事例では、固いヒンジを無理に開閉して使っていたユーザーがほとんどで、すでに本体側のマウント部分や樹脂ケースが破損して壊滅している場合が多いのです。単純にヒンジだけ交換するというわけにいかなくなってしまっていることがあります。

●その場合は、古い型式のノートパソコンなら全損扱いとなってしまうことがあります。

ヒンジを焼付かせないための使い方とは

●以上のように焼付きの原因が分かったところで、ヒンジを固着させないための日ごろの使い方や手入れなどの対策法は以下の通りです。

1.液晶パネルを勢いよく開閉しない。
2.定期的にヒンジに給油をする

●ここで注意点としてヒンジへの給油の際に気を付けなければいけないことがあります。給油する油脂として通常の機械油や潤滑剤ではヒンジの焼付き防止にならないという特殊な事情があります。ステンレス同士の摩擦で起きる摩擦熱はとても大きいため普通の油脂では摩擦面で蒸散してしまい潤滑剤として機能しないのです。

●ステンレスの焼付き現象は通常の潤滑油では回避できないということなのです。それだけステンレス同士の摩擦熱は激しいということなのでしょう。ですから症状が出始めたからと言ってヒンジにただ単にそこらの潤滑剤を差しても改善しません。また予防にもなりません。

唯一、対応できるのは「二硫化モリブデン」入りのグリスや潤滑剤などです。二硫化モリブデンは鉱物です。結晶構造が特殊でベアリングのような役割をするため摩擦を少なくすることができます。ホームセンターなどの油脂類のコーナーやカー用品売り場などで入手が可能ですが、多少高価です。しかし、修理代に比べれば安いものです。


※二硫化モリブデン入りスプレーグリス


ヒンジが焼き付いたパソコンの延命措置法

●ヒンジが焼付いてしかも本体にダメージが出ているパソコンは修理する以外にはあきらめるしかないのでしょうか? 解決する方法として推奨は、ノートパソコンの液晶画面そのものを本体から取り払って、デスクトップ用の液晶モニタに接続して使うという方法があります。

●普段から持ち運びをしないユーザーなら据え置きの状態でもかまわないと思いますので、これなら今まで通りパソコンとして使うことができます。これにはメリットもあります。デスクトップ用のディスプレーなら画面サイズも大きいので、目にも優しく作業効率も上がると思います。

●液晶パネルの取り外しは配線などの問題がありますので、心得のない方には難題だと思います。できるだけ専門家や専門のショップへ依頼しましょう。


かっこいいと思っているその行為で後から泣きを見る

●液晶のヒンジが重たくなってくる前に定期的に二硫化モリブデン入りの油脂を給油して対処を行いましょう。自分で分解などしたことがなくヒンジ部分にたどり着けないという場合は専門家に依頼しましょう。

●また、ノートパソコンの取り扱いにも留意しましょう。液晶パネルをバタンと閉じたり、グイっと勢いよく開いたりしないようにしましょう。そのようなしぐさがかっこいいと思ってスタバなどでいつもやっているとしたら、そのうちバキッ!とヒンジがおしまいになってみんなの前でとんだ恥をさらすことになりますよ。

以前のコラムで機器の正しい使い方を紹介しています。是非参考にしてください。

機械がすぐに壊れてしまう、機械が言うことを聞かない原因と意外な事実
https://mbp-japan.com/saga/pc-pro/column/4011019/

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ITのユーザーサポートの現場で実際に問題を解決しながら、ITの最新の状況とその問題点を追及している専門家です。多様で複雑になってきたITのことをユーザーにわかりやすく丁寧にお伝えします。

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