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新谷千里

高利益を出すスーパーマーケットにするコンサルタント

新谷千里(しんがいちさと) / 経営コンサルタント

有限会社サミットリテイリングセンター

コラム

原材料、コスト高騰時代の鍵は「生産性向上」にあり  デリカテッセン・トレードショー2023惣菜デリ最前線【原稿】

2023年2月16日

テーマ:スーパーマーケットの経営戦略

コラムカテゴリ:ビジネス

テッセントレードショー2023
惣菜部門の生産性を考える上で一番重要なことは、「美味しくて安全であり、安心して食べることのできる」商品を提供し続けることだ。言うまでもなく、お客様目線の考え方と行動が重要である。
これが実現できないと、惣菜部門として中長期的な生産性のアップには繋がらない。
そして、お客様はその価値に対してお金を払う。これをマーケティング的な側面で考えて、商品開発や売場づくりを考えることが求められる。

その上に立って、効率よく商品を提供できる仕組みを構築することが、生産性アップの第一歩であると考える。

そして、売上や粗利益だけではなく、コストも踏まえた「部門の営業利益を高める」ことを最終目標とすることが重要である。そのためには、管理会計として部門別・損益計算書を作成して活用し、営業利益を高めていく戦略を取ることが重要だ。

これまでも、原材料の高騰や各種コストの高騰があったが、さらなる値上げも取り出たされていて、惣菜部門にとっては非常に厳しい年を迎えていることになる。
今まで、生産性のことをあまり勉強してない企業は、生産性を向上させるために、マーケティングやマーケティング、オペレーションなど、業務改善の取組みを実施する必要があると考える。

ただ、野菜などは、1年中相場は上がったり下がったりする。そのサイクルはこれからも起こるし、その中で売価を設定して、品目を設定して品揃えと商品化を考えていく。これを当たり前のこととしてやっている。
そういう意味では、惣菜部門も例外ではないし、今回起こっていることに慣れて、対応力を付けていくことが、今後の生産性向上を考える上で重要な経験となる。

コンセプトの実現と生産性向上のトレードオンの追求

「美味しくて、安心して食べることが出来るもの」を提供し続けることが、生産性向上の第一歩である。
また、「効率を優先すると商品やサービスの品質が低下する」という、いわゆるトレードオフの考え方を主張する人がいるが、これは全くの間違いであり、勉強不足だ。

今後、生産性向上を考える上で、美味しさと生産効率を同時に実現していくトレードオンの考え方と実行力が重要なポイントとなる。これが、真の生産性向上を実現していくことになる。

生産性は、営業利益を高めていく行為だが、粗利益を拡大するためのマーケティングの視点と、生産効率を高めるためのオペレーションの視点を持つことが重要だ。

❶マーケティングの視点
マーケティングの上では、各カテゴリーのベーシックアイテムにおいても、自社独自の「らしさ」を追求しつつ、他社との差別化をはかる努力をすることが重要である。
鶏の唐揚げやポテトサラダなどの重点アイテムや新規の商品開発など、独自性を発揮した商品の開発。また、原材料や製造方法のこだわり、製造ストーリーや安全性や健康への考え方などなど、その価値をお客が解るように伝えることが重要なポイントになる。
その意味では、POPや安全を確保した試食販売など、プロモーションのやり方の工夫も必要になる。

また、「これくらいの価格でないと売れない」「こんなに高かったら誰も買ってくれない」と言う様な考えも、マーケティングの勉強不足だ。
この思い込みが、値上げ(売価設定)対策の一番の敵だ。
「限界は、担当者(バイヤー)の頭の中に有る」のであって、完全な思い込みだ。
このことについては、商品の持つ価値を確実に伝えるためのコピーライティングの力やその他実践的マーケティングの知識習得と実践することによる経験が求められる。

そして、新商品開発とそのスピードは、値上げと生産性向上には言うまでもなく重要な対策ということになる。

➋オペレーションの視点
一方、オペレーションについては、言うまでもなく、数量管理の技術を上げることが、最も重要な取り組みとなる。
数量管理技術の向上は、ムダな在庫を減らし、ムダな作業や工数を減らすことになる。
数量管理のレベルが低いと、作り過ぎや出し過ぎによって、見切や廃棄の作業を増やしてしまう。また同時に、欠品(チャンスロス)を多くすることにもなる。
そして、これらを日々やり続けることになるのであるから、そのスキルの差は、相当な粗利益とコストの差となってくる。

