食博の歩き方
関西圏よりも厳しい耐風基準
この災害が起きてひと月近くになります。初めは、関西の人に比べ、「関東の人は台風に対する警戒心が薄かったんだな」程度にしか考えていませんでしたが、事情が分かって来るにつけ、考えが変わって来ました。
まず、あれだけの高さの鉄塔でありながら、ネットを固定式にするのは考えられません。電動式の昇降機を設けるのが当たり前です。仮に固定式にするならば、その風圧に耐えらる構造にしないといけません。
建築基準法では、風の強い地域や風の影響を受け難い地域を市町村別に定めて、構造物の耐風強度を検証する事が義務付けされています。それを基準風速と云います。
関西圏の6~7割の地域は34m/s(風速34m)で、その他の殆どが32m/s(風速32m)です。伊勢湾台風や第二室戸台風と云った超大型の台風が襲った経験のある地域でも、基準風速は32~34mなのです。では事故のあった市原市の基準風速はと云いますと、なんと38m/s(風速38m)なのです。
つまり、国交省は千葉には、台風が頻繁に襲う関西圏よりも強風が吹く地域がある事を事前に予想していたのです。
にもかかわらず、ネットを固定式にしていたのです。
建築士からすれば考えられない固定式ネット
倒壊した鉄塔を観察していますと、鉄塔と鉄塔を結ぶ耐風梁と呼ばれる横架材が入っています。写真からですので、誤差はあるかと思いますが、周囲の道路や建物から推測して10mおき位に耐風梁が入っている様に思います。4段ある様に見て取れますので、高さ40m程の鉄塔です。柱の間隔は6~7mと云った処でしょう。
と云う事は、高さ35m付近の鉄塔は、60~70㎡のネットが受ける風圧に耐える構造でなければなりません。どの程度の風圧になるかですが風を通さない帆船の帆の様なものでしたら大雑把に見積もっても、1㎡当たり100kg程度の圧力を受けるはずです。と云う事は、35m付近の鉄塔は6~7tonの力を受ける事になります。但し、ネットは風を通しますので、7割の風がネットに影響なくすり抜けたとしますと、0.8~1.0tonの力を受ける事になります。同様に25m付近でも15m付近でも同じ力を受けていますので、2.4~3tonの力が、引き抜き力として基礎に加わるハズです。
殆ど無いに等しい基礎
それで、どの様な基礎だったのかと写真を見て愕然としました。あまりにも小さいのです。写真を見る限り多く見積もっても1mx1mx0.5m程度しかありません。この基礎の重量は1.2tonもありません。2.4~3tonの力で引き抜かれているのに1.2tonでしか抵抗出来ないのです。これは倒壊して当然です。
耐風検討は本来はもっと複雑な計算を持って行われますので、結果は私の大雑把な試算とは異なる結果となると思いますが、建築士が一目見て「この基礎はおかしい」と思える小ささである事は否めません。
経営者や保険会社の対応ばかり報道されていますが、この防球ネットを工事した建設会社の見解を聞いてみたいものです。