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福味健治

建築主の思いを形にする注文住宅の専門家

福味健治(ふくみけんじ) / 一級建築士

岡田一級建築士事務所

コラム

時間旅行

2012年8月13日

テーマ:【カフェテラス】

コラムカテゴリ:住宅・建物

ゴールデンウィークとかお盆になると、日本人は大移動を繰り返します。かつては帰省目的の移動でしたが、ふるさとが無い都会生まれの人も移動します。旅行です。まとまった休みですので、海外に出掛ける人も大勢います。何が目的なのでしょうか?

お金を掛けて、長い距離を移動して、見知らぬものを見て、見知らぬ人と出会い、見知らぬものを食べます。これらの楽しみを一言で表すなら見聞を広めると云う事でしょうか。
過程では楽しくない事もあるかと思いますが、終わってみると楽しい思い出となって人々の心にいつまでも残ります。
記憶に残す為の行為を、旅行と形容すると距離の移動に留まらず、一定の場所に留まって時間を旅行するのも旅行の一つです。住宅を時間旅行する為のタイムマシンと捉えるとモノの見方も変ります。

距離の移動の旅は間違っても後戻りが出来ますが、時間旅行は後戻りが出来ません。タイムマシンを深く考えず、いい加減な装置にしてしまうと、取り返しがつかなくなります。

子供の数だけ部屋を造ってそこに押し込めば、勝手に勉強して立派に育つと考えるのは親の妄想です。小学生の頃は無心に親の云う事に従った子供も、自我の発達に伴い云う事を聞かなくなります。独立した自分だけの城を自我の発達が未熟な段階で、やみくもに与えてしまうと、自我の暴走を止める手段がなくなり、とんでもないモンスターを作り出す結果となります。最近話題になるイジメ問題の奥深い原因の中で、家の間取りが関係していると考えます。時間旅行する為の装置の欠陥です。

要求が満たされない事が起こると、リビングの戸をビシャっと閉めて自室に閉じこもります。気の強い子は自分の考えを正当化しようと、他人を攻撃します。気の弱い子は現実から逃避する為引き篭もりを始めます。人間が成長する過程で避けては通れない道を、自室があると云う事で回避出来るのです。これは、問題に正面から立ち向かう勇気と行動の発達を自室が阻害していると言い換える事も出来ます。

高いお金を掛けて、何十年も時間旅行をする為のタイムマシンを造るのですから、他人に委ねる事無く自分で解決策を見出さなくてはなりません。耐震性能や温熱性能と云った数値で表せる工学的要素の住宅は、建築技術者に希望する数値を要求すれば、それで済みます。
数学的要素は意外と簡単に解決できますが、本人のライフスタイル・家族関係・ライフサイクル等は本人が一番良く知っている事柄は、100点満点が取れない国語的分野の問題であると云う事です。

東日本大震災以降、家造りの決め手と言えば耐震性能だったり、省エネ性能ばかりが誇張されています。それらの性能は疎かにするものでは決してありませんが、それだけでは快適な時間旅行とはならないと云う事です。

旅の途中では、苦しい事や辛い事も起こりますが、後になれば楽しい思い出となるような旅(家造り)にしたいものです。

この記事を書いたプロ

福味健治

建築主の思いを形にする注文住宅の専門家

福味健治(岡田一級建築士事務所)

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