そして、バックルームのレイアウトが重要になる。
惣菜のバックルームは、弁当や揚げ物、惣菜などの製造ラインがあり、複雑な作業工程と、フライヤーやスチーム・コンベクションや冷蔵庫などの設備が多く存在する。
作業効率を考える上で、作業動線を短く、作業をスムーズに流すことを考慮した配置計画が必要となる。
このことによって、日々の作業工数(移動距離)と必要人時を減らすことも十分に可能になる。

また、設備の上で重要だと考えるのが、フライヤーの食用油の浄化機能を持った吸い上げ機だ。油の入れ替えやフライヤーの清掃作業の負担を軽減できる。
そして、食用油の劣化を低減できるため、その使用料を減らすことも可能で、FLコスト(製造原価)を確実に落とすことが出来る。一石二鳥で投資対効果は高いと言える。

また、作業の段取り決めが重要である。
開店前の投入人時には限界がある、また、開店時の売場の品揃えの充実度が売上に大きく関わることは承知の通りだ。
これらのことを勘案して、フライヤーで揚げる冷凍品やスチールコンベクションで調理する商品の仕掛り品などの準備を、前日に終わらせることや、早朝に加熱調理機器を温めておくなどの段取りでアイドリングの時間を減らし、開店時の品揃えの幅と量を拡大できる。
前工程を仕組み化するかは、生産性に大きく関わることとなる。

また、曜日別・時間帯別の作業指示書(加工、陳列など)が、「必要なものを、必要な時に、必要なだけ投入(陳列)する」という、ジャストインタイムの重要なツールとなる。
当然、売れ筋商品を中心に、開店からスタートダッシュで売込み、閉店までにいかに販売量を伸ばすかという観点が重要なこととなるし、それによって戦略商品の販売量を伸ばし、売上と粗利益を確実に拡大できる。

限界は、あなたの頭の中にある!

生産性を考える上から、参考のために私のクライアントの事例を紹介する。
地域やターゲット、売場の作り方やオペレーションの違いはあるが、「美味しい物、安全なもの、綺麗な盛付け」などのコンセプトの部分は大きく変わらない。

❶価値追求型で、粗利益率54%、低い人時売上高、高い営業利益

地方のスーパーマーケットである。
地域の特産品や生産者の採りたて野菜などを利用して、安全で美味しい商品を提供している。試食をしてみても、どれも美味しく、商品化技術が高く綺麗であることが確認できる。
オペレーション面での特徴的なことは、煮物やサラダなど手間の掛かる冷蔵商品を中心に、自社工場で生産をしていて、作り立てを提供する弁当や揚げたての天ぷらやコロッケなどは、インストア加工を行っている。
惣菜部門トータルでは、約54%という高い粗利益を実現している。
人時売上高としては決して高くはないが、高い粗利益率の実現によって、部門別損益では、高い営業利益率を実現している。

コンサルティングの主なものは、数量管理ができてない部分があったので、POSデータを情報化して活用して改善を行い、値引きロスや欠品を低減して、粗利益が確実に向上して高位に安定した。
今後は、店舗内外の生産ラインやオペレーションの改善を行い、有効人時を生み出し、付加価値業務の遂行時間を増やすことによって、さらなる差別化政略の遂行と生産性向上を実現できるものと考えている

