作業服を着た営業マン
設計事務所ってよくわからない
先日、コラム読者の方から、お電話を頂きました。私が専門的立場からコラムにしている内容にご興味を持たれての問合せでした。
しかし、中々内容が噛み合いません。そして、工事費用の事ばかりを気にされている様子です。「お宅なら幾らで工事して頂けるのですか?」と云う質問を繰り返し尋ねて来られます。そう言う時は、「平均的な技量の工務店が仕事を請け負えばこの程度の価格帯でして頂けるのではないですか?」とお答えするのですが、また「それではお宅なら幾らになりますか?」と同じ質問を繰り返されます。
設計事務所は基本的に工事に参加しません。建築主様の要望を伺って、設計図にして、設計図書通りに出来上がっているか、工事を監理するのが仕事です。
この監理と云う内容の仕事が、一般の方には良く分からない仕事なのでしょう。
オーケストラで云えば作曲家です。
設計事務所の仕事は、オーケストラに例えれば、作曲家の立場です。何もないところから、クライアントの要望を受けて楽譜を書くのが仕事です。しかし楽譜だけでは音楽は完成しません。指揮者がいて演奏者がいないと曲は完成しません。指揮者は建築工事で例えると工務店さん、又は工務店の現場監督さんです。演奏者は各工事の職人さんです。それらの方がいて初めて曲が完成するのです。
目に見えるのは指揮者さんや演奏者さんです。作曲家が舞台に現れて、「これが私の作曲した作品だ。」と自慢げに演奏をじっと見てるなんて場面に出くわした事がありません。作曲者さんは一般の方からは見えない日陰の存在です。
しかし作曲者がいなければ、音楽そのものが成り立ちません。名指揮者や名演奏家の力も当然借りないと名曲にはならないのですが、そもそも楽譜が無いと曲は始まりません。
作曲家が指揮者を兼ねる場合や、指揮者が作曲する場合もありますが、それぞれの専門に特化した人が、その専門分野に集中する方が、良い物が出来ます。
朝から晩まで現場で働いている現場監督さんに、夜仕事から帰ってから、設計の仕事をしろと云っても、設計専門の人が一日中やってる設計業務に叶うはずがありません。昼間一日図面を描いている建築士に、日曜日現場に出て監督しろと云っても、専門の監督さんに叶うはずもありません。
それぞれ、専門に特化する方が良い物ができるのです。
お客様の要望をカタチにしてプロデュースするのが設計事務所
しかし、日陰の目に見えないところにいる設計事務所が、実は家造りの成否を分ける大切な存在なのです。工事をする人は、設計図の内容を忠実に目に見えるカタチにして行くのが仕事です。逆に云えば、この目に見える仕事をしている人達は、設計図を信用してカタチにしているのです。設計図が建築主様の意図を何も反映していない、独りよがりの設計図なら、幾ら良い工事をしても、建築主様が喜ぶはずがありません。
設計事務所は、お客様から要望を十分にくみ取り、その条件に合う土地探しから、プランの作成、許認可申請、工事業者の選定、工事の監理まで全般に渡り工事を統括するプロデューサーが設計事務所なのです。工事現場や一般の方から見れば、実体の見えない設計事務所ですが、見えないところで工事をコントロールしています。