強風と金属屋根の音鳴り
1000年持たせるには強度と耐久性が要求されます。強度に関しては地盤の性能も加味されますから、土地の過去の履歴を調べて1000年以上変化の無い場所を選定することでしょう。但し断層帯直下は10000年単位の周期で動く断層もありますので安全とはいえません。1970年に大阪万博が開催された年に、松下電器(現パナソニック)が大阪城公園内の天守閣の南方に5000年先の未来の人間に宛てた金属製のタイムカプセルを建造しています。タイムカプセルは建造物の範疇から外れますので、地震時の考慮は不要ですが、建物となると上町断層帯直下の上町台地では不安です。
1000年以上前の建造物で現存しているのは世界的にみれば幾つもあります。法隆寺・万里の長城・ギリシャ神殿・コロッセオ・エジプトのピラミッドetc思いつくだけでもこれだけあります。
素材としては木と石になりますが、建設地を日本に限るとしたら、重量の思い石は建築素材としては不向きです。木も維持管理を継続しなければ1000年持たせるのは難しいでしょう。法隆寺は1000年以上持っていますが。年中メンテナンス工事をしています。法隆寺と同世代に建設された巨大寺院はことごとく倒壊しています。
では実績は無いけど近年開発された素材はどうでしょうか。
タイムカプセルに使用した合金で家を造ることはどうでしょう。金属は引っ張り・圧縮・せん断等外部から働く力に対して重量比で換算すると木に次ぐ強度を持っています。(重量比で換算すると鉄より木の方が強いです)堅さに関しては木を凌ぎますから、接合部を剛接することが可能で、木よりも軽快な架構を組む事もできます。欠点は熱に弱いことです。耐火被服を怠れば、石膏ボード等に守られた木造建築物よりも早く倒壊に至ります。火災に弱いだけでなく、熱を伝え易い性質を持っていますので、断熱材が無ければ、熱くて(寒くて)住めないでしょう。真夏に下手に壁に触れると焼けどします。また熱膨張率も凄まじく、歪みが大きくなり、建物全てを金属で造れば夜明けから夜更けまで、あちこちで「パキン」「ポコン」と音が鳴り止まないでしょう。
同じく近年の素材として鉄筋コンクリート造があります。コンクリートは強アルカリ性ですので、中の錆び易い鉄筋を保護します。コンクリートは圧縮力には強いですが、引っ張り力にはめっぽう弱い素材です。その引っ張り力に中の鉄筋が抵抗してくれているのです。鉄筋とコンクリートの相性は非常に良く近年建造物の素材として最も多用される要因となっています。
しかしこれも1000年と云うスパンで考えるととても持ちません。コンクリート表面は常に空気中の炭酸ガスに晒されて、アルカリ分が中性化していきます。中性化する速度は空気の汚染の激しい場所ほど激しく1年に1mm程度の速さで中性化が進みます。鉄筋は表面から4cm程度中に入ったところにありますから、40年経てば鉄筋は錆び始めます。一旦錆び始めると鉄筋の体積が膨張して、コンクリート表面に亀裂が入ります。その亀裂から雨水が浸入して腐食が益々進んで行きます。
現在鉄筋コンクリートの寿命は人の寿命と同じ程度といわれています。
本題に戻りまして、1000年後も丈夫なままの家ですが、1000年持たせる事にどれ程の意味があるのでしょうか?
人の寿命は80年前後です。何世代も住む家は理想です。私もそう云う家造りを目指しています。でも目標としているのはせいぜい200年です。
イメージして見てください。今から1000年前の家はどの様な家だったのでしょう。平安時代の藤原摂関政治の真っ只中の庶民の家です。雨露はしのげたでしょう。入り口は扉ではなく筵が暖簾の様な状態で吊ってあったでしょう。窓も板戸です。閉めれば暗く、開ければ外気が直接入り込んできます。一間で生活の全てを行っていたでしょう。風呂に入る習慣があったかどうか定かではありません。付近の家が流行の最先端の家が立ち並ぶ中、1000年前の家をご先祖様が残してくれているからといって、そこに住めるでしょうか?多分住んだなら変人扱いされるでしょう。
構造躯体に関する部位は頑丈に造って、維持管理も簡単に行えて、世代交代してもその時々の間取り構成・ライフスタイルに対応出来る可変性を持ち合わせている、家は出来ないものか?と云う趣旨であれば、大手のハウスメーカーや、中小の工務店グループが協調して長期優良住宅を研究しています。200年持つ事を目途にして開発が進められています。