➋人時売上高20,000円、小型店パート社員で運営13,500、粗利益率37%

都市部のスーパーマーケットである。
地代家賃が高いこともあって、バックルームの面積は非常に狭い。一般的なバックルームを知っている人は、びっくりすると思う。
特徴的なことは、自社、また協力企業の工場を利用して、仕様書発注で生産してもらい、人時効率を高めている。大まかに言うと、煮物やサラダなどの要冷蔵商品は、ほぼアウトバックと言っていい。その分店内の作業工数を減らし、揚げ物やお弁当などは店内加工にこだわり、出来立てを提供している。
商品化や陳列には非常なこだわりがあり、一見すると過剰に人時を投入して生産効率が低いようにも思えるが、決してそうではない。
作業指示を徹底し、科学的な作業工程を組んでいる。結果的に無駄な作業が少なく、生産性を高めている。
売上規模の高い店舗では、人時売上高2万円。小型店のパート社員だけで運営している店でも1万3000円から1万3500円程度の人時売上高を実現している。
アウトパックが多いということで、粗利益が低いと思う方もいると思うが、37~38%程度の粗利益率がある。
一般的な惣菜部門から見ると、この人時売上高は異常だと感じる人もいるかもしれない。

ここでのコンサルティングの主なものは、バックルームレイアウト変更、作業導線の改善、
マテハン、単品(数量)管理、科学的・作業指示書と作業段取り改善、重点商品管理などだ。

重要なことは、コンセプト実現のために、徹底して単純作業の作業工数と投入人時を削減して、付加価値業務への投入人時を増やせるようにすることだ。

生産性向上の要は、『数量管理の教育』を戦略的に行うこと!

惣菜や寿司、刺身などの売場は、朝売場在庫ゼロの状態から商品を作って、最終売り切る。その他の生鮮売場とは少し違う。
当然開店時からピーク時間帯、そして閉店までに至る生産計画は、生産性を左右する非常に重要なものとなる。
言うまでもなく単品ごとの数量管理の技術が、非常に重要になると言える。

また、それを時間軸で追っていくわけであるから、生産計画が重要であることは言うまでもない。

特に、私が業務改善の現場で多く目にするのは、「単品管理が科学的に行われていない」ということだ。これでは、生産効率も生産性も上がるはずがない。
要するに、経験と感に頼っている現場が多く、見切り作業などにしても、時間帯のやり方やカテゴリー別の取り組みが決まっていても、実際それは科学的ではないし、それを検証もしてない場合も少なくない。

惣菜の生産と販売の現場では、ジャストインタイムが重要になってくる。
そして、計画を立てても計画通り進まないのが現場である。
売場展開や製造量、見切のタイミングなど、現場の修正力(コントロール)が重要であり、そのことの出来不出来が、日々の荒利益と生産性を大きく変えてしまうことになる。

作過ぎ出し過ぎは、当然のこととして、売れ残り在庫を多くして、見切りや廃棄の作業工数を増やしてしまうことになる。
これが、生産性を大きく下げる原因でもある。
また、数量管理ができてないということは、チャンスロス(欠品)が多くなる。そもそも欠品は、売上も粗利益も産まないのであるから生産性は上がるはずがない。

数量管理を仕組みとして作り上げていくことが、生産性を大きく上げる原動力になる。
当然のこととして、既存店においては、販売の実績数値があるわけであるから、POSデータを活用して「情報化」し、「見える化」して活用することが一番の早道である。
そして、その帳票確認と併せて売場確認を行い、次にどうするかを考えていく。

また、現場の担当者に限らず、店長やバイヤーが一緒になって、情報化(見える化)された帳票を共有し、さらに現場で課題を共有して、日々の改善を行っていく活動が短期で改善効果を高めることになる。

このように述べると、非常に複雑で時間の掛かるような取組みに思えるかもしれないが、実際は決してそうではない。
私のコンサルティングの現場の事例で言うと、パート社員のチームでも、1~2週間程度もあれば、欠品や値引き廃棄のロスは大幅に削減される。
ロスが半分以下になることも決して珍しくないし、粗利益も売上もアップする。

特にこの売上の伸びない時代においては、ムダの存在は生産性を落とす大きな元となる。
ムダな在庫や、ムダな作業、ムダな人時投入、また、計画の甘さなど、できるだけ早く現場から取り除く必要がある。

実現は、決して難しいことではない。
私が関わった全てのお店にも、「教えてあげれば出来る」という人は多くいる。
その人たちに、生産性を上げるための『仕事の仕方』を教えてあげれば生産性は確実に向上する。仕事も、楽に簡単に早くできるようになる。

労働集約型のスーパーマーケットは、ここに大きなチャンスが隠れている。現場は、宝の山なのだ。

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