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ハンコ文化の見直しは必要か??

2020年6月12日 公開 / 2020年10月21日更新

テーマ:企業法務

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 法人登記企業法務司法書士 相談

ハンコ文化の見直しは必要か

 コロナウイルスの影響で在宅ワークを行う企業が増え「ハンコが必要だから出勤する」という声も耳にします。このような話を聞くと、ハンコ文化はなくしてしまえば良いのではと考えてしまいますのですが、本当にそれでよいのでしょうか。

 確かに、事務作業でありがちな、文書をプリントして、ハンコを押して、スキャンして、メールでお客さんに送るという作業は、ハンコに形式的な意味しかないのなら無駄といえます。

 上記の声が、社内だけの慣習や形式的な上司の確認印のために出勤するのであれば、ハンコにどれだけの意味があるのかという声にはうなずけますね。一方で、上記の声が、取引先との契約書への捺印のために、ハンコが必要だとすると、無くせばいいと簡単には言い切れない部分があります。

ハンコのある書類は強力

 先日「なぜハンコに執着?」という見出しの某新聞記事がありましたが、これは、我々司法書士にも向けられている言葉だと、私は感じました。しかし、法律的な意味に触れていない新聞記事やニュースが多いのも実際のところです。

 私は、司法書士の仕事は紛争を未然に防ぐこと「予防法務」が本質だと考えています。
作成した書類の真実性を担保するために、ハンコを押してくださいと伝えるわけですが、それには理由があり、ハンコを押すことで無用なトラブルを回避できると考えているからです。

 次のとおり、ハンコには良くも悪くも法律や判例で、絶大な力が与えられています。
①「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」(民事訴訟法第228条第4項)
②「私文書に作成名義人の印影が当該名義人の印象によって顕出された場合には、反証のない限り、当該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定する。」(最判昭39.5.12)

 文書がワープロ記名でもハンコがあれば、真正な文書だと推定され、それが本人の印影なら、本人の意思まで推定するというのですから、絶大です。

 我々、司法書士としては、この力を使い、なるべく無用な紛争を予防、紛争が起きても書類だけで解決できるべく、予防法務に役立てているわけです。

 なお、これはあくまでハンコがある文書に推定を認めただけであって、それ以外のハンコがない文書の効力を否定しているわけではありません。

ハンコは電子署名で代えられる

 しかしながら、世界的に見てもハンコ文化は遅れているという感覚は否めません。
 ハンコでなくとも電子署名のある電磁的記録で作成された文書にも、真正に成立したものと推定する旨の法律(電子署名及び認証業務に関する法律第3条)がありますので、パソコンで作成した文書に「電子署名」を入れることができれば、予防法務の観点からも契約として有効ですし、要件を満たせば登記書類としても、ハンコがなくとも代替できます。

 私見ですが、普及しない原因は次のような理由があると考えられます。
  ①セキュリティ面のリスク管理が負担である。
  ②電子署名を利用できても、相手も利用していないと契約などが成立しない。
  ③個人レベルでは、利用環境が必要で利用できない人もいる。
  ④電子署名の利用には月額利用料等の維持費がかかる(個人の実印に代わる電子署名は当面は無料)
  ⑤結局ハンコの方が楽である。

 今回、コロナウイルスの影響で『⑤のハンコが楽ではない』という事態に直面したわけですが、個人的には、①と④の問題が解決すれば、電子署名はあっという間に普及するのではないかと考えています。そうすれば、おのずと②も解決するでしょう。

 ④の維持費の問題は大きいですが、携帯電話が普及した時と同じように、便利なものであれば、技術の革新とともに『便利さには常にコストが必要である』という意識醸成がされるのではないでしょうか。

 日本のハンコという文化的な側面は大事ですが、世界的な競争力を維持していくには、最先端の環境を利用していかなければなりません。コロナウイルスを契機に、我々もクライアントの方には、あらゆる方面から的確な新サービスを提案していかねばならないと考えさせられる今日この頃です。

【司法書士 山 添 健 志】
山添健志
プロフィール

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この記事を書いたプロ

佐井惠子

家族の問題(成年後見、相続、信託)の専門家

佐井惠子(佐井司法書士法人)

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