食博の歩き方
Yahooニュースより
世界の居住地問題に取り組む国連のプログラム「国連人間居住計画(UN-Habitat)」はこのほど、「持続可能な水上浮遊都市」構想についての会合を実施した。投資家や科学者、そしてビデオ会議システムで繋がったケニアの学生たちが、住居から商業、教育、娯楽まで、施設が整った水上都市の可能性について話し合った。
数十年ぶりに話題になる海上都市構想
「今後、世界的な人口爆発により平地の面積が極端に狭まり、人々は海上に居住空間を求める様になるだろう。」これは何も新しい話題ではありません。
世界的に見れば、実際に海上に住んでいる人々もいます。これらが話題になるのは、普通に陸地で住んでいる人々が、平らな面である海に着眼して、何とか陸地の様な、感覚で住む事が出来ないだろうかと云う発想から生まれて来るものです。
私の知る限りですが、構想として海に都市を設計する事を考えたのは、1960年の丹下健三が提案した東京計画でしょう。
しかし、揺れ動く海上に安定的な土地を構築するのはナマ優しい問題ではありません。海上都市は、水面に浮かせるか、海底から支柱を伸ばすかで、構造が異なります。水面に浮かせれば、船酔い対策や係留方法等船と同じ様な問題点が懸念されます。逆に海底に固定させれば、動く水にどう抵抗するのかが大きな問題として立ちはだかります。
海上に住む事を常としている人々なら、気にも留めない問題を、陸地に住む人が海上に住む事を考えると大きな問題となって現れるのです。
アクアポリスの教訓
日本は昭和50年に、沖縄海洋博覧会で、海に浮かぶ海上都市「アクアポリス」を建造しています。博覧会の目玉商品で、規模は100m四方の浮沈式の構造で、海が穏やかな時は、構造物の大半が海面に露出し、荒天時は大半を海中に沈めて、構造体の安定を図る機構になっていました。都市機能としてはアクアポリス自体で、完結出来る様になっており、どこに移動しても都市機能を維持できる、海上都市と言って良い施設でした。
しかし、居住スペースはと云うと、構造体全体の10%程度しかなく、その他はアクアポリスを維持する為に必要な、殆ど機械と言って良い代物でした。つまり、国家が国策として造らない限り、民間ベースでは採算の取れない、また建造したとしても、どう維持管理するのか、存在するだけで莫大な費用が掛かってしまう装置なのです。
採算の取れない程、構造の安定性を念頭に置いたアクアポリスですが、あくまでも船の延長線上にある構造物の為、最後まで、揺れに関する問題は解決出来ませんでした。
私も海洋博に赴き、実際にアクアポリスに入りましたが、常にエレベーターに乗っている様な、陸地とは異なる違和感を覚えています。
アクアポリスの顛末は、海洋博終了後、国から県に払い下げられ、県から第三セクターに譲渡され、第三セクターから民間業社へ譲られ、最後はスクラップになっています。
海上都市を実現させるには
海上都市を実現させるには、都市設計とか技術の集合だけでなく、船酔いを克服するための医学の進歩や、海上に住まう文化の構築等々、人としての総合的な知恵の結集が不可欠でしょう。
長い航海を終えた人が常に思うのは、揺れない地面の有難さです。地面が揺れない事に違和感を覚えるほど、海上文化を構築しないと、海上都市は成功しないと云う事です。